第7話 再会の兆し

文字数 2,053文字

 俺は気を取り直して依頼の貼られた掲示板へ向かう。
 周りの視線が気になるけど無視だ。
 高額依頼を探すことを優先しようと思う。

 さっきの出来事だって正当防衛だから大丈夫だ。
 もし何か訊かれたらそれで貫くつもりである。
 ちょっとだけ能力値を奪ったし、サーベルは堂々と貰ったけど、窃盗罪で捕まったりはしないと信じたい。

 俺は依頼用紙を順にチェックしていく。
 今更だけどこの世界の文字は問題なく読めた。
 スキルの【翻訳】のおかげだろう。
 ただし、書くことはできなさそうなので、そちらは練習が必要みたいだ。

(金貨五十枚を稼ぐとなると、どれがいいかなぁ……)

 掲示板にはたくさんの依頼がある。
 薬草の採取が特定の魔物の素材の提供など、内容は多種多様だ。

 しかし、報酬額が安い。
 高いもので銀貨十枚程度だった。
 報酬が金貨払いの依頼もあるにはあるが、シルエに尋ねてみると何日もかかるような難度の高い依頼らしい。
 そもそも、Fランク冒険者では受注手続きを断られる可能性があるそうだ。

 返済期限は二日後。
 高額依頼をいくつもこなせば金額的には届きそうだが、日数を加味すると絶対に間に合わない。

 最善策も特にないので、俺は素直にギルドの職員さんに訊くことにした。
 悩んでいても八方塞がりには違いないからね。
 プロに教えてもらった方が手っ取り早くていい。

「すみません、二日間で金貨五十枚を稼ぎたいのですが、何か良い依頼とかってありませんかね」

「ふ、二日間で、金貨五十枚、ですか……?」

「はい。多少リスクはあってもいいので」

 さすがに楽をして大金持ちになれるとは思っていない。
 まあ、【数理改竄(ナンバーハック)】と【竜血の洗礼:生命竜】があれば、大抵の危険は割となんとかなるだろう。

 しばらく思案した職員さんは一枚の依頼用紙を取り出した。

「ちょうど貼り出そうと思っていたものですが、これでしたら相応の報酬を得られるはずです」

 渡されたその用紙には、ある男と彼が率いる組織の情報が載っていた。
 下の方には報酬が金貨二十枚とある。
 その男を生け捕りにすれば、上乗せで金貨を十枚追加してくれるらしい。

(なるほど、賞金首か)

 標的の男は盗賊の大将である。
 この町から半日ほどの場所にある廃砦に部下を連れて潜伏しているそうだ。

「他国で有名な盗賊でして、一週間ほど前にこの国へ活動拠点を移したとの報告がありました。彼による甚大な被害を予想した高額の報酬となっております」

 職員さんによる詳細な説明に頷く。
 それだけ有名ながらも捕まっていないということはかなり手強いのだろう。
 他の依頼とは明らかに違う報酬額にも納得だ。

 しかし、これでは金貨五十枚に届かない。
 生け捕りでも二十枚足りなかった。
 俺の疑問を察したのか、職員さんが追加の説明をしてくれる。

「盗賊を殺害及び捕縛した場合、彼らの所有物を得られます。この"魔弾"のジークは大規模な盗賊団を率いていますから、その財産はかなりのもの。ご希望の金貨五十枚は難なく達成できるはずですが……」

「なるほど。では、この依頼でお願いします」

 何か言いたそうな職員さんの口ぶりをスルーする。
 たぶん「初心者が挑む依頼ではないからやめておけ」と警告したいのだろう。
 それは百も承知である。
 心配してくれる職員さんには悪いと思うけどね。

 これで金貨五十枚を稼げるのならばそれでいい。
 簡単な手続きだけをしてもらって、俺とシルエはギルドの外へと出た。

「あの、私のために張り切ってくださるのは嬉しいですが、さすがに賞金首を捕まえるのは難しいのではないでしょうか……」

 シルエが遠慮がちに意見する。
 手続きの際には口を挟んでこなかったが、やはり気になっていたようだ。

「まあ、なんとかなるよ。それしか手段がないわけだし」

「そうですが……」

 シルエは反論できずに詰まる。
 彼女も他に案を思い付かない以上、賞金首を狙いに行くしかないと理解しているのだ。
 それでも不安が拭えないのだろうね。
 当然のことだと思うけど、ここは覚悟を決めてほしい。

 ひとまず行動方針が定まったところで、俺は通りの騒がしさに気付く。
 ここはずっと人に溢れているが、今はその密度が明らかにおかしい。
 人間の壁は通りに沿ってできており、まともに歩けないようになっている。
 まるでパレードでも行うかのような状態だ。

 俺は近くの人に尋ねる。

「あの、これから何かあるんですか?」

 こちらを向いたその人は、やや興奮気味に答えた。

「あんた知らないのか! もうすぐ異界の勇者の紹介と挨拶が始まるんだよ! 滅多にない機会だから、どいつも一目拝んでおきたくて集まってるわけさ」

 異界の勇者。
 その言葉を聞いた俺は、思わず微妙な表情になった。
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