第31話 静かなる開戦

文字数 2,976文字

 話を終えた後、俺たちは王城へ移動した。
 通りの人混みを避けて、路地から路地へと進んでいく。

 このまま奇襲を仕掛けるつもりだった。
 事態は一刻を争う。
 悠長に待っていられるほどの余裕もない。
 奇襲なら夜間の方がいいが、今回に限っては悪手と言える。

 向こうには夜間に力を発揮する異能力者がいるのだ。
 昼間の方がまだ勝ち目があった。

 移動中、俺は戦力を確認する。

 まずはカネザワ。
 Sランクの異能力【収集癖(コレクション)】の使い手である。

 勇者としてのスキルにより、特定の人間の感知に優れる。
 そして何と言っても、飴玉化による異能力の無効化が強力極まりない。
 本人は戦闘能力が低いと自嘲しているが、攻防共に非常に頼りになる存在だろう。
 異能力に依存するスタイルの勇者が相手ならほぼ完封できる。

「いやー、クーデターなんておっかないことをよく考えるよね、本当」

 間延びした調子でぼやくのは、ニシナカ・ルリだ。
 彼女はBランクの異能力者で、【増強血嗣(ブラッドバースト)】を使用する。

 その効果は、他者に血液を摂取させると、摂取した相手の異能力を一時的に強化するというものだ。
 どういう強化が起きるかは異能力にもよるそうだが、基本的には出力を上げてくれるらしい。
 場合によっては異能力の仕様まで変化するのだとか。

 学園での課外授業でも、ニシナカは誰かとペアを組んだ際に活躍していた印象だった。
 【増強血嗣(ブラッドバースト)】の特性上、彼女自身には効果がないが、ペアの異能力者をアシストするのが大の得意だそうだ。
 今回もそのサポート力に期待しよう。

 ちなみに彼女が召喚時に得たスキルは【回復魔法】と【魔力譲渡】だった。
 効果は名称のままで、便利だが勇者のスキルとして考えるとハズレの部類らしい。
 他のクラスメートが強力だもんな。
 これら二つは冒険者でも持っているくらいなので、レア度が低いのかな。

「うぅ、緊張する……怪我をしたらどうしよう」

 青い顔で弱音を吐くのは、ナナクラ・ユウタである。
 Bランクの【空間歪路(ワープホール)】を操る異能力者だ。

 この異能力は二つの黒い穴を生み出し、一方に入るともう一方から出てくることができる。
 穴は同時に一セットしか作れず、最大移動距離は百メートル。
 さらに移動距離が長くなるほど疲労するそうだ。
 【瞬間移動(テレポート)】よりも使い勝手は悪いが、他者も一緒に移動できるのが強みだろう。

 彼の勇者のスキルは【暗視】【疲労回復】【全魔法耐性】の三つである。
 【疲労回復】は彼の異能力とマッチしているし、【全魔法耐性】は言うまでもなく強い。
 ナナクラは学園でも格闘術に長けていた。
 【空間歪路(ワープホール)】を駆使して全方位から一撃離脱を繰り返すスタイルだ。
 これも【瞬間移動(テレポート)】の使い手であるハナミと酷似しているが、やっぱり同じ系統の異能力だからリスペクトしているのだろうか。
 まあ、それはいいか。
 今回もその変幻自在な戦いぶりに期待したい。

「あまりクラスメートの皆と争いたくないわ……でも、頑張らなくちゃ」

 小声で決意を固めるのはキタハラ・ネネ。
 彼女は【液状人間(ヒューマンリキッド)】の使い手であるBランク異能力者だ。

 効果は肉体の液状化で、水分を吸収することで破損した人体も修復可能である。
 さらにどのような水分でも吸収すれば無毒化でき、物理攻撃が極端に効きにくくなるなど、Bランクの中でも結構な利便性を誇る。

 彼女の勇者のスキルは【氷魔法】【光魔法】【闇魔法】だ。
 完全に魔法使い型と言える。
 シルエ曰く、どの魔法スキルも稀少な属性らしい。

 ただ、まだ使いこなせていないそうだ。
 補助的なスキルもないので、素早い詠唱や連発も厳しいのだという。
 こればかりは俺にはどうにもならない。
 【数理改竄(ナンバーハック)】では、スキルをどうこうすることはできないからね。
 どうせなら、そこまで可能な仕様にしてほしかった。

「私は、私にできることを……」

 杖を手に堂々と歩くのはシルエだ。
 唯一、このメンバーで異能力者でも勇者でもない完全な部外者だ。
 それなのに協力してくれる健気な子である。

 多方面をカバーする魔法が彼女の最大の強みだろう。
 もちろん素早い詠唱も見逃せない。
 身体能力も【数理改竄(ナンバーハック)】でアップグレードしてきたので常人の数倍だった。

 彼女には俺が異世界から来た勇者であると告げたが、随分とあっさり受け入れられた。
 俺がどんな経歴を持っていても、何も変わらないそうだ。
 それどころか、パーティメンバーとして力を尽くすとまで言ってくれた。

 シルエには感謝してもし切れないな。
 どうやって恩返しするか考えておかねば。

 そして最後が俺だ。
 今更、改めて振り返ることも少ない。

 この中で最も高い能力値と、竜血による不死身に等しい再生力。
 それにマシンガン仕様の魔法銃と、数値入れ替えが可能な【数理改竄(ナンバーハック)】が武器だ。

 全身各所には、枯れ枝や石ころを忍ばせていた。
 無論、こんなものを集める趣味ができたわけじゃない。
 【数理改竄(ナンバーハック)】でこれらの貧弱な数値を、いつでも敵に押し付けられるように用意している。

 上手くやれば即死攻撃になり得るからね。
 素早さ特化のステータスで速攻だ。
 これで大抵の奴には勝てる。
 数々の実戦経験により、俺に合う戦闘スタイルを確立しつつあった。

 以上がこれから王城を奇襲するメンバーである。
 他に味方はいない。
 俺みたいに離脱した異能力者を【人物検索】で探したそうだが、近くにはいなかったのだ。
 【空間歪路(ワープホール)】で長距離移動には向いていないし、追いかけるには時間がかかりすぎる。

 即席で冒険者を雇うわけにもいかない。
 今から王城を襲撃すると言って、果たして誰が承諾するかという話である。
 どのみちこのメンバーでやるしかない。

 奇襲作戦の概要はシンプルだ。
 ナナクラの【空間歪路(ワープホール)】で地下牢獄へ移動して、洗脳に抵抗する勇者を救出。
 そこからカネザワの【人物検索】でタウラの位置を把握して一気に攻め込む。
 残りのメンバーでそれを補助する。
 それだけであった。
 手札が少ないのでこれくらいしか考え付かなかったのだ。

(それでも、俺たちが救うしかないんだよな……)

 まさか勇者の資格を剥奪された俺が、再び城に舞い戻ることになるとは。
 しかも、王国を救う役目だ。
 なんとも皮肉な展開である。

 やがて王城が見えてきた。
 【空間歪路(ワープホール)】の移動圏内に入っただろう。
 俺たちは物陰で立ち止まる。

 ナナクラが虚空に手をかざすと、マンホールを二回りほど大きくしたような黒い穴が生み出された。
 先は見えない。
 彼は緊張に満ちた表情で説明する。

「既に地下牢獄に通じている……行こう」

 ナナクラの言葉に頷いた俺たちは、順番に穴の中へ飛び込んでいった。
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