第25話 決闘の行く末
文字数 3,632文字
呆気ない決闘の結果に、他の生徒は信じられない様子だった。
彼らは目を丸くして硬直している。
「嘘、だろ……?」
「どうして落ちこぼれのシルエが魔法を……」
「あ、あれはおかしい。きっと何か魔法薬をッ」
口々に紡がれるのは戯言の数々。
そりゃそうだろう。
彼らの中では負ける道理など存在し得ないのだから。
どうしてこんな結果なのか理解できるはずもない。
唯一、観客の中で事情を知る俺だけが呑気に構えていた。
両者の能力値を比較した場合、少年の方が優れている。
MPだって多いし、魔法攻撃力や魔法防御力も総じて高い。
しかし、スキルや称号を加味すると話は違ってくる。
少年も【火魔法】や【魔法威力増大】といった能力を持っているが、シルエの持つ魔法関連のスキル群からすれば微々たるものだ。
よく見れば出会った当初よりもシルエの所持スキルが増えていた。
きっと様々な実戦経験が彼女の成長を促したのだろう。
おまけに強力な効果を持つ称号まで揃っているのだから、ただ能力値が高いだけの少年が勝てるわけがない。
今回はその差が顕著に出た戦いと言えるだろう。
(俺も能力値ばかりに依存しているとこんな風になりそうだな……)
ステータスに依存しない技術面も磨いていかないと。
今の結果は自分への戒めとしておこう。
「ま、まだっ! 再戦する、ぞ……こんなこと、納得できるわけがない、だろう!?」
倒された少年が起き上がって、怒り狂いながらそんな要求を口にする。
手加減されたことが分かっていないのだろうか。
風魔法で吹っ飛ばされただけで怪我一つしていないのが何よりの証拠である。
もしシルエが本気なら、今頃はミンチになっていてもおかしくない。
殺さないように調整したとしても、重傷を負わせることくらい容易にできたはずだった。
「…………」
シルエは無言で少年を見つめる。
彼女の双眸には静かな怒りが窺えた。
だが、決して声を荒げたりはしない。
シルエの態度をどう解釈したのか、少年は鼻を鳴らす。
「今度は、全員で決闘しよう……ルールは変えず、一斉に戦うだけだ。最後まで勝ち残っていた者を、勝者としよう……」
その提案に、俺はさすがに顔を歪める。
支離滅裂すぎるだろう。
もはや決闘でも何でもない。
怨嗟を晴らすことしか考えていない発言だった。
呆れ果てた俺はシルエに声をかける。
「こんな馬鹿げたことに付き合う必要はない。無意味だよ。もう放っておこう」
「スドウさん……」
何か言いたげなシルエを宥めて、俺はその場を去ろうとする。
そこへ少年が怒鳴ってきた。
「ここで逃げれば! その落ちこぼれは奴隷行きだ! 借金はまだ返済できていない。僕たちは貴族だ。どんな手段を使ってでも、お前たちを追い詰めてやる!」
俺は踵を返そうとした足を止める。
少年たちの顔を確かめた。
どいつも自分たちの正当性を信じ切っている態度である。
彼らの中では、約束を違えたという俺たちが悪なのだろう。
「まったく、最高だな」
そこまで言われたら黙ってはいられない。
実質的な脅迫だ。
あちらは本気でシルエを貶めたいらしい。
俺はシルエの手を引いて決闘場に上がった。
いいだろう、そんなに戦いをお望みならやってやる。
「そっちが四人なら、俺が参戦しても問題ないだろう?」
「ああ、ちっとも問題ない。戦力換算できない人間が増えようと意味はない」
俺の質問に返ってきたのは、そんなふざけた言葉だった。
彼らが警戒しているのはシルエのみ。
反面、俺のことは脅威として見ていないようだ。
相当に侮られているらしい。
油断が足元を掬うのだと先ほどの決闘で学ばなかったのだろうか。
まあ、いいさ。
速攻で決めてやろう。
両者の準備が整うのを見計らい、少年がコインを弾いた。
コインが床に触れると同時に、俺は一直線に疾走する。
背中に吊った魔法銃は使わない。
加減が利かないので、生徒たちを殺してしまう可能性があるからだ。
さすがにそこまでするとマズい。
俺は代わりに長さ一メートルくらいの金属製の棍棒を携えていた。
これは廃砦の盗賊の遺品だ。
