第26話 いつまでも変わらない

文字数 1,420文字

 5月になった。先月から勤務時間を半分以上減らした。もう年齢的に疲れるから。
 元々週3日の3時間勤務だったのだ。周辺業務だったのだ。人手が足りなくて、見るに見かねて手を出してしまったのが良かったのか、悪かったのか?
 
 6年が過ぎたが相変わらずだ。新年度がひと月過ぎた日の衝撃。1年頑張った二十歳の女性が今月は休むそうだ。ようやく常勤の人数が揃えば、いつもこうなる。体調が悪いらしい。今まで休んだことも遅刻したこともなかった。ひとり暮らしで頑張っていたのに。新人には家賃がまるまる補助が出る。このまま退職…‥なんてことになったら……? 
 うちの施設は男性が育児休暇も取っている。ばあさんの知る限り2人いたが……復帰して、やがて辞めていった。

 入浴介助している新しく入ったパートがショートステイに移動した。保育園児のいる母親はよく休んだ。仕方ないと言えば仕方ないが、周りのものは迷惑だ。当てにできるパートが欲しい。痛み止めを飲んで働いている常勤もいる。風当たりは強くなる。
 彼女は施設長に相談したのだろう。資格を取るために辞めるわけにはいかない。図々しく頑張れ! とばあさんは助言したが。

 そんでもって、リーダーに言われた。入浴介助をふたりできないか? と。
 体がきついから勤務時間減らしたんですが。結局は、ばあさん頼み、ですか? 

 今までは5時間勤務で入浴介助がふたりか3人。それが3時間でふたりの介助? ほぼ同じ仕事をして、給料が減るだけではないか? 10時には、お先に〜と帰るのだ。何時から始めろと?
 
 風呂の用意が大変なのだ。最近、毎回浴槽の下の板まで外して掃除することになった。浴槽は移動するのだ。右からでも左からでも真ん中からでも入れやすいように。移動させるのには力がいる。ここがいちばん腰に気を使う。痛めたら辛いのなんの……面倒くさいから労災にはしないし。

 以前はそういう大掃除は年末だけだった。排水溝が汚いから、と毎回全て外して掃除をすることにユニット会議で決まったそうだ。入浴介助はほとんどパートがやっている。年寄りのばあさんにはなにより大変な仕事なのだ。しかし毎回やる必要があるのか? 月に1度でいいのでは? そのため以前より入浴開始を早めた。朝の9時前から風呂に入れられて……喜ぶものもいるが。

 すぐ近くにまた施設を建てている。入りたい人は山ほどいるが、働く人はいつまで経っても足りないんです。いつかは超勤もなくなって、休みも取れるだろう、と。そう思って頑張っているけれど、そんな人たちが疲れて体を壊して、神経を病んで辞めていった。
 
 入居者さんは相変わらずだ。ネコヤナギさんは相変わらずティッシュを配る。気に入った女性の入居者に配る。唯一ネコヤナギさんが人にあげられるもの。唯一の楽しみ。それも取り上げられた。そばに近寄ると注意される。配らないでください。感染症がはやってますから。

 100歳のカリンさんは相変わらず廊下に出ていく。行かなければならない所があるらしい。エレベーターの前から離れない。まだ自分でスプーンで食べストローで飲んでいる。完食している。

 わめくアズサさんの足浴は終了になった。よかったぁ。大変だった。どうか再発しませんように。暑くなれば再発するだろうな。これからは足浴する人が増える。誰が洗うのだ? そのうち言うのか? 足浴10人できますか? なんて。

 さて、明日の予定表はどうなっているのやら?




 
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登場人物紹介

私。ときどき、自分のことをばあさんと言う。介護施設で短時間働いている。職場で感じる不条理を綴る。決して口には出さないが。

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