第48話 出た

文字数 1,538文字

 朝出勤すると、スタッフルームが騒がしかった。夜勤が早番に話していた。
 怖いとか、今夜も夜勤とか、どうしようとか……
 お盆だしね……

 ちょっと意味不明なので聞いてみた。
 人によっては、
「記録に書いてあります」
と、けんもほろろになるから、あまり聞かないのだが。

「出た!」らしい。

 ときどき出るのは聞いていた。
 霊感の強い夜勤さんは見るらしい。

 モニターにも白いものが映っていたと言う。
「見る?」
と聞かれて遠慮した。
 怖いわけではない。時間がない。
 それに、そういうものは信じていない。
 でも、施設で亡くなった方なら怖くない。会いたいくらいの方もいる。

 しかし、子供? だって。
 同じ階のショートステイの女性3人が、子供を見たという。ショートステイの方は比較的しっかりしている。

 子どもの幽霊?

 この施設は以前は団地だった。そこで、なにかあったのだろうか?
 呪怨……や、クロユリ団地……

 三十代の女性の夜勤さんは、今晩もまた夜勤だという。7時半過ぎに施設を出て、夜の9時前にはまた来なければならない。
 帰っても、眠れない、という。医者に入眠剤をもらっている。
 この間はそれを飲んでもなかなか効かなくて、起きてもぼーっとしていて、車を運転するの怖いからと休んだ。
 
 早、遅、夜勤のリズムを取るのが難しい。いっそ、夜勤だけにしようか、なんて話していた。
 独身で、すでにマンションを購入済。ところが、管理費が上がり、返していくのが大変らしい。だから、夜勤を増やしている。
 この先何十年? 給料は上がるのか? 老後はどうなるのか?


 
 今日、連れ合いが病院に検査に行き、置いてあった介護付有料老人ホームのパンフレットをもらってきた。

 父が数年前お世話になっていた4人部屋の施設。今では家賃、管理費、食費で22万円。その他に介護保険サービスの自己負担額。
 こちらは1割負担なら、3万円くらい。それにパット、その他……理美容等。
 4人部屋で、この金額。平均的な年金では到底払っていかれない。

 父がこの施設に2年間入っていた。入居時に200万円前金を入れて、月々合計で16万円だったような。
 そのプランも載っていた。しかし、2年で亡くなれば前金は戻ってはこない。
 4人部屋は、隣のテレビの音が大きかった。あの音量は自分だったら耐えられない。
 父はほとんど寝ていた。食事もベッド上。おむつ交換は日に、数回。
 タンスの中の洗濯物は他人の物も。名前を書いても……?
 
 私が働く特別養護老人ホームだと、15万円くらいでひとり部屋に入れるようだ。(収入により介護保険サービスの負担額は変わる)
 しかし、介護度3以上。入居希望者は多いから、すぐには入れない。

 マサキさん(男性)は医者だった。ニューヨークでも働いていたらしい。横柄で足浴させていた時は苦手だった。
「首にしてやる」
と叫ぶ。
 家族が面会に来ていた時は、「おとうさま」と呼ばれていたらしい。
 この方の介護保険サービスは3割負担だ。以前、入居していた、土地持ちの方も3割だったそうだ。
 それでも、民間の施設に入れるよりは安いのだろう。
 

 連れ合いは特養なら年金で入れそうだが、私は? 
 子供たちに負担させてしまうだろう。
 父は職人で年金が少なかったので、自分も姉と負担していた。まだ、子供に金がかかる時だった。自分のパート収入の3番の1が……(2年で済んだが)

 自分が介護を受ける頃、介護従事者はどうなっているだろう?
 近くに特別養護老人ホームを建てている。もうすぐオープンするが……職員は募集していたが集まったのだろうか?
 うちの特養も人手が足りなくて、5階の2ユニットは数年間、閉めたままだった。
 今でも人手はギリギリ。ひとりが休めば超勤になる。
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登場人物紹介

私。ときどき、自分のことをばあさんと言う。介護施設で短時間働いている。職場で感じる不条理を綴る。決して口には出さないが。

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