第28話 戦線の旗
文字数 2,377文字
唐突な報せに俺は食事の手を止める。
無視できる内容ではない。
俺にまったく関係がないというわけでもないからね。
追放された身とはいえ、気になるものは気になる。
森で再開したノザカたちから、色々と話を聞いているのもあった。
勇者たちは王国側に不信感を抱いて離反が続出しそうだと聞いているのだが、そういった状況が変わったのだろうか。
きな臭さは拭えないどころか、明らかに濃密になっている。
室内にいる他の冒険者も騒然としていた。
国が大きく動くニュースだもんな。
興味を覚えるのも当然である。
誰もが続く言葉を待っていた。
注目の最中とも言える噂好きの冒険者は、息切れしながらも喋る。
「……とにかく、これから国王の話があるそうだ。詳細を知りたいやつは、直接見聞きしろ」
男の答えを皮切りに、冒険者たちはギルドの外へ殺到する。
その際、テーブルにお代をきちんと置いていく辺りが妙にシュールだ。
こういう所は律儀というか、ルールを厳守するように徹底されているのだろう。
どうでもいいことに発見をしていると、シルエが神妙な面持ちで尋ねてくる。
「私たちも見に行きますか?」
彼女も少なからず気になる様子だった。
俺は頷いてみせる。
「ああ。確認しよう」
呑気に食事ができる気分ではなくなっていた。
今更、腰を落ち着けることもできまい。
それに加えて嫌な予感もしていた。
胸騒ぎがするのだ。
放置してはいけない案件。
そんな感覚がする。
これは確かめねばならない事態だろう。
俺たちは他の冒険者たちに倣って外へ出る。
通りには既に人だかりができていた。
密集してまともに往来できないような状態だ。
噂はかなりの範囲まで浸透しているらしい。
勇者のお披露目の時を思い出す。
さすがにあの時みたいなトラブルは発生しないと思いたい。
まあ、現状では判断できないな。
祈るしかなかろう。
急展開でのボス戦はもうお腹いっぱいだった。
(それにしても、どうして通りに人が集まっているんだ?)
俺はふと疑問に思う。
国王がここまで足を運ぶのだろうか。
ちょっと不用心な気もするけれど。
暗殺してくれと言っているようなものじゃないかな。
混雑の中では警備態勢や護衛だってまともに機能しないだろうし。
そう思っていると、人々の視線が一斉に上を向いた。
俺は釣られて視線をずらす。
「おぉ、すごい」
無意識に漏れる声。
空に映像が浮かび上がっていた。
魔眼によると幻影魔法によるものらしい。
魔法を駆使すると、こういった応用もできるようになるのか。
ファンタジーというよりSFチックな機能である。
映像には国王と一人の勇者の姿が映っていた。
なるほど、これなら人前に出ずとも発表ができる。
国民に声を届かせるには最適だろう。
国王の傍らに立つ勇者は、制服を着た黒髪ロングの少女だった。
端正な顔立ちで、全体的に清楚な印象を受ける。
アメジスト色の瞳がミステリアスな魅力をも引き出していた。
総じて美少女を形容するに相応しい容姿と言える。
無論、かつてのクラスメートである俺は、それが誰かを知っていた。
そしてこの時点で何が起こったかを把握する。
(そう来たか……最悪だな)
たぶん考え得る中でもトップクラスに厄介なことになっていた。
事前に食い止められる類の問題ではないが、想定はすべきだったろう。
もっとも、今になって後悔しても遅い。
俺の内心をよそに国王は話し始める。
「――かねてより計画していた帝国と魔族の殲滅。この度、勇者たちの助力により実現へと踏み出すに至った。これより先は勇者タウラに任せる」
そこで国王は口を閉ざした。
代わりに勇者タウラが深々とお辞儀をする。
「皆さん、初めまして。異界の勇者タウラ・マコトです。国王陛下より、円滑な戦闘行動のために軍事を一任させていただきました。肩書きとしては軍部特別大臣です」
民衆のざわめきが増す。
反応は様々だが、困惑や戸惑いを示すものが多い。
映像のタウラは気にせず話を続ける。
「私たち勇者は、一丸となってこの国の敵と戦います。神より与えられし異能を存分に振るい、希望と平和、そして力の象徴となりましょう」
ここでタウラは言葉を切った。
潤んだ目が真っ直ぐとこちらを見つめている。
くらりと脳の揺れる感覚。
違和感を覚えた時には、それは消えていた。
首を傾げつつも映像に集中する。
「ですが、私たちだけでは未来を築けません。国民の皆さんのご協力が必要です。その一環として、帝国軍や魔族に対抗するために兵士を募集します。多額の報酬も約束しましょう。私は、真なる平和のために尽力する所存です。皆さんの力をお貸しください! ……短いですがこれにて挨拶を終わらせていただきます。後日、募集要項も発表されますので、そちらもご参照ください。それでは失礼いたします」
そこで映像は終了した。
大々的な発表にしては随分とあっさりとした感じだった。
もっと長話になるかと思ったが。
そこが少し意外で、なんとなく引っかかる。
一方、民衆は拍手喝采だった。
口笛を鳴らしたり叫んだりして盛り上がっている。
随分と喜んでいるな。
そんなリアクションになるような内容があっただろうか。
熱狂が渦巻く空気の中、俺は小声でぼやく。
「こいつはとんでもないことになったな……」
「ああ、最悪の事態だ」
俺の呟きに同調する声。
驚いて振り向くとそこには、四人のクラスメート――つまりは異能力持ちの勇者たちがいた。