非殺傷ということで刃のないこいつを得物に決めた。
素早さ特化のステータスにしていた俺は、生徒たちの詠唱が終わる前に接近に成功する。
すぐさま手頃な場所にいた少女に狙いを定めた。
「は、速いっ!?」
驚く少女の膝を棍棒のスイングで破壊し、倒れるまでに蹴り飛ばす。
大きくバウンドした少女は場外に落下した。
これで残り三人。
「貧弱すぎる。魔法使いってやつはこんなもんなのか?」
「てめぇ……!」
俺の挑発に顔を真っ赤にする青髪の生徒。
そいつは至近距離で杖を振りかぶる。
先端ではパリパリと電気が迸るのが見えた。
その横面に黄色い火花が炸裂する。
シルエによる火魔法だった。
ただし、HPはほとんど減っておらず、あくまで牽制用に近い魔法なのだろう。
「うごがあああああぁっ!?」
青髪生徒は顔を押さえながら悶絶する。
低威力と言っても、多少の痛みや驚きは伴うよな。
それにしてもシルエのサポートが絶妙である。
俺が接近戦に持ち込むのを見越して、魔法攻撃を合わせてくれたようだ。
隙だらけの青髪生徒を棍棒で殴り飛ばして場外へと除ける。
残る二人は、魔法で自分たちの守りを固めていた。
魔眼によると多重の防御魔法を展開している。
やられた生徒を時間稼ぎに使ったのか。
こいつはまた素晴らしいコンビネーションである。
安全地帯を手にした生徒たちは、敵意を剥き出しにした表情で詠唱を開始した。
今度は攻撃魔法らしく、彼らの視線を見るにシルエを狙っているようだ。
気になるのがその威力。
ステータスの情報が正しければ、明らかに相手を殺しかねないダメージの魔法であった。
もはや、なりふり構わずシルエを叩き潰したいようだ。
自分たちの設定した決闘のルールもどうでもいいらしい。
(見上げた根性だよ、本当に)
俺は棍棒を捨てて魔法銃を構えた。
そして躊躇なく生徒たちへと発砲する。
改造した魔法銃は凄まじい勢いで光弾を連射していった。
半透明のバリアー状の防御魔法を次々と削り破壊していく。
光弾のシャワーは数秒とかからずに防御魔法をすべて木端微塵にした。
そのまま詠唱が完了寸前だった生徒たちに襲いかかる。
「うぐぅ……」
「げぇあっ!?」
無数の光弾を浴びた生徒たちは、血を流しながら倒れ込んだ。
HPが尽きる寸前だが、どちらもギリギリで耐えている。
俺はシルエを確認する。
彼女は何層にも及ぶ防御魔法を構築していた。
この二人が築いたものより遥かに堅牢だ。
それを瞬間的に一人で造ってしまう力に苦笑する。
「……わざわざ援護するまでもなかったな」
俺は三人目の襟首を掴み、場外へ放り投げた。
これでラストだ。
「ぐっ、くそ……」
床に這いつくばるリーダー格の少年は杖に手を伸ばした。
俺はその手を踏み付ける。
少年は血走った目で悔しげに見上げてきた。
「このっ、下民がッ! どうしてお前たち如きが――」
「うるさいよ」
無意味な罵倒を垂れ流す少年の後頭部を蹴り、速やかに意識を刈り取った。
その状態から転がして場外へ落とす。
「はい、俺たちの勝ちね」
俺は魔法銃を肩に担いで息を吐く。
生徒たちのステータスには「状態:昏倒」や「状態:気絶」が表示されていた。
放置しても死にそうな者はいない。
さて、敗者に相応しい処置をしよう。
俺は魔法銃での連射で決闘場の一部を破壊する。
割れた石材を集めて、その耐久値と生徒たちの能力値を入れ替えていった。
数分の作業を経て、生徒たちの能力値は残らず一桁にまで低落する。
これでもう、陰湿な真似をする余裕はなくなるだろう。
もし懲りずに報復しに来たら、その時は遠慮なく屍にするだけだ。
なるべく寛容な手段で解決したいが、相手がそれを望まないのなら話は別である。
悪意を以て攻撃してくる人間は、悪意を以て迎えてやるさ。
処理を終えたところで、遠くからざわめきが聞こえた。
決闘の騒ぎを聞きつけて、魔法学校の生徒が様子を見に来たらしい。
ここで捕まったら面倒なことになりそうだ。
俺はそそくさと魔法学校の出入り口へと歩きだす。
その際、シルエに声をかける。
「後始末を丸投げしてごめんね。また今度、ご飯でも奢らせてもらうから」
