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文字数 1,291文字

 逃げた。
 逃げた。
 逃げた。
 そして階段から転げ落ち……。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 ……てあれ?
 思ったほど痛くない。
 死の恐怖が痛みを消してくれている。
 多分だけど……。
「ご……ごめん……本当に本当に本当に覚えてね〜んだよッ‼」
 永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)は、この団地の住人だった。
 そして、俺は奴の部屋に案内され……。
「うるさい。お前を少しでも信じた俺が馬鹿だった。俺の親父を殺しといて……『誰だっけ、この爺ィ?』だと? やっぱり貴様は殺す」
 奴は……追って来る。
 多分……奴の方が……足が早い。
 もういい……ヤケだ。
 俺は、わざと階段を転げ落ち……。
 走って降りるよりスピードは上の筈だ。
 それに、息切れする心配も……ぎゃああああッ‼
 心に余裕が戻った途端に痛みが……。
 くそ、世の中は巧くいかない。
 どんな……どんな……どんな事をしてでも生き延びてやる。
 って……うげぇっ。
 歯が折れたっ‼
 口ん中切った‼
 痛えよ痛えよ痛えよ痛えよ痛えよ。
 ごろごろごろ……。
 ああ、くそ、あの野郎、何で、あんな上の階に住んでやがる。
 痛い。
 今までと違う痛み。
 蹴られた。
 落ちた。
 踊り場に激突。
「そうか……どうせ、俺の顔も覚えてなかったんだろッ⁉」
 うん、ごめん、覚えてない。ガチで思い出せない。
 また蹴られた。
 また落ちた。
 また踊り場に激突。
 たしかに、奴の言った通り……人間に生まれた事を呪ったりもした……。
 そして……人間に生まれた事を呪ったのと同じ日の夜に、サッカーボールみたいに蹴られ続け……団地の階段を落ちるていき……。
 よし、俺は、生き延びたらラノベ作家になってやる。
 最初の作品のタイトルは「転生したらサッカーボールだった件」だ。
 って、痛え。
 あ……助かった……。
 ああ、もう……外に出て……。
「ふざけんなッ‼」
 足蹴にされた。
 痛い痛い痛い……もう痛いの嫌だ。
「ふざけんなッ‼」
 足蹴にされた。
 痛い痛い痛い……もう痛いの嫌だ。
「ふざけんなッ‼」
 以下同文。
 何度も何度も繰り返し。
 ああ……何で……妹は……結構簡単に死んだのに、俺は……こんな痛い想いしても死ねないんだ。
 クソ……。神様だが運命だか知らないが……あのクソ妹ばかり贔屓にしやがって。
「ふざけんなッ‼」
 ともかく痛い。
 ごめんなさい。
 気に入らない奴の事を「親にも殴られた事ないんだろ」とか言ってたけど、当の俺が親に……あれ……あ……思い出したッ‼
 俺のクソ親父、昔は俺をボコボコ殴ってたのに、世の中が「子供を殴るのは良くないです」って風潮になった途端に「子供を撲った事なんてありません」って言い出しやがったんだ。
 ああ、くそ、関東難民の件もそうだ。
 親父は関東難民排斥派だったのに、関東難民が票田として無視出来なくなると……あの人間の屑がッ‼
 クソ。
 しまった。
 何てこった……。
 山程、人、殺したのに……。
 一番、肝心の奴を殺してなかった……。
 俺、ここから生きて帰れたら……自分の父親を殺すんだ。
 って、これ、死亡フラグか?
 ともかく、痛い。
 やるなら、早く殺して。
 死ぬのは、初体験なの。
 やさしくしてね。
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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