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文字数 1,513文字

「一郎……俺が悪かった……謝る。一生かけてお前に償いをする……。お前を、そんな人間に育ててしまった責任を取る。だから……せめて……深雪(みゆき)と優斗くんから輝かしい将来を奪うのだけはやめてくれ……。お前にも人の心が有るなら……実の妹とその亭主ぐらいは見逃してやってくれ……たのむ」
 親父(オヤジ)の頭は……いつも以上にハゲが目立つ髪型だった……。ロクにブラシも入れてないモノを「髪型」と呼べればだが……。
 顔に浮ぶ表情は……俺の悪い頭では巧く表現出来ないが……どうやら、もう、怒る気力も無いようだ。
 義理の弟の優斗は……頭を抱え……、妹の深雪は、ゴミでも見る表情……。そして「警備顧問」の猿渡のおっちゃんは……居心地が悪そうな表情。
「父さん……優くん……やるべき事は簡単だよ。この馬鹿兄貴を、とっとと県警(けいさつ)に突き出そうよ。今、やるべき事は『正しい事』だよ。あたしらの一家の将来が、どうなるかも単純な話だよ。……間違った事をやればやるほど、ドツボにハマってくだけ」
「そ……そんなのは……女子供の感情的な理想論だ……。……ウチの一家が受けるダメージを少なくする方法を冷静に考えてだな……」
「感情的になってるのは、父さんだよ。冷静に考えたら『この馬鹿兄貴を切り捨てれば、ウチの一家が受けるダメージが最小限になる』以外の答なんて出る筈が無いよ。大体、『ウチの一家』の問題なのに、何で、この場に母さんが居ないの?」
「おい、俺が何をやったって言うんだ? 俺は何もやってないぞ」
 顔を伏せてるバカ義弟(おとうと)以外は……完全にバカを見る目付きになった。
「でも……まだ時間的な余裕は有りますよ」
 そう言ったのは猿渡のおっちゃん。
「そこ、余計な事、言わない」
「ですけどね……ミニコミ誌の編集者の行方不明事件を捜査してんのは福岡県警。で、殺しの現場は……」
「隣の県だ……。確かに……時間は……稼げる……。県警同士の管轄(ショバ)争いで……。助かった……」
「ええっと……何か良く判んないけどさ……。猿渡さんの『奥の手』は使えないの?」
 とりあえず、馬鹿のフリをして聞くだけ聞いてみた。
「まだ……使えますよ……。最初にデータベースを作った暴力団は潰れましたが……古いバックアップが別の組織に流れて、それを元に新しいデータベースが作られてます」
「じゃあ、猿渡さん、まだ……そのデータベースを使えんの?」
「アクセスは出来ますよ。でもね……伝家の宝刀は抜くフリをする為に使うモノなんですよ……。本当に抜いちゃったら、それは宣戦布告。始まるのは、我々と複数の広域警察に近隣の県警の本気の戦争ですよ。血みどろのね」
 そうか……まだ最終兵器は残ってはいる……。
 猿渡のおっちゃんが「ヤクザに情報を流してたマル暴の刑事」ってトンデモない立場なのに「表向きは自己都合退職」で済んでるのは……この「最終兵器」のお蔭だ……。
 福岡と隣県の県警……いくつかの広域警察……そして近隣の地方検事……。そいつらの個人情報が……全部じゃないが「裏」に流れた。
 その一部を流したのは……この猿渡のおっちゃんだ。
 そして、警察や検察は……ヤクザと、このおっちゃんに金玉を握られてるも同じだ……。
 例えば、警察のエラいさんの子供が行ってる学校と、その子供の通学路……。あるいは、検察官が老いぼれた親を預けてる老人ホームの住所。自分の組織のエラいさんの家族が、いつ、誘拐されるか判んないとなれば……警察でも……。
 ……万が一の事を考えて……猿渡のおっさんから……その情報を提供してもらう必要が有るが……さて、どうするか……?
 ふと気付いたら……何故か、いつの間にか……クソ義弟(おとうと)だけじゃなくてクソ妹も……夫婦仲良く頭を抱えていた。
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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