(14)

文字数 1,500文字

「マズいっすよ。本物の『異能力者』かも知れない奴の家にカチコミかけるなんて……」
 奴が住んでる団地までやって来て、仲間の1人の野口がそう言い出した。……そう、俺達がこの前、「正義の味方」「御当地ヒーロー」を自称するテロリストどもに殺されかけたあの団地だ。
 あれから、まだ一〇日経っていないのに、あいつらの陰謀によって、俺は殺人犯にされかかり、俺の一家は家庭崩壊寸前、親父はノイローゼで市長の仕事をマトモに出来なくなっているらしい。
 このツケは、必ずや自称「正義の味方」どもに支払わせてやる。
 銃で他人(ひと)を撃って良いのは、撃たれる覚悟が有る奴だけだ、と云う事を「正義の暴走」をやらかしやがってるクソ共に思い知らせるのだ。
「よし、わかった。先頭はお前だ、野口」
「えっ?」
「逃げようとしたら、どうなるか判ってるな」
「でも、まだ、この前の怪我が治ってなくて……」
 野口は片手を見せる。何の傷だったっけ?……ああ、「正義の味方」どもを銃殺しようとしたら、うっかり、排莢の際のスライドで自分の手を怪我した時のアレか?
「でも、これは持てるだろ?」
 そう言って、俺はバットを渡した。
「は……はい……」
 ヤツの部屋は団地の上の方の階だった。
 しかも、この団地にはエレベーターが無い。
 普段、運動してない奴らばかりなので、目的の部屋の前に辿り着いた頃には、全員が息も絶え絶えだった。
 野口はドアのチャイムを鳴らす。
 そして、ドアスコープから見えない位置に移動。
「どちら様ですか〜?」
 かなり齢の男の声。
府川(ふかわ)健三さんのお宅はこちらでしょうか〜? 宅配便です」
「はい、ちょっと待って下さい」
 玄関のドアが動く。
 野口はバットを振り上げ……。
「あれ?」
 出て来たのは……えっ?
 奴の父親は……まだ五〇代の筈なのに……七〇過ぎにしか見えない、痩せ細った男。
 髪はほとんど無く……わずかに残った髪も白髪。
 Wikipediaに載ってた現役サッカー選手だった頃の写真の面影は……ほんの微かにしか無い。
 そして、奴をブン殴る筈だった野口は……。
 馬鹿野郎が……。
 野口は、出て来た奴を横からバットで殴り付けるつもりだったらしいが、うっかり開いたドアが盾になって殴れない位置に居やがった。
 そして……。
 奴は俺の方を見て……。
「あれ……?」
「うわああああッ‼」
 俺は慌てて、爺ィと呼ぶには、多少若い齢の筈なのに、爺ィとしか呼べない外見のその男に体当りをした。
 その男の体は玄関のドアに激突し……。
「ぎゃあッ‼」
「ぐへえッ‼」
 何故か、悲鳴が2つ。
 1つは、玄関から出て来た標的の父親と思われる男。
 もう1つは……。
 標的の父親らしい男は、わざと玄関のドアに勢い良く激突しやがった。
 そのせいで、玄関のドアも勢い良く動き、ドアの背後(うしろ)に居た野口がドアに思いっ切り激突。
「このクソ爺ィ。俺の手下(ダチ)に何て真似しやがるッ‼」
 俺は冷静で理性的な大人の男だ。
 しかし、この状況では、仲間を傷付けた男に然るべき制裁を加えなければならない。
 これは俺が大嫌いな「正義の暴走」なんかじゃない。
 俺は、標的の父親らしき男の胸倉を掴み……。
「お……緒方さん……ここじゃマズいっすよ」
「な……何言ってるッ‼ こいつのせいで野口は……野口は……」
「あの……ここは『関東難民』だらけの団地っすよ。この団地全体が、俺達の敵も同じっすよ。やるなら、部屋の中で」
「あ……ああ、そうだったな、ちょっと来やがれ」
「あ……あんた達……誰だ……?」
 どんな「悪」よりタチが悪い「正義の暴走」をやらかしてるクソ野郎の質問など無視して当然だ。
 俺達は、標的の父親を部屋の中に連行した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

