文字数 1,093文字

 支度室からフロアに出る。高級感漂う深いブルーブラックで統一された設えに、淡い間接照明。天井と壁にはプロジェクターで夜空が投影され、バックには低くピアノ曲が流れている。ボックス席は、座ってしまうと隣の様子は全くうかがい知れない配置になっていた。

 ボックス席の一つに案内されると、ウララさんが2人のホステスに挟まれて座っていた。オレの顔を見て、一方のホステスが席を空ける。そこに座れってことか、と察した。

 ウララさんは目をまん丸くしてオレを見上げていた。
「ええっ? アキラくん? 可愛すぎー」
「……おかしくない?」
 程よい硬さのソファに掛けながらウララさんに印象を聞く。自分の判断より、ここは高等生物本人に評価してもらうべきだ、と思った。ウララさんはブンブンと顔を横に振った。
「全然女の子。いや、完全に『男の娘』? まぁいいわ。私の立つ瀬がないのは変わらないもの」

「あらあら、ウララちゃんだってカワイイわよ」
 反対隣に座っていたホステスが、ぼんやりと光っている正体不明の飲み物をストローで吸い上げた。
「ウララちゃんとお知り合いなんてステキね。現役の時応援してたのよ。こうして直にお会いしてお話しできて、ホントに嬉しい。興奮するわ」
「オレも最近知り合ってその話聞いたんですよ。可愛くて強いってスゴイですよね」
 まぁ確かにウララさんは他の雌に比べれば、ゴツ目? でも、そんなこと別に重要でも何でもない。見た目なんて、どうにだってなる。そう、今のオレみたいにな。

 今夜は律子さんに「会わせたい人が居るから来い」と言われたのだった。ついでにウララさんも連れてこいって。どう言うことなんだか分からないが、撮影OKってことはオレ等の仕事がらみなんだろうと思う。

 隣のウララさんは、ホステスと一緒に話題の化粧品の話をし始めた。ワイヤレスイヤホン型フォーカスから届く信号は、3Dカメラが問題なく稼働していることを示している。ウララさんとホステスの話を聞き流しながら、いつの間にか目の前に置いていかれたカクテルをマドラーでかき回していると、視界の隅に律子さんが入った。顔を上げると、律子さんがジェスチャーで付いてくるように促す。

「ごめん。呼ばれたみたい。ウララさん、楽しんでてね」
 オレは立ち上がると、もたつくドレスの裾に辟易しながら律子さんの後に続いた。

 律子さんは、あるボックス席の前で立ち止まった。先程ウララさんがいたボックスの倍くらい広い。奥に座っていたロマンスグレーの実業家風の男性が右手上げて挨拶をした。
「シムーちゃん、連れてきたわよ。この子が、アイン」
 律子さんの紹介に、オレは目を剥いた。 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み