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文字数 1,467文字

 ……。
 …………。
 ……………………。
 どうした?
 何だ、この嫌な雰囲気は?
 後援会の奴らも、選挙管理委員会の連中も……俺を……何と言うか……超危険な犯罪者でも見るような……怯えた目で見ていた。
 おい、兄が生意気な妹を折檻して何が悪いんだ? 折檻の結果、クソ妹が死んでも、事故だろ事故。
「こ……こ……こ……こ……お……おい……い……一郎くん……き……き……君が……ほ……ほんとうに……ひ…っ」
 あ、しまった。
 「正義の味方」どもによる洗脳を解くには……何も殺す必要は無かったのか……。
 どうやら、俺を裏切った親父の後援会の会長は……ショックで洗脳が解けつつあるようだ。
 パニクってるように見えるのは、洗脳が解けるまでの一時的なモノだろう。
 よし、俺が市長になったら、必要最小限の犠牲で、「正義の味方」どもが愚民どもにかけた洗脳を解くようにしよう。
 見せしめに何人か殺して、他の奴らはショック療法で洗脳を解けば済む。
「あああ……もしもし……警察……うぎゃあッ‼ うぎゃっ‼ うぎゃぎゃぎゃぎゃッ‼」
 あ、後援会の奴らの中に、まだ洗脳が解けてないのが居た。
「ふざけんじゃねえぞ、このボケっ‼ 何、勝手に死んでんだ、クソ、ゴミ、クズ、アホっ‼」
 銃弾を何発も浴びたそのクソ野郎は床に倒れ落ちた……。
 まだ、みじめに生きてやがるが……助かる可能性は低いだろう。
 でも……俺に拳銃で撃たれた位で、何、勝手に死のうとしてやがるッ⁉
 俺は、そいつの死体になりかけてる体を蹴った。
 蹴った。
 蹴った。
 怒りに任せて何度も蹴った。
「死ぬな、ボケっ‼ 勝手に死ぬんじゃね〜って、言ってんのが判んね〜のかッ‼ 俺を裏切りやがったクソが死にやがったら、俺が市長になっても『ざまぁ』ものにならね〜じゃね〜かッ‼」
「大丈夫ですよ。義理の弟さんが、まだ生きてるじゃないですか。多分、残りの一生、ずっと入院中でしょうけど」
 えっ? あ……待てよ。そうか……。
「先輩が、世界で一番、『ざまぁ』をしたい相手は、まだ生きてて、しかも、何1つ対処も反抗も出来ないまま、先輩のやる事を見てくやしがり続けるしか無いんですよ」
 あ……ああ、そうだ……。いい事を言ってくれた見習い君。
 全てを失なったと思っていたけど……一番、大事な絆だけは残っていた。
 俺とクソ義弟との間の憎しみの絆だ。
 この絆が有る限り、俺は俺でいられる。
 ありがとう、優斗。生きててくれて、ありがとう。そして、嫁も、嫁の腹()中に居た子供も、地位も、健康も、全部失なった状態のまま、病室でくやしがり泣き続けろ。
 俺が市長になった暁には、お前の入院費は、市の予算で出してやる。
「おりゃぁッ‼」
 ドンっ‼
「死ねえッ‼」
 バンっ‼
「ざまあみろッ‼」
 ズキュ〜ンっ‼
 そして……俺は、この部屋に居る俺が「ざまぁ」をやる為に必須でない人物どもを血祭りに上げ……。
「弾、切れちゃった。拳銃のマガジン有る?」
「これで良かったかな?」
「そうそう、これ……あれ、交換のやり方良く判んないんで……」
「なら、俺が換えてやろう。ほら、終ったぞ。ついでに予備の銃も持ってけ」
「あ……気が効く……えっ?」
 そこに見習い君は居なかった。
 そこに居た奴が着ていたのは……クリムゾン・サンシャインの白いコスチュームじゃない。
 ……黒一色……。
「また会ったな2代目。前回やった名乗りは省略してもいいかな? 自分でやってて、自分が馬鹿に思えてくるんでな」
 そこに居たのは……永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)だった。
「あと、金属バットにサバイバル・ナイフも有るが、要るか?」
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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