3
文字数 1,227文字
アキラくんのことを知るのは、私と柴田さんだけ。その柴田さんも、独りでいるとまたおかしくなりそうだから、と先日アパートを引き払って実家へ帰ってしまった。
目黒さんとの一件で、なんだかミユとも疎遠になってしまった。悪い子じゃないのだけど、打算的な性格に付いていけなくなったのだ。
今日も遅くなっちゃったし、コンビニ寄ってから帰ろうかな、と、駅に近いコンビニに入ろうとしたら、足元をタタッとネコが横切っていった。見るとはなしにネコの姿を視線で追うと、白い……小柄な人影が……。
「え? アキラくん?」
駅前の人混みの中、遙か先を闇に溶けようとしている後ろ姿。慌てて後を追う。人を避けて視線を切る内、姿を見失ってしまったけど……この方向は、あの児童公園へ続いていく。
胸がドキドキするのは、走っているからだけではない。アキラくん、戻ってきてたんだ?
角を曲がると、街灯の下児童公園へ入っていくアキラくんの横顔がしっかり見えた。
ああ、やっぱりそうだ。
公園の出入り口まで行くと、奥のベンチまで見渡せた。アキラくんに声を掛けようとした私は、ベンチの人影に息をのんだ。ベンチの真上の街灯に逆光になる形で大柄な人が前かがみに腰掛けている。アキラくんはその人に何事か話しかけている風だった。
「!」
ゆらりと立ち上がった人影はアキラくんの頭一つ分以上高く、バランスの取れた締まった身体は190㎝近くありそう。人影が顔をあげたので、私と真向で目が合ってしまった。サイドを短く刈り上げたツーブロックに精悍な顔立ち……。遠目から見ても、ドキッとするほどカッコいい人だ。彼の視線がこちらに固定されたので、アキラくんも振り返る。
「あれ? ウララさん?」
聞きなれた声よりもワントーン柔らかい優しい声。でも、街灯に照らされた屈託のない笑顔は変わらない。
「お仕事帰りですか?」
あの時と同じ。でも、こちらに駆け寄っては来ない。
背の高い人がアキラくんに目配せすると、アキラくんは頷いてこちらに手を振って背を向けた。背の高い人は、こちらに軽く会釈をするとアキラくんと二人、仲良く連れ立って歩き去っていく。
え? ええ? アキラくん、誰? その人。紹介もしてくれないんだ?
私はただ茫然とその後ろ姿を見送るしかなかった。声を掛けられる距離でもなくなってしまい、諦めてその場を去ろうとした時、私、信じられないものを見てしまった。
アキラくん、イケメンさんに抱き寄せられて、チュッってされてた! チュッって!
2度見したわよワタシ。……勿体ない。アキラくんて、やっぱりそっちだったんだ。
そりゃあ、私がゴリラであろうがなかろうが、射程に入らないわよねぇ……。