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文字数 1,487文字

「おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、絶対におかしいぞ、誰も何も変だとは思わないのかッ‼」
 いかん……思わず大声を出してしまった。
 マズい。あのヒスを起こしている妹よりも、俺が感情的になってると思われたら……実際は俺がクソ妹を論破してる筈なのに、事情を良く知らない奴らは、妹が俺を論破したと思い込んでしまう。
 クソ。
 あいつは頭が悪いクセに印象操作だけは昔から上手かった。
 そうだ。あいつは印象操作だけで、俺よりいい大学に行きやがった。そして、俺が一浪二留したのに、印象操作だけで、浪人せずに大学に受かって、留年せずに大学を卒業しやがった。
 クソがッ‼
 殺……いや、落ち着け。
 俺は理性的だ。
 俺は合理的だ。
 俺は現実的だ。
 俺は大人の男だ。女みたいに感情的になったりしない。
 そして、俺の中には何の理想もない。俺はどんな正義も信じていない。だから、「正義の暴走」とは無縁だ。
 はあ、はあ、はあ……よし、深呼吸。
「待て、女のお前が、何で、市長選挙に立候補出来る?」
「えっ?」
「女は政治家になれない筈だ」
「なれるよ。昔から」
「嘘を言うなッ‼」
「阿呆かッ‼ ここまで阿呆だから、兄貴は、裏口から入った大学を2回も留年したんだよッ‼」
「何が阿呆だッ⁉ いつから女が政治家になれるようになった? 何年何月何日何時何分何秒からだッ⁉」
 ……。
 …………。
 ……………………。
 沈黙……周囲からは何の反論もない……。
 やった。
 クソ妹を論破してやったぞ。
 俺の完全勝利だ。
「おい、山下、今の撮影してたよな。あとで、動画サイトにUPしろ。俺のクソ妹の恥かしい姿を全世界に公開してやる」
「すいません……山下さんは、ここに居ませんし……動画サイトのアカウントはBANされてます……」
「あとさ……兄貴……日本で女性が政治家になれるようになったのは……」
「へっ⁉」
「一九四六年の四月一〇日から……」
 ば……馬鹿な……親父やお袋を通り越して……父方・母方両方の祖父(じい)ちゃん・祖母(ばあ)ちゃんさえ生まれる前じゃないか……。
 ああ……何と言う事だ……。
 「正義の味方」どもに洗脳された者は……歴史修正主義者と化してしまうのか……。
 いや……待て……もし、俺のクソ妹まで「正義の味方」どもに洗脳されてるとしたら……。
「あのさ、ちょっとそれ貸して」
 俺は「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を指差して、そう言った。
「はい、どうぞ」
 俺は「見習い」から散弾銃を受け取ると……。
 ドンッ‼
 そうだ……「正義の味方」どもに洗脳された者は殺していいんだった。
 それを犯罪だと非難する事こそ「正義の暴走」だ。
 そもそも……このクソ妹は、俺がミニコミ誌の編集者を拉致して、うっかり死なせて、死体を焼いて、その灰を鳥栖(とす)の山奥のダムに捨てたぐらいで……俺を警察に突き出そうとしやがった。
 そうだ……あの時から、クソ妹は「正義の味方」どもに洗脳されてたんだ……。
 実の兄を警察に突き出し、実の父親の政治生命を危うくするなど……「正義の暴走」以外の何だと言うのだ?
 ともかく……。
 俺は……「正義の味方」どもが俺のクソ妹にかけた洗脳を解いてやった。
 副作用で妹は死……あ……腹から血を流してるけど……まだ、生きてやがる。
「おい、『見習い』くん、拳銃有る?」
「はい、どうぞ」
 俺は見苦しく生き続けてる妹の足を払うと、床に倒れた妹を拳銃でヘッドショット。
 よし、これで悪は去った……じゃなかった。
 おっと間違えた。よし、これで正義は去った。
 残ったのは、少しも感情的じゃない男らしい理性的で合理的な現実主義だけだ。
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登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

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