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文字数 1,074文字
「だ……だから……大学の研究室のはず……ここ何日か、ずっと終電帰りだ……って言ってますよね……何度も……」
「嘘を言うなぁッ‼」
どげしっ‼
俺は、体の調子が悪いせいで、床に横になってる爺ィ(と言っても五〇代らしいが)の腹を、土足で優しくなでて差し上げた。
「ぐ……ぐへぇっ‼」
「大声を出すんじゃねぇっ‼ 隣にバレたら、ど〜すんだ、ボケっ‼ これだから、関東難民は人間の屑扱いされてんだよッ‼ 少しは反省しやがれ、このクソがっ‼」
可哀そうに……この爺ィも親にちゃんと殴られてなかったんだろう。
そして、この爺ィ自身も息子を殴った事なんか無いに違いない。
親に殴られた事のない子供の末路が、この躾のなってない爺ィだ。
そして、その息子は「正義の味方」「御当地ヒーロー」を自称するテロリストになりやがったんだ。
これは愛の鞭だ。
善良な市民である俺には、この屑をブチのめして、真人間に改造してやる権利と義務が有る。
俺は飛び上がり、爺ィの腹に軽い一撃を加えようとしたが。
「うわああああッ‼」
誰かが俺に
「お……緒方さんッ‼ マズいっすよッ‼」
「離せ山下っ‼ 俺は、この関東難民ヒトモドキを教育してやろうとしてるだけだっ‼」
「いや……だって、また殺したらマズいですよ、絶対っ‼」
「阿呆か、オマエはッ⁉ 何、感情的になって意味不明な事を喚き散らしてんだっ‼ お前はヒス女かっ⁉ 違うだろっ‼ 俺達は理性的で合理的で科学的で現実的な大人の男だっ‼」
「でも、殺すのはマズいですよっ‼」
「大丈夫だっ‼」
「いや、殺すのは、どう考えてもマズいっすっ‼」
「何、意味不明な事を言ってるっ‼」
「だから、殺したら、マズいって……」
「ああ、そうか。俺に論破されそうだから、同じ事を繰り返し言い続けて、俺が根負けするのを狙ってんだな。SNSで馬鹿が良く使う手だ。だがな、いいか、
「でも……こ…っ…の爺ィを…殺…すの…は……必要な情…報を吐…かせてか…らの方…が良く有…りませ…ん…か?」
そう指摘したのは堤だが……ん? 何でだ? 何で、声が震えてる?
「おい……堤、お前、何で、小便漏らしてんだ」
「え……えっと……その……。あ……あの……おっちゃん、もし気を悪くしてないなら……訊いてもいいかな?……トイレってどこ?」
「落ち着け、馬鹿。漏らした後にトイレに行ってどうする?」