第17話 魔弾の盗賊

文字数 2,432文字

「こんなもんでいいか……」

 俺は戦斧で肩を叩いて息を吐き、自分の身体を見下ろす。
 現在の恰好は、盗賊ルックとも言える状態だった。
 焼けた制服の上着を脱ぎ捨て、代わりに盗賊の装備を剥いでみたのである。

 分厚い生地のフード付きコートだ。
 耐火性能が高いようで、魔法使いの火炎放射を受けたはずなのに熱くなっているだけで破損していない。
 ちなみに本来の持ち主は手足と顔面が黒焦げになっていた。
 ステータス的にもかなり頑丈みたいだが、防護性能に関してはあまり期待しない方がよさそうだ。
 別に肌を一切覆い隠してくれるわけじゃないからね。
 それでもただの制服よりは数段マシだろう。

 他にも鞘に納めた剣をベルトで腰に吊るしておいた。
 スムーズに引き抜けることを何度か確認する。
 コートを着た状態でも問題なさそうだった。

 さらなる収穫を求めて盗賊の死体を漁ったが、大部分が魔法使いの火炎放射で焼けてしまっていた。
 非常に残念な結果である。
 後でシルエの方へ行った盗賊の装備品が残っていないかチェックしよう。

 いい加減、丈夫な服がほしい。
 肉体が修復されても、毎回こんな風にボロボロになっていてはキリがないよね。
 魔法のある世界だし、自動回復する衣服くらい存在しそうだ。

 そんなことを考えていると、向こうの方で連続で爆発音がした。
 シルエが派手にやっているみたいだ。
 彼女のサポートには行かなくても大丈夫だろう。
 盗賊たちは相変わらず悲鳴を上げているし、俺よりよほど上手く立ち回っているようなのだ。
 
 ふらふらと近付いたら、魔法の巻き添えを食らいそうだしね。
 迷惑をかけてしまったら本末転倒である。
 それより目的を優先した方がいい。

 武装を整えた俺は、戦斧を引きずりながら塔の壁に手を突く。
 そして、瓦礫の破片と塔の壁の耐久値を入れ替えた。

 最初に廃砦を囲う壁を破壊した時と同じ戦法だ。
 おそらく"魔弾"のジークはこの中にいる。
 戦うのも面倒だし、塔の崩落で殺してから死体を引き上げればいいだろう。
 生け捕りにできればラッキー程度の考えだ。

 これなら余計なリスクを背負わずに済む。
 相手は有名な盗賊らしいからね。
 どれくらいの実力なのか未知数だし、できるだけ楽な手法で仕留められた方がいい。

「お、そろそろだな」

 耐久値が激減した塔がぐらぐらと揺れ始める。
 俺は倒壊に巻き込まれないように離れた。
 揺れは次第に大きくなり、塔がゆっくりと崩れだす。

(これで終わればいいんだけど……)

 そんな俺の希望を打ち砕くように、塔の石壁を破壊して人影が外に飛び出してきた。
 俺は正体を見極めようと目を凝らす。
 回転する人影がキラキラと何かを瞬かせた。
 刹那、光弾がこちらに飛来してくる。

「なっ……!?」

 咄嗟のことに反応できず、光弾が胴体に炸裂した。
 衝撃で俺はたたらを踏む。
 命中箇所が白煙を上げ、熱した鉄を押し付けたような激痛を訴えた。

 恐る恐る見てみれば、胸部がクレーターのように抉れている。
 中央部には宝石のような小さな杭が突き刺さっていた。
 それを引き抜くと、断続的に血が噴き出す。
 倒れそうになった俺は戦斧を杖にしてなんとか堪えた。

(今、何をされた……?)

 俺の動体視力では捉え切れなかった。
 とにかく攻撃されたのは確かだ。

 光弾を放った人影は、少し先に悠々と着地する。
 そいつは肩をすくめて笑い声を上げた。

「おいおい、どんな魔法使いが拠点を壊したのかと思ったら、ただのガキじゃねぇか。本命の魔法使いはあっちで遊んでいるようだな」

 飄々と語るのは、幾重にも重ねた布を纏う褐色肌の男だ。
 銀色の短髪に透き通った碧眼。
 恰好さえ小奇麗にすれば、一流の海外タレントと名乗っても違和感がないほどの美男子である。

 ただし、その眼差しは狡猾さと悪意を満ち溢れていた。
 総じて油断ならない雰囲気を醸し出している。

 表示されたステータスによれば、こいつが"魔弾"のジークらしい。
 能力値が軒並み高い上に、スキルや称号も大量だ。
 俺の勇者称号と同じく、数値に反映されない部分での補正が大きいのだろう。
 あくまでも参考程度に割り切った方が良さそうだ。

 もっとも、そんなことは些細な特徴に過ぎない。
 それよりも気になることがあった。
 俺が注目するのはジークの武器。
 彼が持っているのは、明らかにライフル銃なのだ。

 全体の色合いや細かな装飾が近代っぽさを打ち消してはいるものの間違えようがない。
 ステータスを確認したところ、魔法銃と呼ばれる武器らしい。
 使用者のMPを吸い出して、それを結晶化して撃ち出せるそうだ。
 さっき食らった光弾は、この魔法銃から発射されたものに違いない。
 そんな便利武器があるとは羨ましい。

 ジークの観察をしているうちに魔法銃による傷は塞がった。
 HPもすっかり満タンだ。
 さすがに予想していたが、銃撃を食らっても平気みたいである。

 俺が撃たれながらも平然としていることに気付き、ジークが大袈裟に驚いてみせた。

「再生能力か。こいつはまた、厄介な野郎だ」

 言葉とは裏腹に、大して動揺していない様子であった。
 そこまで厄介に思っていないとでも言いたげだ。
 むしろ喜んでいるようにさえ見える。

 こちらを煽るように、ジークは涼しい笑みを以て軽く一礼した。

「賞金首目当てに突っ込んできた身の程知らずの冒険者君。俺様が本当に殺し合いを教えてやるよ」

 ――そして、魔法銃を構えて俺に向けてきた。

(おっと……これはちょっとマズいか……?)

 想像以上の強敵かもしれない。
 決して歓迎しない展開に、俺は頬を引き攣らせた。
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