3014号室

文字数 586文字

 すさまじい様相になっているのは自覚があった。だから、警備の人に頼んで裏からマンションに入れてもらった。手を洗い、顔についたハトの血はぬぐったが、白いTシャツを染めた血はどうにもならない。

 パイの部屋に戻ると、ちょうどパイは出勤前の準備をしているところだった。オレの成りを見たパイは、野太い悲鳴を上げた。
「あらやだ! なんなの一体! 何が起きたのアイン! これ、誰の血なのよ!」

「パイ……」
 オレは慌てふためくパイを見上げた。
「コイツ、ポンコツだな」
「えっ?」
「この義体、ポンコツだっつってんだよ」
「なっ! それにどれだけ技術をつぎ込んだと思ってるのよ! 最高級品よ! 何言ってるのっ?」
 憤慨するパイに、オレは眉間に皺を寄せて言った。
「ポンコツだよ! どんなに悲しくたって、涙の一滴も出やしない!」
「あ……アイン………」
 さしものパイも、そう言ったっきり絶句した。
 ほら、ポンコツだろ? オレが言った通りだ。

「……帰る」
「………」
 パイが棒立ちになって見守る中、オレは義体を納めるケースが並んでいる部屋へ向かう。

 皇女が無事に家族に会えたのかとか、シムーさんからの報酬がどうとか、今はもうどうでもよかった。何か言いたげだったウララさんも放ってきてしまった。
 ただ、猛烈にオゼンの顔が見たかった。

 オレは、あんなことがしたかったわけじゃない。
 あんな……惨いことが………。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み