3014号室
文字数 586文字
パイの部屋に戻ると、ちょうどパイは出勤前の準備をしているところだった。オレの成りを見たパイは、野太い悲鳴を上げた。
「あらやだ! なんなの一体! 何が起きたのアイン! これ、誰の血なのよ!」
「パイ……」
オレは慌てふためくパイを見上げた。
「コイツ、ポンコツだな」
「えっ?」
「この義体、ポンコツだっつってんだよ」
「なっ! それにどれだけ技術をつぎ込んだと思ってるのよ! 最高級品よ! 何言ってるのっ?」
憤慨するパイに、オレは眉間に皺を寄せて言った。
「ポンコツだよ! どんなに悲しくたって、涙の一滴も出やしない!」
「あ……アイン………」
さしものパイも、そう言ったっきり絶句した。
ほら、ポンコツだろ? オレが言った通りだ。
「……帰る」
「………」
パイが棒立ちになって見守る中、オレは義体を納めるケースが並んでいる部屋へ向かう。
皇女が無事に家族に会えたのかとか、シムーさんからの報酬がどうとか、今はもうどうでもよかった。何か言いたげだったウララさんも放ってきてしまった。
ただ、猛烈にオゼンの顔が見たかった。
オレは、あんなことがしたかったわけじゃない。
あんな……惨いことが………。