第44話 雷爆の勇者

文字数 2,240文字

 一瞬、俺は思考停止した。

(こいつ、何と言った……? ゴウダたちのグループを倒しただと? 一体どうやったんだ。)

 発せられたクジョウの言葉を素直に呑み込めなかった。
 あのグループが全滅するなんて、想像できるわけがないだろう。
 手痛いダメージを受けた、という程度だったとしても驚くほどだ。

 俺の疑念を察したのか、タウラが映像を展開する。
 そこには倒れているゴウダたちがありありと映されていた。
 生きているのか死んでいるのかまでは分からない。
 いや、明らかに黒焦げになっている者もいる。
 少なからず死者は出てしまったようだ。

「嘘だろ……」

 俺は映像を目にしても信じられなかった。
 捏造じゃないかと疑うも、タウラとクジョウの表情が真実であると物語っている。
 この状況で彼らがこんなつまらない嘘を吐く意味もないだろう。
 つまりは紛うことなき真実というわけである。

(本当にどうやって勝てたんだ……?)

 Sランク異能力者を倒すのなら、同格の異能力者が必要だ。
 俺たちがクロシキを倒せたのは、彼の【夜闇ノ使徒(ナイトウォーカー)】に大きな弱点があったからである。
 ゴウダの【外甲装着(シフトチェンジ)】はこれといった欠点もない万能な異能力だ。
 まともに戦って勝つのは至難の業と言える。

 可能性があるとすれば、暗殺や特殊能力くらいか。
 どちらもクジョウのステータスでは難しそうな気がする。
 ひょっとして異能力者以外の強敵がいたのかもしれない。
 シルエみたいな実力者もいるのだ。
 そういった優秀な人材がタウラの洗脳で敵対していたとしてもおかしくはない。

「まだ信じられないようだが、俺が単独で叩き潰したからな。弱い奴らばかりで拍子抜けしたぜ」

 クジョウは誇らしげに自らの武功を語る。
 虚勢ではない話しぶりだった。

 彼は拳を固めて俺たちを見やる。

「――お前らもすぐにぶっ飛ばしてやるよ」

 その途端、クジョウの身体から紫電が迸り始めた。
 なんだかヤバい気配だ。
 凶暴な笑みを湛えながらクジョウは仕掛けてくる。

(こいつはマズいっ!?)

 俺はすぐさまシルエを背後に押し退けた。
 魔法の防御を無効化されると分かっている以上、彼女を矢面に立たせるのは危険だ。
 なんとかして俺が食い止めねばならない。
 ステータスから有用なスキルと称号を残らず発動して、高速接近するクジョウを捉える。

 クジョウはコマ送りのような挙動で接近しつつあった。
 俺の動体視力では追い切れていないのだ。

 【電撃野郎(エレキマン)】による肉体活性が為せる超スピードだろう。
 想像以上の速度である。
 これだけの能力値と補正を積んでもまだ比肩できないらしい。
 ゴウダたちを単騎で倒したというのも伊達ではなさそうだ。

「ハッハー、このまま死にやがれッ」

 ド派手に紫電を鳴らしながら、クジョウが殴りかかってくる。

 俺は魔法銃を放ってナイフを抜き放った。
 魔力を吸収されると分かった以上、魔力を結晶の弾丸にする魔法銃を使うのは悪手だ。

 俺は数少ない所持スキルの一つである【乾坤一擲】を発動する。
 これによってHPが減少する代わりに次の攻撃の威力が上がる。

「うおらぁッ!」

 クジョウの拳が顔面に迫る。
 たとえ直撃でも死なないだろうが、数秒でも行動不能になるのはマズい。
 その間にシルエに危害が及ぶ恐れがあった。

 拳の軌道を予測して寸前で腰を落とす。
 風切り音が頭のすぐそばを通過していった。

 目の前にはきょとんとした表情のクジョウ。
 まさか俺に躱されるとは思わなかったのだろう。

 その顔へと躊躇なくナイフを突き出す。
 しかし刃を伸ばした先には、既に誰もいなかった。

 眼前にいたはずのクジョウは十メートルほど前方にいる。
 こちらの反撃に慌てて飛び退いたらしい。

 クジョウは何かに気付き、手の甲で頬を拭う。
 付着したのは血液。
 彼の頬を一筋の切り傷が走っていた。
 ナイフの刺突が掠めていたのだ。
 刃先にも微量ながら血が付いている。

「てめぇ……」

 クジョウが低い声で唸る。
 余裕をかましていた表情は消え失せ、怒りと憎しみを込めて俺を睨んでいる。
 今にも噛み付いてきそうだ。

 常軌を逸した速度を有するクジョウだが、その能力は攻撃に特化しているようだ。
 掠めたナイフ程度で傷付けられたのがいい証拠である。

 傷を撫でるクジョウは大きく息を吐いた。
 怒気は若干ながらも弱まっていた。
 双眸には理性が戻っている。

「……少しはやるようだな。お前を舐めすぎていた。だが、これに付いてこれるか?」

 クジョウの纏う紫電が大きく激しく変貌する。
 離れて対峙した状態からでも、その脅威を肌で感じられるほどだった。

 シルエが鋭い声で告げる。

「あれは雷魔法です。それを体内に吸収しているようですね。信じられません……」

 なるほど、魔法で生み出した電気を【電撃野郎(エレキマン)】に組み込んだのか。
 よく考えている。
 それならば魔法の精密な操作も必要ないし、使い慣れた異能力の出力アップに繋がる。
 クジョウはさらにスピードを上げるつもりらしい。

(そう簡単には倒せないようだな……)

 死闘を確信した俺は、クジョウを殺すための算段を考え始めた。
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