第8話 青天の霹靂

文字数 2,031文字

(勇者のお披露目会か。別に見ても楽しくなさそうだな)

 召喚された勇者は四十二人。
 唯一、俺だけが無能の烙印を押されて城を追い出された。
 別に恨んだりしているわけじゃないが、再会しても気まずくなるだけだ。
 あちらだって、俺と会いたいとは思っていないだろうしね。
 何を話せばいいか分からない。
 第一、状況がややこしくなるに決まっている。

 興味もないから、さっさと離れようか。
 別にわざわざクラスメートの勇姿を見届けてやる義理も必要性も存在しない。
 そう思って俺は踵を返そうとする。

「わぁ、勇者ですか……すごいですね」

 しかし、俺の横ではシルエが何やらワクワクしていた。
 勇者の到来を心待ちにしているようだ。
 この子は自分の置かれた状況を分かっているのかな。
 一刻を争う事態なんだけれども……。

 周りも似たような反応だし、勇者は歓迎されているらしい。
 まあ、召喚当初の話によれば帝国やら魔族の侵略への抑止力として呼び出されたらしいからね。
 英雄みたいな扱いなのも頷ける。

 俺はシルエの意思を尊重して勇者を待つことにした。
 なるべく人だかりの陰に隠れて、目立たないように意識する。

 しばらくして、王城の方角から大型のオープンタイプの馬車が遠くに見えた。
 待ち構えていた人々が熱狂の声を上げる。

 あまりの音量に俺は顔を顰めて耳を押さえた。

(うるさいなぁ……)

 こうも喧しいと耳栓がほしくなる。
 人だかりに紛れる俺は、馬車に乗るメンツに視線を向けた。

 馬車に乗るのは四人の男女。
 一人ずつ確認していく。

「わー! すごい人だー!」

 テンション高く民衆に手を振るのはツインテールの少女だ。
 名前はアラヤ・キョウコ。
 Bランクの異能力者で【斥力(リパルション)】の使い手である。
 彼女は手をかざした対象を弾き飛ばすことができる。
 調節次第で自身を弾いて高速移動にも活用可能だと言っていた。

「うるせぇな……民衆へのアピールが必要だからって、どうして俺たちなんだ……」

 歓声に掻き消されて何も聞こえなかったが、文句らしきことを言ったのは百円ライターを弄ぶ少年である。
 名前はヒガタ・シンゾウで、Aランク異能力者だ。
 近くにある火を操作する【炎塵界(バーニング)】の使い手であった。

 彼の手にかかれば、蝋燭の火が摂氏数千度の火炎放射に変貌する。
 炎系の異能力者の中でもトップクラスの実力者だ。

「仕方ないでしょ。全員の能力を公開するわけにもいかないし、あなたのはパフォーマンスに最適だからね」

 苦笑しつつもヒガタをなだめるのは、黒髪ショートカットの少女。
 Aランクの異能力者であるハナミ・レイカだ。
 【瞬間移動(テレポート)】の使い手である。
 おまけに格闘術も習得しており、神出鬼没に距離を詰めて打撃を叩き込むスタイルらしい。
 学園内でも彼女に勝てる異能力者は少ない。

「はっはっはっは! これぞまさに俺の求めていた世界! 俺は真のヒーローになれるんだ!」

 そして民衆に負けない興奮ぶりで叫ぶのは長身の熱血系な少年だ。
 彼の名前はゴウダ・ジン。
 【外甲装着(シフトチェンジ)】の使い手で、クラスに四人いるSランクの一人である。
 確か、物体を吸収して外骨格に変換する能力だったか。
 素材によって様々な特殊能力を得られるらしい。
 要するに変身ヒーローだ。

 彼は身体強化系の異能力の中でも最強の一角に座する。
 いや、その戦闘能力はどの異能力と比較しても、オールマイティーに圧倒できるほどだろう。
 能力は非常にシンプルだが、そのパワーに任せた肉弾戦が異様に強いのだ。
 本人の強さも相まって不敗神話を有するほどである。

 馬車に乗るのはそんな四人だった。
 他にクラスメートの搭乗する馬車は来ない。
 彼らが民衆へのアピール役なのだろう。
 あまり勇者の能力をバラすと敵対勢力に情報が流れてしまうだろうし、そういった配慮によるものに違いない。

 勇者の到来によって民衆のボルテージは最高潮に達していた。
 すごい人気だ。
 ここにも勇者はいるんだけどなぁ、と思ったけど既に資格は剥奪されたんだった。
 いや、別にこういう人気者扱いされたいとは思わないからいいんだけどね。

 そんなことを考えつつ、俺は人だかりの陰から大出世を果たしたクラスメートたちを眺める。
 彼らがこちらに気付いた様子はない。
 そのまま馬車が俺のいる付近を過ぎて離れてゆこうとしたその時、馬車上に異変が生じる。

 ぱたぱたと音を立てて滴る鮮血。
 示し合わせたように消失する歓声。

「え……?」

 予想外の光景に、俺はぽかんと口を開けて呆ける。
 視線の先にある現実を信じられない。

 ――民衆が注目する中、【炎塵界(バーニング)】ヒガタの頭部が破裂していた。
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