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文字数 1,049文字

「や……やめましようよ。あの、あそこには絶対に警察が……」
 見習いと古賀と一緒に車に戻って、俺は山下にある場所へ行くように命令した。
 だが、山下は俺に逆らおうとした……。クソ、山下のクセに生意気だぞ。
「あのな……警察は今、ストライキ中だ」
「それは久留米だけの話でしょ。あそこは鳥栖(とす)市内ですよ。管轄も福岡県警じゃなくて佐賀県警ですよッ‼」
「佐賀県警は、ヤクザが起こした老人ホームの占拠事件で手一杯の筈だ」
「ちょっと待って下さい、同じ佐賀でも鳥栖と唐津って、どれだけ離れてると思ってんですかッ⁉」
「大丈夫だ……あそこに置いてるアレが見付かればニュースになる筈だ。ニュースになってない以上……あそこには、どの警察機構(けいさつ)の手も入っていない」
「あと、そいつ誰ですか?」
「あ……僕は……クリムゾン・サンシャインの一ファンです。『見習い』って呼んで下さい」
「変なの連れて来ないで下さいッ‼」
「いや、こいつは、中々、優秀だぞ」
「やめて下さい」
「あ……あの……先輩と先輩のお友達の仲を悪くするのは……ちょっと気が進まないので……何でしたら……僕……」
「おい、山下。何、自分より優秀な新入りに嫉妬してんだッ⁉」
「何を言ってんですかッ⁉」
 だが、俺の予想通り目的地……つまり、鳥栖市内に有る古川のおっちゃんの別荘には、警察は居なかった。
「どうだ、俺の言った通りだった……ん?」
 「それ」を入れていた、おっちゃんの別荘の物置の戸を開けた途端……嫌な臭い。
 「それ」は……まだ生きていた……。
「あっ‼ あっ‼ あっ‼ あっ‼ あああああッッッッ‼」
 ただでさえ、金玉を潰されたせいで具合が悪くなっていた古賀は……「それ」を見ると……完全にパニック状態。
 男のクセにしっかりしろ、と言いたいとこだが……しまった、こいつを「男」じゃなくしたのは俺だった。
 「それ」の肌や唇は、かさかさ……糞小便を撒き散らし……目は虚ろ……体の周囲を蠅が飛び交い……。
 しまった……。
 誘拐した古賀の娘……違法薬物(クスリ)をどっさり飲ませて、ここに閉じ込めたまではいいけど……ここ数日、縛りっぱなしで物置に放り込んだっきり……存在そのものが忘却の彼方だった……。
 飯は食わせてない、トイレには行かせてない……もちろん、風呂にも……。
 ああ……えっと……控えめに言っても酷いな……。人身売買やってるヤクザにさえ、売っても相場より1桁は安い値段で買い叩かれるような状態だ。
「は〜い、感動の親子の再会でぇ〜すッッッ‼」
 俺はヤケクソ気味に、そう叫ぶしか無かった。
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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