第34話 望まぬ激戦区

文字数 2,449文字

 諸々の戦闘準備を済ませた俺たちは地下牢獄を出る。

 ハタセは牢屋に閉じ込めておいた。
 手足を潰して能力値も下げたから、自力での脱出はまず不可能だろう。

 殺してもいいのだが、奴にはきちんと罪を償わせるつもりでいる。
 命を奪って終わりじゃ駄目だ。
 月並みで甘い考えかもしれないけど、カネザワたちも特に反論はしてこなかった。
 もし復帰して邪魔してきたら、その時は責任を持って俺が殺す。

 階段を先頭で上がるのは俺だ。
 理由はもちろん再生能力があるからである。
 死ななければどうとでもなるからね。
 もちろんなるべく怪我をしないのが一番だが、
 再生すると言っても痛みは感じるのだ。

(このまま無傷で解決できればいいけど……たぶん無理だな)

 直感的に悟った俺は、ため息を押し殺して足を動かす。

 背後からはカネザワたちと洗脳が解けた勇者が付いてきていた。
 【増強血嗣(ブラッドバースト)】のニシナカによる【回復魔法】で無理やり復活させたのだ。
 ハタセとの戦闘での負傷者もすべて治療済みである。

 本来は安静にすべきなのだろうが、生憎とそんな気遣いをしてやれる状況でもない。
 もうすぐ騎士やら兵士やら異能力者やらが殺到する。
 タウラの凶行を止めたらいくらでも休んでいいので、ここは踏ん張ってほしい。

(戦力がかなり増えたな。これならどうにかできそうだ……)

 救出したクラスメートは十二人。
 その中にはSランク異能力者【外甲装着(シフトチェンジ)】のゴウダも含まれていた。

 純粋な戦闘能力なら、彼は特進クラスでもトップクラスだ。
 洗脳が解けたばかりで本調子ではないにしても十分に頼りになる。
 少しだけ肩の荷が下りた感覚だった。

 階段を上がった先には薄暗い廊下があった。
 位置的にどこに当たるのだろう。
 召喚後、すぐに追い出された俺は城内の構造が分からない。
 アイコンタクトでカネザワに道案内を頼む。
 彼なら【人物検索】でタウラの居場所も分かるので一石二鳥だ。

 数秒の沈黙を経てカネザワは述べる。

「タウラは城の最上階付近だ。位置的に広間だろう。そこにずっと留まっている。戦闘能力が低いから前線に出向くことはないだろう。とにかく階段を上がり続ければ辿り着ける」

「なるほど、分かりやすくて何よりだ」

 そんなやり取りをしていると、左方の突き当たりから兵士の集団が現れた。
 彼らは俺たちを見るなり血眼になって突撃してくる。
 明らかに異様な雰囲気だ。
 何かがおかしい。

 迫る集団の奥に、ちらりと見覚えのある姿が覗いた。
 俺はその人物の名前と異能力を思い出して舌打ちしそうになる。

「まったく、どこまでも考えてやがるな……」

 ミヤノ・ツトム。
 Bランク異能力者で【壊速特急群(スタンピード)】の使い手である。
 その効果は、周囲の人間の攻撃性を引き出して一種の暴走状態にするというものだ。
 無論、暴走の対象は彼が自由に調整できる。
 ちなみに一瞬だけ見えたミヤノの勇者スキルは【指揮】と【命令】だった。

「お前ら! あいつらを血祭りにして祝杯を上げるぞッ!」

「オオオオォォッ!」

 ミヤノの声に呼応するように兵士が雄叫びを上げる。
 ずらっと表示されたステータスには揃って「状態:暴走」「状態:高揚」「状態:狂戦士」が追加されていた。
 各種スキルの併用によって味方の兵士を強化しているのか。
 大幅なパワーアップの代償として、兵士たちは理性が半ば飛びかかっているようだ。

(このまま接近されるとマズいな)

 そう判断した俺は、兵士に向けて魔法銃を乱射した。

 光弾は容赦なく炸裂して兵士を蹴散らすも、彼らは味方の犠牲を厭わず突っ込んでくる。
 恐怖も消え去っているようだ。
 連中はこのまま圧倒的な数で押し潰すつもりらしい。
 滅茶苦茶な戦法だな。
 自軍への被害は度外視なのか。

 俺たちは自然と踵を返して反対方向へと駆けだした。
 あんな連中には付き合っていられない。
 律儀に戦ってやると、こちらが余計な消耗を強いられる。
 さっさと逃げるのが賢明だろう。

 ところが、上階へ続く大階段を見つけたところで、正面に別の兵士の集団が登場した。
 しかも、またもや後方に異能力者が潜んでいる。

 ヒラニシ・サヤ。
 【奉仕信念(ウルトラサービス)】を操るAランク異能力者だ。

 この異能力は他者に一時的な強化状態を付与する。
 【壊速特急群(スタンピード)】と違って対象者の理性が飛ばない分、総合的な強化率は劣る。
 それでも脅威には違いない。
 ヒラニシのスキルは【障壁魔法】【防御強化】だった。
 味方を強化しつつ、自分の守りも固められるというわけだ。

 俺は足を止めて歯噛みする。

(味方を強化する異能力持ちが挟み撃ちと来たか……よく考えているな)

 しかも、二人とも異能力と勇者スキルがマッチしている。
 悔しいが堅実な戦法だろう。

 どうしたものかと考えていると、ゴウダが【壊速特急群(スタンピード)】グループの前に進み出た。
 彼は声を張り上げて告げる。

「こちら側は俺たちに任せろ! 二手に分かれて上を目指すぞ! 少人数の方が機動力に優れているからな。しかし、その前にまずはこいつらを倒す。背中は任せたッ!」

 返答も待たず、ゴウダは狂戦士と化した兵士に突撃していく。
 他にも数名の囚われていた勇者が続いていった。

 背後で勃発する戦いの嵐に、俺は思わず苦笑する。

(戦力分散は避けたいんだけどなぁ……)

 あまり独断的な行動はしてほしくなかったのだが。
 ゴウダの存在は切り札なのだ。
 予め釘を刺しておくべきだったか。

 とは言え、今更異議を唱えられるはずもない。
 こうなったら流れでやるしかないだろう。

 迫る兵士の軍団を前に、俺は魔法銃を構えた。
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