返事を待たず、俺は颯爽とその場から逃げ出した。
彼らは目を丸くして硬直している。
「嘘、だろ……?」
「どうして落ちこぼれのシルエが魔法を……」
「あ、あれはおかしい。きっと何か魔法薬をッ」
口々に紡がれるのは戯言の数々。
そりゃそうだろう。
彼らの中では負ける道理など存在し得ないのだから。
どうしてこんな結果なのか理解できるはずもない。
唯一、観客の中で事情を知る俺だけが呑気に構えていた。
両者の能力値を比較した場合、少年の方が優れている。
MPだって多いし、魔法攻撃力や魔法防御力も総じて高い。
しかし、スキルや称号を加味すると話は違ってくる。
少年も【火魔法】や【魔法威力増大】といった能力を持っているが、シルエの持つ魔法関連のスキル群からすれば微々たるものだ。
よく見れば出会った当初よりもシルエの所持スキルが増えていた。
きっと様々な実戦経験が彼女の成長を促したのだろう。
おまけに強力な効果を持つ称号まで揃っているのだから、ただ能力値が高いだけの少年が勝てるわけがない。
今回はその差が顕著に出た戦いと言えるだろう。
(俺も能力値ばかりに依存しているとこんな風になりそうだな……)
ステータスに依存しない技術面も磨いていかないと。
今の結果は自分への戒めとしておこう。
「ま、まだっ! 再戦する、ぞ……こんなこと、納得できるわけがない、だろう!?」
倒された少年が起き上がって、怒り狂いながらそんな要求を口にする。
手加減されたことが分かっていないのだろうか。
風魔法で吹っ飛ばされただけで怪我一つしていないのが何よりの証拠である。
もしシルエが本気なら、今頃はミンチになっていてもおかしくない。
殺さないように調整したとしても、重傷を負わせることくらい容易にできたはずだった。
「…………」
シルエは無言で少年を見つめる。
彼女の双眸には静かな怒りが窺えた。
だが、決して声を荒げたりはしない。
シルエの態度をどう解釈したのか、少年は鼻を鳴らす。
「今度は、全員で決闘しよう……ルールは変えず、一斉に戦うだけだ。最後まで勝ち残っていた者を、勝者としよう……」
その提案に、俺はさすがに顔を歪める。
支離滅裂すぎるだろう。
もはや決闘でも何でもない。
怨嗟を晴らすことしか考えていない発言だった。
呆れ果てた俺はシルエに声をかける。
「こんな馬鹿げたことに付き合う必要はない。無意味だよ。もう放っておこう」
「スドウさん……」
何か言いたげなシルエを宥めて、俺はその場を去ろうとする。
そこへ少年が怒鳴ってきた。
「ここで逃げれば! その落ちこぼれは奴隷行きだ! 借金はまだ返済できていない。僕たちは貴族だ。どんな手段を使ってでも、お前たちを追い詰めてやる!」
俺は踵を返そうとした足を止める。
少年たちの顔を確かめた。
どいつも自分たちの正当性を信じ切っている態度である。
彼らの中では、約束を違えたという俺たちが悪なのだろう。
「まったく、最高だな」
そこまで言われたら黙ってはいられない。
実質的な脅迫だ。
あちらは本気でシルエを貶めたいらしい。
俺はシルエの手を引いて決闘場に上がった。
いいだろう、そんなに戦いをお望みならやってやる。
「そっちが四人なら、俺が参戦しても問題ないだろう?」
「ああ、ちっとも問題ない。戦力換算できない人間が増えようと意味はない」
俺の質問に返ってきたのは、そんなふざけた言葉だった。
彼らが警戒しているのはシルエのみ。
反面、俺のことは脅威として見ていないようだ。
相当に侮られているらしい。
油断が足元を掬うのだと先ほどの決闘で学ばなかったのだろうか。
まあ、いいさ。
速攻で決めてやろう。
両者の準備が整うのを見計らい、少年がコインを弾いた。
コインが床に触れると同時に、俺は一直線に疾走する。
背中に吊った魔法銃は使わない。
加減が利かないので、生徒たちを殺してしまう可能性があるからだ。
さすがにそこまでするとマズい。
俺は代わりに長さ一メートルくらいの金属製の棍棒を携えていた。
これは廃砦の盗賊の遺品だ。
非殺傷ということで刃のないこいつを得物に決めた。
