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文字数 1,383文字

『あの女が、例のミニコミ誌の編集長らしいんで、とりあえず、尾行してみます』
 仲間の徳永から送られてきた動画から、そう声がした。
 画面に映ってるのは、雑居ビルの玄関と、そこから出て来た三〇後半ぐらいの女。
「お〜し、ちゃんと家を突き止めろよ。もし子供が居たら……狙うのは、あの女じゃなくて子供だ」
『え〜、でも、あの女ぐらい俺が……』
「お前、熟女フェチだったっけ?」
『ぶちのめして拉致って自白(ゲロ)させるなら、あいつが一番って意味ですよ。って、何で子供なんすか?』
「おい、俺は、酒井と違ってロリコンじゃね〜ぞ」
『誰も聞いてないっすよ、そんな事』
「古川のおっちゃんみたいに、手荒に扱っても反撃しない女にしか勃たない訳でもね〜ぞ」
『だから、誰もんな事は聞いてないっす』
「家族を狙うのは、猿渡のおっちゃんが広域組対(マル暴)に居た頃に使ってた手だそうだ……。以前、一緒に飲んだ時に、ベラベラしゃべりやがった」
 猿渡のおっちゃんは、親父の選挙事務所の警備顧問だ。
 警備顧問なんてもっともらしい呼び方だが、正体は、よりにもよってヤクザと癒着してた事がバレで馘になった広域組対(マル暴)の元警官。
 癒着していたヤクザに、かなりヤバい情報を流してたんだが……その過程で警察の上の方の弱味を握り、表向きは「自己都合退職」で済んだらしい。……退職金も、ちゃんと出たそうだ。
 それを、俺の親父が「拾って」便利屋として使っている。
『え〜、でも……猿渡さん、それやって酷い目に遭ったんじゃないですか?……何でも、対異能力犯罪広域警察(レコンキスタ)の「レンジャー隊員」を、その手で脅そうとして……逆に対異能力犯罪広域警察(レコンキスタ)の連中から闇討ちされて大怪我したとか……』
「あのなぁ……『御当地ヒーロー』どもやヤクザやヤンキーじゃあるまいし、何で、警察がそんな真似やるんだよ?」
『じゃあ、何で、あのオッサン、四〇ぐらいなのにステッキが手放せないんですか?』
「護身用だろ……? あのオッサンに恨み持ってるヤツは結構……」
『いや、だから、この辺りのヤクザって「御当地ヒーロー」に一掃されたじゃないですか……。誰から身を護るんですか? 誰から?』
「ところで、これ……家に帰ってるのか?」
 画面に映ってるのは……西鉄久留米駅前の繁華街。
『帰りに……飲みにでも行く気なんですかねぇ?』
「あ……そもそも、こいつの家どこだ?」
『いや、だから、それを突き止める為に、俺が尾行してんじゃないですか』
「今気付いたけど……そいつが電車通勤だったらさ……」
『あ……あれ?』
 徳永が尾行していた女は……何故か交番に入った。
 そして、女と警官が交番から出て来て……こっち……つまり撮影している徳永を指差し……。
 おい、逃げろ徳永。
 撮影は、いいから、携帯捨てろ。それも車に轢かれて粉々になるとかの確実に壊れる捨て方で。
 あ、まずいぞ徳永。
 おい、やめろ通行人、そいつは善良な一般市民だ。中年女を尾行してた変質者なんかじゃない。
 だから、携帯を壊せ徳永。
 あ……ヤバい。俺達の事をゲロすんじゃねえぞ、徳永。
「おい、みんな……良く聞け……。俺達には、徳永なんて友達も仲間も同志も居なかった。判ったな」
「は〜い」
「よし、一応、携帯電話(ブンコPhone)の通話記録と、徳永とかいう良く知らないヤツから来たメールやメッセージは全部消しとけよ」
 そう言いながら、俺はMaeve(メッセージアプリ)のグループから徳永を削除した。
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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