第46話 東京原爆、撃剣霊化

文字数 3,074文字

「この場所は――」
 令司は自分の持ったPM剣が、ビリビリと揺れ、ダウンジング・ロッドのように勝手に動いていた。
 目の前の路面が急激に盛り上がり、巨大な物体がドッと地表に出てきた。自分の剣によって掘り起こされたものを見て、令司はギョッとした。
「これは――本当にガス弾が? 不発弾のガス弾だから直径二キロも封鎖したっていう」
「ガス弾なんて嘘。不発弾の原爆なのよ。―――これは」
「まさか」
 その原爆に、何かが刺さっていた。
「あれは―――剣か!?」
「あなたが持っているのは形代(かたしろ)の剣で、オリジナルじゃない。純度が高い、再現された形代の救国剣であることは確かなんだけれど」
 さっきは本物だと言っていたはずだ。
「本物の剣がそこにある。草薙は原爆を封じ、一体化していた。投げて、信管に突き刺さっていた」
「落下した原爆を?」
「令司さん―――、PMは曜変天目茶碗を作るだけじゃないです。東京に落ちた原爆を封印したのはPM神器です。一瞬爆発しかけたのですが、爆縮させた。PM塊になって、地下五十メートルのところに封印したんです。それだけ金属カーストの格差が大きい」
 PMだから、ウランの核分裂の連鎖反応を止めることができた。
「竹やりで戦闘機を撃ち落とすこともできるし、青酸カリもまたしかり」
「なるほど――そういうことだったのか」
 マスカレード・レイヴで毒を盛られた京子は、演じていただけのようだ。
 放射能、毒ガス、生物兵器も同様。全てを無効化してしまう。銃弾も軌道を変える作用。だからキョウコは決して死ぬことがなかった。PMを制するものはPMを制す。彼女は、PMでしか倒せないのである。
 京子は玉と鏡を持っている。柴咲がハイレベルな草薙の形代を打つまで、人狼には何もなかった。決して、人狼側は勝てぬように仕組まれていたのだ。
「これが……新宿の開かずの戸なんだな」
 目の前に現れた原爆を、令司はまじまじと見つめた。
「えぇそう……」
「万が一爆発したら、となると、うかつに抜けなかったのです。だから草薙のオリジナルは手に入らなかった。アーサー王は磐座に刺さったエクスカリバーを抜き、素戔嗚ノ命はヤマタノオロチを倒して剣を手に入れた。坂本龍馬は高千穂峰で天之逆鉾を引き抜いて、明治維新を実現した。勇者にしか抜けないのです。あなたの剣は扉を開ける鍵です。さぁ投げてください!」
 うながされるまま、令司は剣を原爆に刺さった剣へと投げ込む。どうなっても知らない。両者は磁石のように引き付け合い、大きな光を発して一体化した。
「このときを、待っていた。やっぱりあなたは、本物の継承者だ――」
「二つの剣が、一つに。何が起こっている?」
「剣の形はPMのエネルギーのシンボルにすぎません。実態はエネルギーそのもの。PM止揚です。その変化で、PMの形状記憶純金が、メタモルフォーゼを起こしたのです!」
 すると、草薙のPM力の強力なEMPの電波障害が発生した。
 新宿の無人空間のすべてのドローンやAIカメラが眠ったと、京子は言った。
「東京でもいくつかのパンプキン爆弾――模擬原爆が落ちています。これはその一つです」
「そのパンプキン爆弾の中に本物が混ざっていた?」
「そうです。トルーマン大統領は三発目の原爆に反対してましたけど、軍部の暴走に気づいた。食い止めようとしたけど、一足早く原爆は投下された。それを三輪教主が予言し、特高警察の大弾圧の中、三輪教は草薙で連鎖反応を回避した。PMの研究は直前で完成に至り、神器のPM力の作用で、上空五六七メートルで炸裂した刹那、ただちに放射能を封じた。核爆発の危機を薙ぎ払った。原爆は不発となった。―――その後、日米双方の支配層の密約を破って、東京に原爆を落とした米兵は、アメリカに帰国後、命じた司令部と共に処分され、大統領により隠蔽された。事実は闇に葬り去られた」
