第18話 パートはうまく使え

文字数 2,273文字

 施設がオープンした時、パートは大勢いた。大勢募集し採用したのだろう。3日間の研修で一緒だった人のうち、何人残っているだろう? 
 同じユニットの若いパートには幼稚園に通う子供がいた。子供は母親が働き始めると具合が悪くなる。そういうものなのだ。幼稚園から連絡があり早退をする。それが何度か続くと若い男性リーダーは顔に出した。言葉に出した。
「もう、帰っていいよ。いたってしょうがないだろ!」
冷たいお言葉。結婚はしない主義だとか。若いパートはロッカーで泣いていた。そして別の階に移っていった。

 この間、新しく入ったパートも2日目に休んだ。コロナで保育園が休園。しかたない。当てにはしていない。
 古株のナースは日曜日、幼稚園児の息子を連れて来ていたことがある。見てくれる方がいなかったのだろう。iPadを持たせ、おとなしくしていたが……浣腸させるとき、どうしても入居者さんの部屋に一緒に入るときかなかった。

 Cユニットのパートは、オープンしてすぐに、ばあさんひとりになった。研修で親しくなったEさんが、同じ階のフレックスになった。フレックスとは、パートが休みのユニットの手伝いをする。だから4ユニットの入居者の食事形態を覚えなければならない。4ユニットの職員さんとうまくやらねば……ばあさんには無理だ。ばあさんが仕事の日はCユニットには来ないから一緒に働いたことはなかった。

 Eさんはよく愚痴をこぼしていた。フレックスだからどのユニットの所属でもない。宙ぶらりん。Bユニットの飲み会に誘われなかった。皆ニックネームで呼んでいるのに自分だけは違う……辞めたい。辞めたい……
 誘われない方が気楽でいいじゃない。若い人たちじゃあるまいに。それに、ニックネームで呼ぶのはいけないんじゃ?
 うちのユニットの男性が、無視したって? 時間だから、帰ります、と言っても、お疲れ様も言ってくれない……
 Eさんとはメールをしていたので愚痴愚痴愚痴。その男性職員さんは熱心で、入浴介助の難しい人がいると、家で奥さんで練習してきたからと、他の職員に教えていた。ばあさんもじいさん相手に家で移乗介助をやってみた。
 この男性職員はサイボーズの見方を教えてくれる時、ばあさんの顔を1度も見なかった男だ。ずっと見ていた若い女性はすぐに辞めた。やがて資格もなしに頑張るばあさんに一生懸命教えてくれるようになった。汗ダラダラでシーツ交換もしていた。入居者さんの靴まで洗っていた。今いる職員は洗わない。前向きな職員だった。しかし、辞めて行った。ケアマネの資格があるので他所へ行った。

 EさんはそのうちBユニットの誰々が気まずい、口をきいてくれない、辞めたい……と愚痴愚痴。
「辞められたら、困ると思うよ。パートは少ないんだから。こっちのリーダーに相談したら? Fさんだってネコヤナギさんが嫌で、移動させてもらったし」

 そうしてEさんはリーダーに話し、ばあさんと同じCユニットの所属になった。
 しかし、友人とは共に仕事をするものではない。Eさんは4ユニットの配膳と洗い物をしていたが、いざこっちの所属になると……いい加減。遅い。おしゃべり。Eさんの方がばあさんより若いのに、勧められても介護職にならなかった。怖いから、と。周辺業務のみ。それは賢い選択だが。
 ジトーっと流しにへばりついて洗い物をしている。食洗機があるのに、洗剤を付けて丁寧に洗っている。こっちは全部貯めてざっとゆすいで食洗機におまかせだ。数分で終わらせる。
 しかし、誰も何も言わない。ずっとそうしてきたのだろう。空いた器を下げにも行かない。下げるのは職員だ。猫の手も借りたい職員だ。ずっとそうしてきたのだろう。そして、米を研がない……? 
「お米研いでくれるとありがたいんだけど」
「爪が……ささくれが……」
それで今まで済んできたわけ? 誰もやれとは言わなかったのか? ビニールのグローブをはめてやればいいじゃないか? 4ユニットのフレックスとはこういうものなのか? 当てにしない。当てにされない。いないよりマシ? 
 キッチンのゴミ箱を廊下に出すのだが、リビングの屑籠はあふれたまま。
 気が回らない。茶葉や洗剤が少なくなっても補充してない。職員が猛烈に忙しい時、そのペースでご丁寧に洗い物をして、米も研がないんじゃ、ご苦労さまも言ってくれなくて当たり前じゃ? 

 時給はたいして変わらない。Eさんは夕方も働いているので賞与も出る。いっとき不満が溜まったが、短時間の仕事、忙しい方がいい。

 資格あり、経験なしで入ってくるパートが多い。1度に教えようとして失敗したらしい。数日で来なくなった。電話はご主人からかかってきたという。そのうちご主人が荷物を取りに来て辞めていった。それは教訓になったようだ。リーダーも若かった。
 そのあとは丁寧に教えている。上から言われたのだろう。しかし、丁寧すぎないか? ばあさんは1度見学しただけで入浴介助させられたが。

 後に入ってきたフィリピンの女性のGさんは週3日の短時間勤務だった。パートが潤っていた時だ。Gさんはモップで床を拭いていた。2ユニットの広い面積。腰が痛くなりそう……運動だと思ってやればいいが、根を上げるのでは?
 Gさんは施設長に文句を言いにいったらしい。別の階に移動になった。ロッカーで時々会う。元気そうだ。今のユニットはこっちと違って優しいという。それにしても、皆、不満を溜めておかない。羨ましい。ばあさんはひたすら我慢した。我慢すればイヤな人は辞めていく。いい人まで辞めていったが。

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登場人物紹介

私。ときどき、自分のことをばあさんと言う。介護施設で短時間働いている。職場で感じる不条理を綴る。決して口には出さないが。

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