緒方一郎
行方不明になった「ヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインのコスチュームを偶然手に入れた平凡な若者。
かつて自分を何度も助けてくれたクリムゾン・サンシャインの代りに戦いに身を投じ、クリムゾン・サンシャインの行方を追うが……。
※あくまで本人主観であり、作品中の「真実」とは異なる可能性が有ります。

緒方正一
福岡県久留米市(あくまで現実ではなく作品の舞台になってる平行世界の)の市長。
かつては、富士山の噴火によって大量発生した「関東難民」を排斥していたが、久留米市を「福岡県3番目の政令指定都市」にする為、現在では「関東難民」積極受け入れ派になっている。
ある意味で「息子をネトウヨに育てた癖に、自分だけネトウヨを『卒業』した」と云うイロイロアレアレな人物。
※くどいようですが、作品の舞台になってる「平行世界の地球の福岡県久留米市」と云う設定の架空の場所の話における架空の人物であり、本作品の執筆開始以降(2021年4月以降)、この人を連想させるような福岡県久留米市もしくは他の地方自治体の市長・首長が誕生したとしても、偶然の一致に過ぎません。

関根優斗
「関東難民」だが、かつて「関東難民」排斥派だった緒方正一の娘婿になり、正一の実の息子を差し置いて、後継者と見做されるようになった男。

ニルリティ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの若きリーダー。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼4号鬼」を着装するが、生身でもかなりの腕前の持ち主。
なお「ヒーローとしての名前」である「ニルリティ」は、インド神話の悪鬼の一族「羅刹」の別名と云うヒーローらしからぬもの。

ソルジャー・ブルー
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
異常に高い身体能力を持ち、軍隊式らしき戦闘術を使う。
強敵と戦う際には強化服「護国軍鬼5号鬼」を着装する。
しゃべり方に若干の「外人訛り」が有り、女性としては高めの身長(170cm以上)。

ヴァルナ
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「水を操る力」の持ち主。
「単純に途方も無い力を持っているのみならず『出来る事の範囲』が異様に広い」規格外の能力の持ち主だが、裏を返せば「ほんの少しのミスで地形を変えかねない」ほどの存在である為、「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」ヒーロー。

ファイアリー・エンジェル
福岡県久留米市・小郡市、佐賀県鳥栖市・三養基郡を中心に活動する「御当地ヒーロー」チームの一員。
通常の「魔法」「超能力」とは異なるらしい「炎や熱を操る力」の持ち主。
ただし、ヴァルナほどでは無いが「強力過ぎて逆に使える状況が限られる」らしく、前線に出る事は稀。
「機械仕掛けの天使/聖騎士」をイメージしたプロテクターを身に付けているが、そのプロテクターには、偶然にも、後述する「永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)」のプロテクターに刻まれている旧約聖書の一節の本来の文章「神の御怒りは束の間に過ぎず、神の恩寵は生涯に渡り続く。涙の夜は必ず明け、喜びの朝が来るだろう」が英語で刻まれている。

クリムゾン・サンシャイン
御当地ヒーローチームに所属しない一匹狼のヒーロー。
白いプロテクターと旭日旗をイメージした覆面を着装している。
超身体能力と高速治癒能力を誇るが、似た能力を持つ「ソルジャー・ブルー」に比べると、高速治癒能力では上回るが、身体能力や技量では劣る。
「御当地ヒーローの暴虐から一郎達を護ってくれていた」(※:あくまで一郎視点)が、ある日、突然、行方不明になる。

永遠の夜(エーリッヒ・ナハト)
クリムゾン・サンシャインの行方を探す一郎の前に立ちはだかる謎の悪漢(ヴィラン)。
黒いプロテクターと黒い覆面を着装し、そのプロテクターには、旧約聖書の詩篇の一節を逆転させた「神の慈悲など有っても束の間に過ぎず、人間の怒りは永遠に消えない。涙の夜は終る事なく、喜びの朝など来る筈は無い」と云う言葉がドイツ語で刻まれている。
「真紅の夕日が沈んだ後に来る、明ける事なき夜」を自称し、一郎の友人達を次々と手にかけ、一郎を孤立させてゆく。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み