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文字数 1,686文字

「じゃあ、古賀さん。あそこのカンペに書いてある事を読み上げて下さいね。そうすれば……娘さんだけは助けてあげますよ」
 「見習い」は古賀にそう囁いた。
「は……はい……」
 古賀は……右手に出刃包丁を握らされ……更にその手をガムテープでグルグル巻きにされている。
「じゃあ、山下さん。僕の姿は……UPする前に画像処理で消して下さいね」
「い……いや、こんなモノ流石に……」
「やれ」
「でも……」
「やれと言ったら、やれ。責任は全部、俺が取る」
「は……はぁ……」
「じゃあ古賀さん、『撮影スタート』でカンペを読み上げて下さい。はい、撮影スタート」
「くるめし……ふくしちょうの……こがでございます……。わ……わたしは……くるめしみんのみなさまに……おわびもうしあげます……。わたしは……せいぎのみか……たをな……のる……てろりす……とのてさ……きでした。わた……しは……しせ……いをの……っとり……せい……ぎのみか……たをなの……るてろり……すとの……めいれいで……おそろしい……けいかくをじっこうする……てはず……でした」
 そうだ……それこそが……俺達が苦労して掴んだ「真実」だ。
 それを今、奴らの一味である古賀が自白している。
「どんな……けいかくかは……もうしあげられませんが……とにかく、おそろ……しいけいかくです」
 ああ、そうだ。この動画を観た者は……「正義の味方」どもが裏でどんな恐しい犯罪を行なっていたかを知り……そして、「正義の味方」どもを、この社会から排除する事を決意するだろう。
「しみんのみなさま……つぎのしちょう……せんきょ……では、げんしちょうのごしそくである……おがたいちろうさまに……きよき……いっぴょうをおねがい……します」
 やったぞ、これで、俺は久留米市長だ。
「あと……やくざさんの……あんとく……ぐるーぷが……ぬれぎぬをきせられた…みっつのじけんですが……すべてわたしのしわざです……わたしが、みにこみしのきしゃをころし……しちょうのむすめさんごふうふをらちかんきんし……じぶんのむすめをじぶんでゆうかいしたのです」
 何て奴だ……俺とクリムゾン・サンシャインを陥れる為だけに、こんな恐しい真似をやった奴が……俺達が生まれ育ち住んでいる町の副市長……そして、市長である俺の親父の腹心だったなんて……。
「どうか……ふくおかけんけいほんぶちょうのおかあさんがはいっている……ろうじんほーむをせんきょしているやくざのみなさん……。あなたがたが……ぬれぎぬをきせられたじけんのしんはんにんは……ここにいます。どうか……ろうじんほーむのにゅうきょしゃのみなさんを……かいほうしてさしあげてください……」
 だが……「正義の味方」どもの恐しい悪事は……全て裏目に出た。
 これで、俺は、親父の跡を継いで、次の久留米市長だ。
 しかも、今、起きている事件を解決して……県警のエラいさんに恩を売る事さえ出来た。
 俺の未来は……光に満ちている。
 俺の完全勝利だ。
「あの……カンペに書いてある『おわびにせっぷくします』ってどう云う事ですか?……ぎゃああああッ‼」
 古賀の断末魔が轟き渡った。「見習い」が古賀を介錯……いや、介錯とは何か違う気がするが……ともかく、古賀の手にガムテープで固定した包丁を、古賀の腹に突き刺した。
 古賀は「正義の味方」の組織の末端に過ぎないだろう。
 それでも「正義」は死んだ。
 俺は久留米市長を最初の足掛かりにして……いつか再建される日本政府の首相にまで上り詰めてみせる。
 そして、俺の手で……「正義の暴走」が一掃された日本を現実のものにしてみせる……。
「あ……あの……」
「どうした山下?」
 阿呆が、人が感傷に浸ってるのを邪魔しやがって……。
「この死体、どうすんですか?」
「娘の死体と一緒に近くのダムに捨ててこい」
「……あ……あ……あ……あ……」
「おい、落ち着け、はい、深呼吸」
「あのですね……流石に……」
「ああ、俺も流石にうっかりしてた……」
「へっ?」
「娘の方は、まだ死体じゃなかった。生きたままダムに捨てるか、死体にしてからダムに捨てるかは、お前たちに任せる」
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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