第48話 暁光(ぎょうこう) 二人のトリガー

文字数 3,394文字

二〇二五年八月五日 火曜日午後三時

 陸自の大部隊は、無人だった決闘空間の中へとなだれ込んできた。
 令司は、ドローン群を神剣のEMP効果で撃ち落とすと、京子をおぶったまま建物の中へと姿を晦ます。
 銃を構えた隊員たちが、二人の行方を調べ回っていた。
 さすが東山京子だけあり、血が大分流れたにも関わらず止血し、まだ生きていた。しかし、確実に血液が足りない。
 青白く、時間が経てば確実に死んでしまう。
 令司はいつまでも隠れている訳にはいかなかった。動かなければならない。
 令司は彼女を担いで、自衛隊の包囲を突破する決意を固めた。
 剣を握ると、不思議と力が備わった。彼女を担いでも、早く走る事ができた。
 自衛隊は容赦なく徹甲弾を撃ってきた。
 飛んできた弾は、剣の前で止められた。金属の出す電磁波のランクで、はるかに格下の徹甲弾などに、救国剣が負けるはずがない。令司は、この剣が最強の兵器だという意味をその時知った。
 PM気剣体の一致!
 金属にはれっきとしたカーストが存在し、PMは全ての金属の最高峰に位置する。それが発揮されるのは令司が剣を持ち、一体化したときのみ。これは単にあらゆる物体を斬るだけではない。この金属から出る電磁波が、他の金属を捉え、支配するのである。
 令司は剣を振り、雨のように降り注ぐ弾丸を跳ね返していった。
 気絶している京子の鉄球が、水先案内人のように走る二人の前に浮かび続け、障害物を突破する。
 攻撃ヘリを令司は返り討ちにした。気絶した京子の鉄球が、宙へ放り出されたヘリ操縦士を救った。
 追われながら、令司は遂に自衛隊の包囲網を突破した。戦いの中、令司は剣で、次々新しい能力を開発できたのだった。