無視できる内容ではない。
俺にまったく関係がないというわけでもないからね。
追放された身とはいえ、気になるものは気になる。
森で再開したノザカたちから、色々と話を聞いているのもあった。
勇者たちは王国側に不信感を抱いて離反が続出しそうだと聞いているのだが、そういった状況が変わったのだろうか。
きな臭さは拭えないどころか、明らかに濃密になっている。
室内にいる他の冒険者も騒然としていた。
国が大きく動くニュースだもんな。
興味を覚えるのも当然である。
誰もが続く言葉を待っていた。
注目の最中とも言える噂好きの冒険者は、息切れしながらも喋る。
「……とにかく、これから国王の話があるそうだ。詳細を知りたいやつは、直接見聞きしろ」
男の答えを皮切りに、冒険者たちはギルドの外へ殺到する。
その際、テーブルにお代をきちんと置いていく辺りが妙にシュールだ。
こういう所は律儀というか、ルールを厳守するように徹底されているのだろう。
どうでもいいことに発見をしていると、シルエが神妙な面持ちで尋ねてくる。
「私たちも見に行きますか?」
彼女も少なからず気になる様子だった。
俺は頷いてみせる。
「ああ。確認しよう」
呑気に食事ができる気分ではなくなっていた。
今更、腰を落ち着けることもできまい。
それに加えて嫌な予感もしていた。
胸騒ぎがするのだ。
放置してはいけない案件。
そんな感覚がする。
これは確かめねばならない事態だろう。
俺たちは他の冒険者たちに倣って外へ出る。
通りには既に人だかりができていた。
密集してまともに往来できないような状態だ。
噂はかなりの範囲まで浸透しているらしい。
勇者のお披露目の時を思い出す。
さすがにあの時みたいなトラブルは発生しないと思いたい。
まあ、現状では判断できないな。
祈るしかなかろう。
急展開でのボス戦はもうお腹いっぱいだった。
(それにしても、どうして通りに人が集まっているんだ?)
俺はふと疑問に思う。
国王がここまで足を運ぶのだろうか。
ちょっと不用心な気もするけれど。
暗殺してくれと言っているようなものじゃないかな。
混雑の中では警備態勢や護衛だってまともに機能しないだろうし。
そう思っていると、人々の視線が一斉に上を向いた。
俺は釣られて視線をずらす。
「おぉ、すごい」
無意識に漏れる声。
空に映像が浮かび上がっていた。
魔眼によると幻影魔法によるものらしい。
魔法を駆使すると、こういった応用もできるようになるのか。
ファンタジーというよりSFチックな機能である。
映像には国王と一人の勇者の姿が映っていた。
なるほど、これなら人前に出ずとも発表ができる。
国民に声を届かせるには最適だろう。
国王の傍らに立つ勇者は、制服を着た黒髪ロングの少女だった。
端正な顔立ちで、全体的に清楚な印象を受ける。
アメジスト色の瞳がミステリアスな魅力をも引き出していた。
総じて美少女を形容するに相応しい容姿と言える。
無論、かつてのクラスメートである俺は、それが誰かを知っていた。
そしてこの時点で何が起こったかを把握する。
(そう来たか……最悪だな)
たぶん考え得る中でもトップクラスに厄介なことになっていた。
事前に食い止められる類の問題ではないが、想定はすべきだったろう。
もっとも、今になって後悔しても遅い。
俺の内心をよそに国王は話し始める。
「――かねてより計画していた帝国と魔族の殲滅。この度、勇者たちの助力により実現へと踏み出すに至った。これより先は勇者タウラに任せる」
そこで国王は口を閉ざした。
代わりに勇者タウラが深々とお辞儀をする。
「皆さん、初めまして。異界の勇者タウラ・マコトです。国王陛下より、円滑な戦闘行動のために軍事を一任させていただきました。肩書きとしては軍部特別大臣です」
民衆のざわめきが増す。
反応は様々だが、困惑や戸惑いを示すものが多い。
映像のタウラは気にせず話を続ける。
「私たち勇者は、一丸となってこの国の敵と戦います。神より与えられし異能を存分に振るい、希望と平和、そして力の象徴となりましょう」
ここでタウラは言葉を切った。
潤んだ目が真っ直ぐとこちらを見つめている。
くらりと脳の揺れる感覚。
違和感を覚えた時には、それは消えていた。
首を傾げつつも映像に集中する。
「ですが、私たちだけでは未来を築けません。国民の皆さんのご協力が必要です。その一環として、帝国軍や魔族に対抗するために兵士を募集します。多額の報酬も約束しましょう。私は、真なる平和のために尽力する所存です。皆さんの力をお貸しください! ……短いですがこれにて挨拶を終わらせていただきます。後日、募集要項も発表されますので、そちらもご参照ください。それでは失礼いたします」
そこで映像は終了した。
大々的な発表にしては随分とあっさりとした感じだった。
もっと長話になるかと思ったが。
そこが少し意外で、なんとなく引っかかる。
一方、民衆は拍手喝采だった。
口笛を鳴らしたり叫んだりして盛り上がっている。
随分と喜んでいるな。
そんなリアクションになるような内容があっただろうか。
熱狂が渦巻く空気の中、俺は小声でぼやく。
「こいつはとんでもないことになったな……」
「ああ、最悪の事態だ」
俺の呟きに同調する声。
驚いて振り向くとそこには、四人のクラスメート――つまりは異能力持ちの勇者たちがいた。