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文字数 1,330文字
「正義の味方」を僭称する奴らが、どれだけ独善的で狂信的な「正義の暴走」をしても……その暴走を止める真の正義は、まだ、かろうじてこの日本社会に残っている。
残ってはいるが……。
「あ……いちろう…か……。なんか……たいへんだったみたいだな……。うん。わかいときに、ちょいわるのともだちとつきあうのも……まぁ、あとでいいけいけんになるだろうが……ほどほどにな……。ほどほどほどほどどどどほほほほどどど……ほほほほほ……」
「お……お父さん、大丈夫? い……今……お薬持ってきますからね……」
何年ぶりだろう……?
親父とお袋が夫婦仲良く家でのんびりしているのは……。
でも、その事を少しも喜べない。
台所のテーブルには……
「あ……な……なぁ……深雪……。子供の事は……仕方なかったけど……子供なんて、また作ればいいじゃないか……な……。まだ、お前も若いんだし、優斗以外にも、いい男なんていくらでも……」
「○×△□∴∵ッ‼」
おい、何だ、このヒス女‼
優しいお兄様にコップを投げるんじゃ……うわあああっ‼
ん……どうした?
深雪は、ゆっくり立ち上がり……流し台に向かって……。
あ……まずい……包丁を取る気だ……。
殺される……。
だが……。
ざまあ見ろ、これが男と女の身体能力の違いだ。
妹のクセに兄貴の俺をずっと馬鹿にし続けやがって。
俺は深雪の背後から近付き……髪を掴み……。
まだ、深雪は包丁を手にしていない。
ああ、そうだ。俺は平和ボケした阿呆じゃない。自分の実家の中でも、いや、この状況では、自分の実家の中だからこそ、護身具は肌身離さず持ち歩いている。
俺は深雪の首筋にスタンガンを当てる。
「ぎゃあああああッ‼」
妹の悲鳴が……俺に、俺達の一家の状況を再認識させた。
地獄だ……。
俺の家は……地獄と化してしまった。
クリムゾン・サンシャインが姿を消す少し前……クリムゾン・サンシャインは「正義の味方」を詐称するテロリスト達が裏でやっている恐しい悪事について調べているらしかった。
そこで、俺達もクリムゾン・サンシャインの手助けになれば……そう思って行動を起こしたが……。
俺は奴らの陰謀で殺人犯の濡れ衣を着せられた。
妹の深雪と、その亭主の優斗は奴らによって拉致監禁され……その時に加えられた恐しい拷問のせいで、深雪の腹の中に居た妊娠3ヶ月目の子供は流産し、優斗は精神的にも肉体的にも廃人となった。
一家がそんな事に巻き込まれた結果……親父は……。
表向きは、親父が政治スキャンダルに巻き込まれるのを防ぐ為に、猿渡のおっちゃんが手を回して、少し前に潰れた暴力団「安徳グループ」の過激派の残党の仕業って事になっている。
だが……真実は……。
無力だ……。
俺は無力だ……。
家族が俺の助けを必要としている筈なのに……俺に出来る事は、ほとんど無い……。
俺は……どうすればいいんだ?