     *

「ジャミングガン、効果ありません! 妙だな……おかしいです。あれはスタンガン機能のついたドローンじゃないんでしょうか?」
 隊員の一人が、シルバースフィアに手を焼いている。
「まったく違うな」
 長門はあきれるように言った。
「追うな! これ以上追ったら、こちら側に多大な犠牲者が出る。無駄だ」
 レイヴァンのサングラス越しに睨みつける。
「なぜです。命令違反です」
 部下の眼は命令に納得していない。
「今は原爆さえ回収できればそれでいい。観ろ」
 長門はモニターを指示した。
「ドローンの映像によると、信管が見事に抜かれている。おまけに、PM力によってPM磁化が進み、原爆はPMとして新しく生まれ変わっている。俺たちが万が一の事態に備えて、すべてのPM兵器を使って爆発を食い止める必要がなくなった。彼らは見事にやってのけた。だが、それだけじゃない。核は人類には早すぎた――下手すると核とPMも同じ道を辿る。こんなものが世の中に出たら大変だ。こいつは世界の戦略地図を塗り替える重要な戦術核兵器となる。あってはならない代物だ。回収したことは一切伏せるんだ」
「あの二人が話していたことは本当なんでしょうか? 竹やりで戦闘機を撃ち落とすだとかなんとか……」
「現に目撃したじゃないか、今、我々全員が! 精神感応金属で、物体を銃弾より早く飛ばせる。だったら竹やりで、B29どころか39でも49でも59でも余裕で撃ち落とせるっていう理屈だッ!」
 PM力の遠隔操作を、長門は熟知していた。
「いいか? こいつは茶番じゃあない。自衛隊には三輪教が一本の竹やりで、米軍の戦闘機を十数機撃ち落とした記録もある。三種の神器を有した三輪教は、大量の竹やりを、PMで上空一万メートルまで飛ばす用意ができていた。国家機密だがな。飛行機が落ちるのに、ミサイルである必要はない。ジェットエンジンや、プロペラに鳥がぶつかれば墜落するんだ。日本全国で竹やりの軍事訓練が行われていたが、あの教団では、まったく別の意味合いを持っていた」
 長門は、口髭に縁どられたうすら笑いを浮かべて、空を飛ぶ烏を見上げた。
「お前らは知らないだろうが、鷹城令司の持つPM刀――天叢救国剣、最初こそおぼつかなかったが今や、二十パーセント作動している」
 長門には独特のPM力の計算法があった。
「―――高々、二十パーセントでは?」
 長門は、サングラスを取った。やくざも恐れ入る眼光が光っている。
「バカな、我々を殲滅するのに、それだけあれば十分だ。――我々が注意しなければならないのは、『天』だ」
「天?」
「大斗会は、易姓革命理論に乗っ取っている。それが東京武士道の共通の世界観であることを忘れるな。これは天命なのだ。天を甘く見てはならない」
「はぁ……」
「神聖な大斗会は東京の運命を決定する。鷹城令司は決闘に勝った。彼は三種の神器を手に入れた。だから、人々に幸福をもたらすという『義』を有する! それを失った東京帝国は江戸幕府同様天命を終え、鷹城令司は天命の道を辿る。天の意思は都民の意思を反映している。義を体現するものだけが、都民の支持を受けて為政者になりうる!」
 長門の語る天命の思想は、古代より東洋社会で広く信じられてきたものだが、この現代の東京においても同様であることを、隣の部下は知らない。
「奴はもう鷹城であって鷹城じゃない。ヤマトタケルとして、今後ますます覚醒して、この東京の改革に乗り出すだろう」
 自衛隊の攻撃は完全に止み、再び烏の鳴き声の天下となっている。
「さて鷹城令司。俺には貴様がよく分かっている。新しい時代の始まりがな。貴様もまた、この騒々しい時代を演出するために出てきた登場人物だ。しかし鷹城! 決戦の勝者が東山京子を殺さなかったことで、東京決闘管理委員会の沙汰は、衆参同時選挙の結果を五十対五十にとどめる程度にしかせんだろう。このままじゃ人狼共は、根腐れを起こしてしまう、かもな」
「……」
「いよいよ、俺が旗揚げする他に道はないだろう。よくぞ『期待通り裏切ってくれた』。――桶狭間は近い。間もなく、限定内戦法の開かずの門が開かれる。戦いのプロである我々自衛隊は、大斗会に参加することは許されなかった。決闘は司法、検察&警察の管轄だが――内戦となれば自衛隊の管轄だ。月島伊織もそれを知っていた。だが結局、学生運動は警察の管轄を超えることはなく、自衛隊の出番はなかった。それを月島はいら立っていた。フフフ……ハハハハハ!」
 覇王は高笑いした。
「鷹城のなした選択によって、これから東京は荒れに荒れるぞ。終わりなき終わりの始まりだ。戦後一貫して……民主国家日本の軍隊であって軍隊でない我が自衛隊。この時を、どんなに待ったか分からん。自衛隊の名誉回復のために。外国のスパイは一体何を調べてるんだが知らないが、軍事機密とて、わが国は『防衛白書』にすべて書いてある状態で、あってないようなモノ。だがな、この自衛隊の本当の秘密はまだ出てきちゃいない。―――PMと、この俺だ! 第六天魔王・夫が」

     *

 新宿を脱出した鷹城令司はまだ生きていた。
 新宿方面を支配する自衛隊は、もう追ってはこなかった。その他の都内の地域は、東京地検特捜機動隊新番組・ガンドッグの領域である。今度は五百旗頭や花音たちが令司を狙ってくるだろう。だが、彼らはまだ姿を現さなかった。
 どこへ行けば、これからどうすればいいのか分からない。東大DNA研に行ったとたん、お縄になる可能性が高い。でも生ききってみせる自信はある。たとえ三年しか生きられなくても、京子はまだ生きているのだから。
 グローバル経済という名の新帝国主義の荒波に飲み込まれて、我々は地を徘徊する飢えた狼に、畜生道へと堕ちた。二度と這い上がることが許されない、この東京の絶対的階級社会に組み敷かれたまま―。
 荒木影子の書いた「闇夜を徘徊する餓狼」の一文だ。
 俺は京子と共に生きていく。どんなに東京帝国を、世界を敵に回したとしても!

 人狼たちよ、立ち上がれ!
 サイコ・マグネティック・フォースと共にあらんことを――。
 


                              END

予告




第二巻「東京人狼八犬伝 5G戦場の京子」

 様々な理由で都を追われた人狼たちは、梁山泊――人狼城――に集結する!
限定内戦法が、ついに始まる。

第三巻「魔天楼ブルース 東京大戦 覇王対令司」

 令司の剣のPMFを受け、戦艦大和がよみがえった。
東京スミドラシル―魔天楼―との一騎打ちで、鷹城令司と覇王・長門信夫は雌雄を決する。
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