素早さ特化のステータスにしていた俺は、生徒たちの詠唱が終わる前に接近に成功する。
すぐさま手頃な場所にいた少女に狙いを定めた。
「は、速いっ!?」
驚く少女の膝を棍棒のスイングで破壊し、倒れるまでに蹴り飛ばす。
大きくバウンドした少女は場外に落下した。
これで残り三人。
「貧弱すぎる。魔法使いってやつはこんなもんなのか?」
「てめぇ……!」
俺の挑発に顔を真っ赤にする青髪の生徒。
そいつは至近距離で杖を振りかぶる。
先端ではパリパリと電気が迸るのが見えた。
その横面に黄色い火花が炸裂する。
シルエによる火魔法だった。
ただし、HPはほとんど減っておらず、あくまで牽制用に近い魔法なのだろう。
「うごがあああああぁっ!?」
青髪生徒は顔を押さえながら悶絶する。
低威力と言っても、多少の痛みや驚きは伴うよな。
それにしてもシルエのサポートが絶妙である。
俺が接近戦に持ち込むのを見越して、魔法攻撃を合わせてくれたようだ。
隙だらけの青髪生徒を棍棒で殴り飛ばして場外へと除ける。
残る二人は、魔法で自分たちの守りを固めていた。
魔眼によると多重の防御魔法を展開している。
やられた生徒を時間稼ぎに使ったのか。
こいつはまた素晴らしいコンビネーションである。
安全地帯を手にした生徒たちは、敵意を剥き出しにした表情で詠唱を開始した。
今度は攻撃魔法らしく、彼らの視線を見るにシルエを狙っているようだ。
気になるのがその威力。
ステータスの情報が正しければ、明らかに相手を殺しかねないダメージの魔法であった。
もはや、なりふり構わずシルエを叩き潰したいようだ。
自分たちの設定した決闘のルールもどうでもいいらしい。
(見上げた根性だよ、本当に)
俺は棍棒を捨てて魔法銃を構えた。
そして躊躇なく生徒たちへと発砲する。
改造した魔法銃は凄まじい勢いで光弾を連射していった。
半透明のバリアー状の防御魔法を次々と削り破壊していく。
光弾のシャワーは数秒とかからずに防御魔法をすべて木端微塵にした。
そのまま詠唱が完了寸前だった生徒たちに襲いかかる。
「うぐぅ……」
「げぇあっ!?」
無数の光弾を浴びた生徒たちは、血を流しながら倒れ込んだ。
HPが尽きる寸前だが、どちらもギリギリで耐えている。
俺はシルエを確認する。
彼女は何層にも及ぶ防御魔法を構築していた。
この二人が築いたものより遥かに堅牢だ。
それを瞬間的に一人で造ってしまう力に苦笑する。
「……わざわざ援護するまでもなかったな」
俺は三人目の襟首を掴み、場外へ放り投げた。
これでラストだ。
「ぐっ、くそ……」
床に這いつくばるリーダー格の少年は杖に手を伸ばした。
俺はその手を踏み付ける。
少年は血走った目で悔しげに見上げてきた。
「このっ、下民がッ! どうしてお前たち如きが――」
「うるさいよ」
無意味な罵倒を垂れ流す少年の後頭部を蹴り、速やかに意識を刈り取った。
その状態から転がして場外へ落とす。
「はい、俺たちの勝ちね」
俺は魔法銃を肩に担いで息を吐く。
生徒たちのステータスには「状態:昏倒」や「状態:気絶」が表示されていた。
放置しても死にそうな者はいない。
さて、敗者に相応しい処置をしよう。
俺は魔法銃での連射で決闘場の一部を破壊する。
割れた石材を集めて、その耐久値と生徒たちの能力値を入れ替えていった。
数分の作業を経て、生徒たちの能力値は残らず一桁にまで低落する。
これでもう、陰湿な真似をする余裕はなくなるだろう。
もし懲りずに報復しに来たら、その時は遠慮なく屍にするだけだ。
なるべく寛容な手段で解決したいが、相手がそれを望まないのなら話は別である。
悪意を以て攻撃してくる人間は、悪意を以て迎えてやるさ。
処理を終えたところで、遠くからざわめきが聞こえた。
決闘の騒ぎを聞きつけて、魔法学校の生徒が様子を見に来たらしい。
ここで捕まったら面倒なことになりそうだ。
俺はそそくさと魔法学校の出入り口へと歩きだす。
その際、シルエに声をかける。
「後始末を丸投げしてごめんね。また今度、ご飯でも奢らせてもらうから」
返事を待たず、俺は颯爽とその場から逃げ出した。