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文字数 1,859文字

 声のする方には……4人の「正義の暴徒」が居た。
 多分……全員が女。
 一番背が高いのと、一番背が低いのは、似たような格好……青い迷彩風の模様のプロテクター付のスーツ。
 1人は……肩のプロテクターに梵字のような模様が描かれた明る目の茶色の革ジャン姿。被っているヘルメットには青い竜が描かれていた。
 最後の1人は……こいつが一番、コスプレっぽい姿だ……。そう、何と云うか……「機械仕掛けの天使」「機械仕掛けの聖騎士(パラディン)」とでも呼びたくなるが……でも、明らかに強化服(パワードスーツ)には見えないオレンジ色のプロテクターを付けていた。
 全員が顔をフルヘルメットで隠し……そのヘルメットの「目」に見えるモノは小型カメラのようだった。
「何をしていると言われても……何と言うか……ああ、そうだな、君達の手伝いだ。ちょっとしたゴミ掃除だよ。バイト代は要らない。無報酬のボランティアだと思ってくれ」
「わかった……。まず、君と君の家族に起きた事態を防げなかった事を謝罪したい」
 そう言ったのは……さっきの凍り付くような声の主……。一番、体が小さいメスガキだった。
「前々から思っていたが……お前は頭が良過ぎて論理的過ぎる。頭のいい悪党の裏をかくのは得意でも、この手の馬鹿が考える事を推測するのは苦手だ。違うか?」
「確かに……」
「まぁ、いい。俺と俺の親の件は……予想出来る者など、まず居ないだろう。悲劇ではあるが……防げなくても仕方ない事だ」
「では、本題に移っていいかな?」
「本題とは?」
「この惨状は何だ? 自分の復讐に何人巻き込んだ?」
「俺は、お前ほど、頭が良い訳でもないし、手慣れてる訳でもない。初体験で緊張し過ぎて、イチイチ数えてなかった」
 沈黙……。
 たしかに……こいつらが仲間同士だとしても……ドン引きの台詞だ。
 いや……待て……何か……こいつらの会話は変だ。
 こいつら……知り合いではあるが……仲間では……クソ……考えるのは後だ。
「まぁ、北米連邦(アメリカ)あたりの青春ドラマみたいに『初体験でゲロを吐く』なんて事は無いから安心してくれ」
「ふざけるな……」
「そっちこそ……ふざけるな」
「何?」
「お前は、前に言った筈だ……。『真の悪とは愚か者が力を手にしている状態の事』だと。ならば、お前達の『正義』を遂行しろ。この愚か者をお前達の手で血祭りに上げろ」
 そう言って奴が指差したのは……。
 違う。
 違う。
 違う。
 違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。
「お……俺のどこが、馬鹿なんだよッ⁉」
 俺は、理性的で合理的で現実的で冷静で感情に囚われない大人の男らしい的確な反論をした。
 ……。
 …………。
 ……………………。
 無視かよっ‼
 いや、待て。
 無視するしか無いのか?
 無視するしか無いって事は……やった。
 つまり、俺が奴らを完全論破したって事だっ‼
 ざまあ見ろ、悔しがれ、クソどもがっ‼
 ……って、ちょっと待て。
 俺が、こいつらを論破して……何か状況は……あ、良くて±(ゼロ)だ。
「お前達がお前達の『正義』を遂行しないなら、代って俺がやらせてもらう。ただし、俺のやり方でな」
「お前のやりかた?」
「ああ、真綿で首を絞めるように、じわじわと苦しめる……。こいつが自分で死を願い……自分が人間として生まれて来た日を呪うようになるまで追い詰めた後で……こいつがもっとも苦しむ方法で殺してやる。そうだな……こいつが一番知りたくない事実は、こいつを殺す直前に教えてやる事にしよう。ああ、こいつは今日だけは見逃してやるが、帰ったら、ゆっくりプランを立てる事にしよう。今夜は楽しい時間を過ごせそうだ」
「やめろ……」
「おい、お前らしくも無い。何を待ってる? 待ってても何も起きないぞ。『自分に助けを求める人々に危害を加える輩が居たならば、この世では最も惨い死を、あの世では最も重い罪を犯した者が地獄で受けているのと同等の苦しみを与えてやろう』……それがお前が名乗っている名前の意味だろ、羅刹女(ニルリティ)。さぁ、せめて、こいつを楽に死なせてやりたいなら……そして、これ以上、俺の復讐に巻き込まれる者が増えるのが嫌なら……お前の『正義』を遂行しろ……『悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神』よ」
 永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)は……おどけた様子で……えっ?
 チビの姿が消えた……。
 何だ……どうなってる?
「手を出すな……」
 チビは永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)と戦いながら……冷たい声。
「何だ? どうした?」
 永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)も……チビと戦いながら、おどけた声。
「自分から私に喧嘩を売ったクセに呑気なモノだな……」
「んっ?」
「あのダサい渾名は大嫌いでね」
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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