第38話 昨今の状況は……

文字数 2,414文字

 昨日は新しく入った、息子より若い男性職員と一緒だわい、なんてワクワク出勤したらお休みだった。奥様がPCR検査を受けたので結果が出るまで休み……結果次第ではもっと休み。

 ばあさんの娘と孫も熱を出したが、医者に電話しても診てくれない。ばあさんは準備万端、検査キットと解熱剤をちゃんと買っておいたので旦那に取りにこさせた。晩御飯のおかずも。
 ところが2回検査しても無効で出てしまう…… 唾液が足りないのか、貴重な検査キットなのに。結局陰性だったが。またネットで頼んでおいたが結構高い。
 じいさんが同じ職場の家族がコロナにかかったので、検査キットを持って帰ってきた。こちらのは倍以上大きい。性能が違うのか? じいさんも陰性だったが、どこも仕事が滞る。

 亡くなったヒイラギさんの部屋に新しい方が入っていた。入居して3日間は居室対応。食事も全介助だから大変だ。職員は全員の食事が終わってから部屋で介助していた。ばあさんは入浴介助がふたりなので余裕はない。入浴も予定表ではひとりなのに、その日になると2人に増えているのはなぜだ?

 90歳過ぎたカイドウさん。おしゃれな方だ。いつもロングスカート、ブラウス、サマーセーター。ハンガーにブティックのようにセットアップしてある。数十年前のものだろうが高かっただろう。下着もソフトなブラジャーにペチコート。これもちょっと破けてたりするが。
 着替えはご自分で用意する。いつも下着だけ。洗濯機では洗えないような服だ。ばあさんは知らない。洗濯してるのか? 聞くのが怖い。でも今度聞いてみよう。確か娘さんはニューヨーク。息子さんとは電話で喧嘩をして切られたり、携帯料金を払わなくて止められたりしているらしい。息子にはわからないだろうな。服も下着も洗濯機で洗えるものにしてほしいのだ。

 朝食の時、隣のユニットを手伝っていた。コデマリさんが食事中に尿意か便意を催したらしい。この頃は入浴中でもある。浴室の隣がトイレだが、バスタオルを巻いた、あられもない格好で飛び込む。死角で見えないからいいが、カメラは設置してある。
 以前、車椅子から突如立ち上がり突進し、トイレの壁に激突し倒れ骨折した方がいた。ばあさんは働き始めたばかり。配膳していた。ネコヤナギさんが大声で教えてくれたがどうにもできなかった。職員は離床に行っていた。カメラがしっかり捉えていた。これは……ばあさんの責任か? 

 リビングには催したコデマリさんの他に8人が座っていた。
コデマリ「ちょっと、トイレ行ってきます」
○○職員「そういうことは大声で言わないでください」
コデマリ「は?」
○○「食事中はそういうことは大声で言わないでください。部屋に行くって言えばわかりますから」
 コデマリさんは耳も良くはないので、なにを言われたのか意味がわからなかったのではないか?
 8人の中でコデマリさんのトイレ発言が聞こえた方には意味がわからない。意味のわかる方は耳が遠いので聞こえていない。○○職員は何事もきちんとしないと気が済まないようで、大事になり怒らせてしまう。
 
 ユニットでは「トイレ」等の言葉を大声で言ってはいけないのだ。最初の頃、ばあさんは知らないで、
「カリンさん、おしっこ?」と聞いてしまった。若い職員がすっ飛んで来た。
「今のはいけません」
 ずいぶん雰囲気が変わってしまった。
 ○○さんのような職員は減った。人手不足なのだ。工程は省かれる。SKのドアは開けっ放し。開けたドアに大きな字で「締めましょう」と貼ってあるが無視されている。よく使う場所だからいちいち開け閉めしていられない。
 SKとはスロップシンクの略称。キッチンや洗面台では扱いにくい汚れ物を洗ったり流したりする。(TOTOの製品の定番がSKであることに由来している)
 汚物を入れておくバケツでさえも蓋を開けっ放しの職員がいる。
 クリーンルームの汚物を流さない。こびりついている。
 パットの袋が満杯になっても変えない。
 そんな時間ないもん。
 キッチンのとろみ剤(顆粒)の蓋も開けっ放し。これはシケってしまうのでは? ばあさんは嫌がらせのように閉めてやる。
 薬を入れておく棚はいちいち鍵をかけなければならない。職員のピッチにはその鍵がついている。パートのばあさん達は共用の鍵で開けて薬を出す。でもね、これがわかるのだ、ちゃんと閉める職員、閉めない職員。
 いちいちやってられません。入居者さんも、もう開けてしまうような歩ける方はいないから。

 以前、カリンさんはキッチンに車椅子で入ってきて、炊飯器を触ったりするので危険だった。包丁、ハサミの管理もきちんとしていた。隣のユニットのサカキさんは最初の頃、台所洗剤を部屋に持っていってしまった。しばらく誰も気がつかなかった。口に入れたらどうなっていたか? 
 洗剤、ハンドソープ、漂白剤の詰め替え用の大きなボトルの置き場所が、いつのまにかスタッフルームの床の上になっている。以前は戸棚の中だったはず。戸棚の前にはものがたくさん積み上げてあって開かない。仕事は楽な方に流れていく。
 そういえば、以前、米を研ぐボールが見当たらなくて、誰かが部屋に持っていってしまったのかと探したが見つからなくて、しばらくしてから、開けない冷凍室で見つかった。誰がやったのか? 職員が居室に入ってしまえば防ぎようがない。今は自走できる者は少ないが。

 この間の日曜日は入浴介助がなかったので時間が余った。久しぶりに車椅子を洗った。(洗わされた)浴室で丸洗いする。食べ物がこびりついている。恐ろしいくらい、浴室の床に汚いものが……
 以前のリーダーは洗う順番を細かく表にして貼っていた。でも、辞めてしまった。気にしないくらいの性格のが仕事は長続きするのだろう。
 車椅子を洗うのは、周辺業務の仕事ではないらしい。ばあさんより若い、時給9円しか違わないパートは浴室に入ったことがないという。









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登場人物紹介

私。ときどき、自分のことをばあさんと言う。介護施設で短時間働いている。職場で感じる不条理を綴る。決して口には出さないが。

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