第42話 久々のユニット

文字数 1,683文字

 2ヶ月ぶりに仕事に復帰した。復帰といっても朝2時間。それを週に3日間。
 久々に皆に会うのだ。マスクをしているとはいえ、老けたなあ、と思われたくはない。髪を染めブローしていった。今までは入浴介助でペタンコになるので構わなかったが。(誰もばあさんの顔など見ないのだが)

 初日は緊張した。休んでいる2ヶ月でひとりが胃瘻で退所していた。舌を出していた、なんとも言えず愛らしかった方。すでに新しい方が入居していた。
 隣のユニットでは孤高のトネリコさん、マンサクさんに、ほの字だったトネちゃんが亡くなり、やはり新しい方が。
 それにイチイさんの認知が進んでいた。プライドが高かったが、何度か入院し、もう、文句も言わなくなった。リフト浴で魚みたいに網で釣り上げられるなら、シャワーでいいと言っていた。トイレ介助も男性職員だと呼ばずに転んでいた方だ。

 マンサクさんは何度も熱を出し、その度居室対応。何度も抗原検査をしている。昨日も夜勤の職員が咳を思い切り浴びたので、コロナだったらやばい、と話していた。認知のある方にマスクをして壁側を向いていろといっても無理な話だ。
 休んでいる間にコロナの感染状況のメールが頻繁にきた。今はやっと落ち着いている状態。入居者は面会も外出もできないのだから感染は職員からしかない。ロッカーもエレベーターも分けられ、ユニットの廊下のドアも閉められ、玄関もいちいち施錠。キッチンやスタッフルームの窓は開けているので、行ったときは寒い。動いていれば半袖で大丈夫だが。これでは今まで使わなかったユニフォームの上着を着ていた方がいいかも。
 リビングの窓も定期的に開けるので入居者が寒がる。文句を言う人は僅かだが。

 ネコヤナギさんは誤嚥性肺炎で入院したので、ソフト食に変わっていた。ゼリーのようなおかずにお粥。食べることだけが楽しみだったのに。飲料も糖尿があるとかで、1回100cc。足りなくて、もっと欲しがる。ばあさんを覚えていてくれたのは嬉しいが、何度も「おうっ」と呼ぶ。

 職員の入れ替わりもあった。几帳面で仕事の速い職員が異動になっていた。
……忙しいのはわかる。大変なのはわかる。ばあさんは、たかだか2時間の周辺業務に変わったパート。腰を痛めたので入浴介助は外してもらった。あの痛みはもうごめん。時給が8円ばかり安くなるが……8円ばかり。

 隣のユニットから戻ると、流しに食器もお盆もエプロンも山になっている。もっと置きようがないのか? 洗い物まで余裕でしていた職員もいたけど……まあ、文句は言うまい。
 クリーンルームへ行けば……汚物を流すシンクがあるのだが、流していない。なぜ流さない? 手をかざせば感知してくれるのに。時間が経つからこびりつき、誰もこすり落とさないから、ますます落とすのに時間がかかるではないか。異動になった職員はぶつぶつ文句を言いながらやっていたな。今は注意をする人がいないようだ。怖くて注意できないのか? ばあさんもできないが。

 朝の7時から9時まで。家にいればゆっくり起きてゆっくり食事。実に優雅に勿体無く過ごしている2時間を動きっぱなし。いや、動いている方がいいのだ。じっとしていると足が痺れてくる。
 今の入居者さんは比較的楽な方達だ。食事介助がなくなった。100歳のカリンさんが1番大変だったが、食事以外はほぼ寝ているようになった。食事は介助なしできれいに召し上がる。刻み食に粥になったが。車椅子で廊下に出たり立ち上がって転んだり、しょっちゅうトイレに行ったりで、職員泣かせだった。介護度が増すと介助は逆に楽になる。ツゲさんは胃瘻なので、ばあさんがいる時間には寝ているのでまだ顔を見ていない。

 隣のユニットのコデマリさんは久々に会ったので喜んでくれた。なぜかテーブルにひとり……
「活気がないね」
と、ぼやいていた。もう、話ができる人もいないのではないか? 周りの者が認知が進んでいる。ユニットの入居者がいなくなる。亡くなった、とわかっているのは、コデマリさんくらいだ。マンサクさんも2ヶ月ぶりに会ったばあさんを覚えていないようだ。

 

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登場人物紹介

私。ときどき、自分のことをばあさんと言う。介護施設で短時間働いている。職場で感じる不条理を綴る。決して口には出さないが。

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