第20話 闇夜の強襲

文字数 2,797文字

 シルエの無事を確認できたところで、俺はやることを脳内でリストアップしていく。
 色々と派手にかましたから後処理が大変だ。

 まずは生け捕りにした盗賊を利用してシルエの能力値を強化する。
 彼女の尽力があったからこそ、俺は邪魔を受けることなくジークと戦うことができた。
 感謝の印というわけでもないが、是非とも強くなってほしい。
 盗賊たちのステータスをざっと眺めて、高い数値だけを選び取ってシルエに渡す。
 結果、彼女の能力値はだいたい倍増した。
 これでさらなる力を発揮できるだろう。
 少なくとも俺は勝てないね。
 悲しくなるのでその辺りにはあまり触れないでおこう。

 俺も低かった数値を少しだけ底上げしておく。
 劇的な変化ではないが、多少は身体能力が改善された。
 今後は能力値が高い人間や魔物を積極的に狙っていく必要があるな。
 きちんと調べようと思う。

 次に瓦礫の撤去作業だ。
 俺が廃砦を崩壊させてしまったせいで、物資やお宝も埋まってしまった。
 我ながら随分と面倒臭いことをしたよ。
 戦略的に仕方ないことではあったけどね。
 最初に廃砦を丸ごと崩壊させたから、盗賊たちを混乱させることができたのだ。

 シルエは魔法を駆使して瓦礫を一気に除去していく。
 風魔法で浮かせて森の中へ動かしていた。
 かなり効率的である。
 彼女だけで重機のようなスピードで次々と瓦礫をどかしていく。

 一方、俺はステータスを筋力特化に変更して地道に運搬する。
 これしかできないんだよね。
 心を無にしてひたすら繰り返すのみだ

 瓦礫をどかしているうちに死体が出てくる。
 最初の崩壊に巻き込まれて絶命した盗賊もそこそこいたらしい。
 結構な衝撃だったもんな。
 急に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。

 途中、生け捕りにした盗賊は装備を剥ぎ取ってまとめて放置する。
 強力な魔法で眠らせているので、半日は目覚めないらしい。
 さりげなく恐ろしい魔法である。
 色々と悪用ができそうだが、習得は難しいのだという。
 そういった魔法をさらっと使えるシルエの才能に軽く戦慄する。

 そんな撤去作業を行うこと数時間。
 すっかり夜も更けた段階で、俺たちはほぼ更地になった廃砦の敷地内にいた。

「やっと終わった……」

「結構、時間がかかってしまいましたね」

 俺たちの目の前には掻き集めた盗賊のお宝がある。
 破損していた分は省いたが、それでもかなりの量だ。

 見かけ以上の大容量を誇る魔法の鞄。
 風魔法の術式が組み込まれて高速移動を可能とするブーツ。
 開くだけで魔法が発動できる使い捨ての巻物。

 他にも便利そうな魔法道具や金銀財宝をわんさかと発掘した。
 樽いっぱいに詰められた硬貨もいくつかある。
 想像以上に豪華だ。
 こんなに貰っていいのかと尻込みしてしまうほどである。

 というか、シルエの借金である金貨五十枚だが、樽入りの分だけで余裕で返済できてしまう。
 あの"魔弾"のジークが如何に凶悪な盗賊だったかを理解させられたね。
 盗賊がここまでの財を築くなんて、並大抵の力では不可能だろう。

 魔法の鞄がちょうど二つあったので、俺とシルエで手分けしてお宝を仕舞っていく。
 どういう仕掛けなのか、どう見ても入らないサイズのものでも押し込むとするりと入ってしまう。
 気になって調べたところ、魔法の鞄には空間魔法の術式が仕込まれているらしい。
 細かい理論はよく分からないが、かなり高度な技術で造られた代物だそうだ。

 お宝を残らず魔法の鞄に収めたところで、俺たちは夕食をとることにした。
 ずっと食事すらとらずに作業してきたからね。
 戦いの高揚感で鈍っていた空腹感は、結構前から訴えが強まっている。
 もう少ししたら夜明けなので、どちらかというと朝食かもしれない。

 平らな瓦礫を椅子代わりに、二人で焚火を囲んだ。
 鍋に水と野菜と肉と入れて調味料で味付けをしながら煮込む。
 どれも廃砦の備蓄だ。
 日用品があったのも地味にありがたい。
 これらも使い終わったら魔法の鞄でいただくつもりだ。

「魔法を使いすぎてお腹が空きました……温かい食事は嬉しいですね」

「まったくだよ。それと上等な寝床があれば言うことも――」

 着々と料理の準備を進めていると、ビリビリと空気を震わせる咆哮がした。
 俺は途中で言葉を止めて立ち上がる。

 木々を薙ぎ倒して異形の赤いゴリラが出現した。
 筋骨隆々な腕が八本も生えている。
 体長も三メートルはありそうだ。

「スドウさん」

「ああ、分かってるよ」

 俺は腰の剣を引き抜く。
 シルエも杖を手に取って詠唱の準備を始めた。

「グゴオオオオッ!」

 赤ゴリラはこちらを睨みながらドラミングする。
 かなり気が立っている様子だ。
 シルエの魔法の騒ぎによって刺激されたのかもしれない。

 観察しているうちに、赤ゴリラが動きだした。
 奴は生け捕りの盗賊を次々と左右の拳で殴り殺す。
 その間も耳に響く叫び声を轟かせていた。
 盗賊たちが無抵抗でドロドロのミンチになっていく。

 惨たらしい光景に吐き気を催すも、俺は寸前で抑える。
 今はやるべきことは決まっていた。
 赤ゴリラの注意がこちらから逸れている。
 このチャンスを逃すわけにはいかない。
 一気に殺してやろう。
 俺は盗賊たちを叩き殺す赤ゴリラへと駆け出そうとする。

 その時、赤ゴリラが唐突に硬直した。
 小刻みに震えながら呻いている。
 まるで見えない力に押さえ込まれているかのようだ。

 そこへ森の一角から光線が放たれ、赤ゴリラの側頭部に命中した。
 赤ゴリラが悲痛そうな声を上げる。
 被弾箇所が焦げて白煙を上げていた。
 かなりのダメージみたいである。

「ハァッ!」

 さらにトドメとばかりに光線の放たれた方角から剣を持った少女が登場した。
 少女は瞬く間に赤ゴリラへ接近すると、毛に覆われた巨躯を駆け上がりながら剣を何度も閃かせる。
 斬撃が頭部へと至ったところで、少女は大きく宙返りをして地面に着地する。

 ワンテンポ遅れて、赤ゴリラがバラバラに解体されて崩れ落ちた。
 その死体は、無数のキューブ状の肉片になるように切断されている。

「な、んだ……今のは?」

 予想外の展開に、俺は口をあんぐりを開けて呆然とする。
 倒そうと思った魔物が勝手に死んだら誰だって驚くだろう。

 光線の飛んだ地点から、少女と少年が一人ずつ現れる。
 よく見てみると、全員の容姿に見覚えがあった。

 赤ゴリラの死体に集まって何事かを話すのは、三人の勇者――すなわち元クラスメートの異能力者たちだった。
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