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文字数 2,373文字

 何とか俺は自分の車に辿り着き……車載コンピュータを起動……。
 ああ、助かった。
 指紋認証で車載コンピューターを起動するタイプの最新モデルのEV(電動車)だったんで、昔の映画やドラマみたいにパニクって車のキーどこ行ったなんて事は……事は……。
 ああああ……。
 脱げない……。
 脱げない……。
 指紋認証しようにも手袋が脱げないないない〜ッ‼
 たたたた助け……ん?
 何で、警官が追って来な……ああっ⁉
 そいつは……今の俺に似た姿をしていた。
 悔しい事に、俺と違って腹は出てないし……体型もスマートだ。
 ライダースーツを改造したらしい服に……バイザーがミラーグラスになってるフルヘルメット。
 だが……。
 今の俺と逆な点も有った。
 身に付けてるモノは全て……黒一色だった。
 新手の「正義の暴徒」か?
 しかし、黒一色のコスとは、中二病な奴も居たもん……あ……。
 そいつの足下には何人もの警官が倒れていた。
 おおおおお俺を警官から助けようとした訳じゃなさそそそそそ……。
 落ち着け。
 落ち着け。
 落ち着け。
 俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。俺、落ち着け。
 俺は落ち着いてるぞ。
 俺は大人の男だ。
 女みたいに感情的になったり怖がったりしてなんかいね〜ぞ。
 俺は理性的な大人の男だ。
 俺は合理的な大人の男だ。
 俺は現実的な大人の男だ。
 えっと……。
 そうだ、車で逃げ逃げ逃げ……。
 ああ、やっと走り出せる……。
 行けええ……。
 うわあああっ……。
 目の前にガキが飛び出して来て、車のAIが運転乗っ取って、明後日の方向を向いて急停止。
「おい、このボロ車っ‼ 緊急時の運転乗っ取りの機能をOFFにしろ、OFFっ‼」
『ご命令通りの事を行なった場合、地域によっては法令違反となる可能性が有りますがよろしいですか?』
「いいに決ってるだろ、やれっ‼ 後の確認も全部省略だっ‼」
『了解しました。車載AIによる緊急時の運転補助機能を停止しました。本機能を再度ONにする場合は……』
 うるせえぞ、ボケAI。
 ああ、良かった。
 これで、この車で安心して人を轢き殺せ……いや、違う。
 ともかく、俺は逃げて逃げて逃げ続け……。
 と思ったら、交差点で横から衝撃。
 韓国のアクション映画かっ⁉
 横から車が突っ込んで来……えっ? パトカー?
 いや、でも、幸いにもパトカーが突っ込んで来たのは……あ……あれ? どっちが右で、どっちが左? 左ってどっちで、右ってどっち?
 ともかく、パトカーが激突したのは……助手席側だ……。
 俺はドアを開けて車の外に飛び出し……。
 だが、俺の頭上を黒い何かが飛び越え……。
「よう……2代目……。久し振りだな」
 えっ?
「誠実に接していれば、いつか判ってくれると思っていた。まったく……とんだ勘違いだったよ。すまないな……全部、俺のミスだ。失敗を繰り返さない為に……『人道的』なんて甘っちょろい感傷は、あの日、生きて帰れた時に川底に捨てて来たよ」
 ……な……何の……事だ?
「ん? 何だ、何も気付いてないのか? まったく……先代のクリムゾン・サンシャインも救い難い阿呆だったが……お前も同程度には阿呆なようだな」
 な……なんだ……。
 この声……聞き覚えが有る。
 でも……どこでだ?
 そ……それに……何で……俺が2代目クリムゾン・サンシャインだと……あ、クリムゾン・サンシャインの格好をしてるからか。
「『戦士』が白いコスチュームとはフザケてるにも程が有る。白は愚か者の色……そして臆病者の色だ」
「な……なんだと……?」
 俺は……目の前に居る黒いコスチュームの男に言い返そうとした。
 俺は、どれだけ馬鹿にされても構わない。
 馬鹿にされるのは慣れてる。
 でも……これは……「正義の味方」を名乗る暴徒どもの「正義の暴走」から何度も俺達を護ってくれた、初代クリムゾン・サンシャインから受け継いだモノだ。
 俺を馬鹿にする事は許してやるが、あの人を馬鹿にする事は許さない。
 理性的で合理的で現実な大人の男らしく理路整然とそう論破してやるつもりだった。
 だが……。
「おれおれおれおれおおおあれれっ?」
 おい、何で、巧くしゃべれない?
 ああああっ……。
 さささささっき……どどどどどどどこか頭でも打っておかしくおかしくおかしく……あああ……俺の人生、この先真っ暗なのか?
 うっひゃ〜あああっ‼
 SNSかMaeve(メッセージアプリ)だったら、泣き顔マークを大量に入力してただろう。
「良く聞け……白いコスチュームとは、自分の血を流す覚悟も、敵の返り血を浴びる覚悟もない事を意味している。やはり、お前は、臆病者の愚か者のようだな……」
 誰だ……貴様は……?
 俺は……そう聞こうとした。
「だだだだだだれだれだれだれ?」
 でも、俺の口から出た言葉は……。
 だめだ……ちゃんとしゃべれない。
 そ……それに、あれ? あれ? あれ?
 おい、俺、いつの間に腰を抜かしてたんだ?
「『お前は誰だ?』そう言いたいのか?」
 俺は首を縦に振る。
「何故、『正義の味方』と呼ばれている者達が……二〇世紀の子供番組のような……いかにもな『正義の味方』っぽい名乗りをしないか……良く判ったよ……。この名乗りを自分で練習していて……こっ(ぱず)かしくて仕方無かった」
 えっ? 何を言っている?
「知ってるか、2代目? 太陽が紅く染まるのは……1日の内に朝日と夕日の2回だけだ。俺は……貴様と云う夕日が沈んだ後に来る……永遠の夜だ。そう……エーリッヒ・ナハトとでも呼んでくれ」
 ふ……普段なら……あまりに中二病過ぎる台詞に笑い出してただろうが……でも……でも……でも……今は今は今は今は今はっ。
 あわわわわわわっ‼
「束の間の神の恩寵(めぐみ)が有ろとも、人間の怒りは永遠に消えぬ。涙の夜は明ける事なく……二度と喜びの朝が来る事は無い」
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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