「彌千香も言ってたな……」
「東京に落ちた核兵器を三輪教は、神器のPMで阻止したのです」
「PMって放射能も……止められるのか?」
「はい。カーストの頂点ですから。が、各時代のPMは、それなりに広島・長崎の原爆投下後や、3.11の原発事故でも放射能除去に三輪教のPMが活躍しました」
 日本は、東京は、三輪教に守られた。それには上級都民も一目置かざるを得ない。
 第三の原爆のうわさは流布していたものの、ずっと、どこへ落ちたのかも分からなかった。
「つまり新宿副都心は、グラウンドゼロだったんです」
「……」
「今になって発見されるなんておかしい」
 日米の歴史がひっくり返るような発見だ。
「これをアメリカに突きつけたら、アメリカの大戦中の偽善的正義は完全にひっくり返るでしょうね。二つも原爆を落としておきながら、本土決戦を防ぐために必要だったなんていう、その論理が」
「じゃあなぜ他の原爆、爆撃は止められなかったんだ?」
「オリジナルの草薙は、神器を収集していた三輪教によって発見されたばかりでした。けど、古神道ネットワークは第四、第五の原爆にも備えていた。広島、長崎の後、すべての原爆を阻止する構えで」
 その後、ハイレベルの形代を東大第二工学部の柴咲教授が作った。
「長門陸佐率いる陸自。彼らは放射能防護服に身を包み、装甲車の中に隠れ、主にビルを盾にして配置し、もし万が一爆発したらすぐに逃げ出す準備をしている」
 なるほどガンドッグや警察の出番ではなく、近衛兵として陸自が帝都を守るという完全縦割りなわけだ。原爆が眠っている限りは!
「決闘しに来て原爆の信管を抜く。俺たちは東京のいけにえか?」
「そう。わたしだけじゃなく、あなたもね」
 京子は真顔で言った。
 三輪教が危険を賭してPMで止めた第三の原爆。それを取り出すのに、自衛隊だけではどうにもならない。もしも核が爆発した際に備えて、あらゆる物質のカースト頂点に立つPM5の草薙刀と令司のDNAが必要だった。彌千香に勝利した京子が鏡を持って行って、三種の神器をコンプリートした。
 ここで剣を回収できなければ、令司に勝機はないのだから、これも計画されたことなのか。
「日本軍は、原爆を搭載した爆撃機が来ることを傍受して知っていた。でも、三回とも意図的に無視した。戦後、A級戦犯の大物たちがCIAエージェントとして暗躍し、国策として原発開発に精を出したけれど、それは日本が、原爆開発に転用できるようにするためだった。でも311の大震災で、原爆事故が発生した。化けの皮がはがれて矛盾が一気に露出した」
 こうして最高のPM草薙オリジナルは開かずの戸に封じ込められた。
「さぁ、オリジナルの神剣を抜いてくださいッ!」
 草薙の剣は原爆に突き刺さっていて、戦後八十年間、核爆発を封じている。令司だけがそれを爆破なしに抜くことができる。
 とはいえ―――-剣を抜いた瞬間、PMの結界で封じていた放射能が拡散する恐れがある。それを一ミリも漏らしてはならない。今の令司にその力があるかどうかは、純然たる運試しである。令司はアーサー王でも素戔嗚ノ命でもない。いや、急に怪獣退治を任されたウルトラマンにでもなったような気分だが、令司は右手で神剣を引っこ抜いた。
「成功です」
 京子は当然のように微笑んでいた。
 EMP効果の磁場が消えうせた。AIカメラが復旧するのも時間の問題だ。
 京子は、新宿大斗会で令司を誘導し、原爆を掘り起こし、そこから草薙の剣を取り出させたのだ。まもなくドローンとヘリが集まって、決闘が再開する。
 令司は神剣をまじまじと見つめた。陽を浴びて、オレンジ色に輝いている。
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