第27話 束の間の日常
文字数 2,519文字
パーティ結成から二週間が経過した。
俺は冒険者として平穏な日々を送っていた。
シルエと共に様々な依頼をこなしている。
そんな毎日にも変化はあった。
まず、二つ名を付けられた。
しかも"赤髪の魔弾"という実に厨二病っぽいものである。
ドラゴンの生き血で染まったこの髪と、いつも背負っている魔法銃が由来なのだろう。
或いは"魔弾"のジークを倒した者として、その通り名を受け継いだことになっているのか。
詳細はどうあれ、すでに周知された状態なので放置している。
実害はないからね。
ちょっと困っているのは、俺のことを異界の勇者だとする噂だ。
まあ、現れたタイミングが勇者召喚と合致していたもんな。
俺が何かしらの特殊能力を持つことは知れ渡っているみたいだし、そういった話が出てくるのも不思議ではない。
特に徹底して隠していたわけでもないしね。
勇者ということで接触してくる輩が出てくる可能性はあるものの、こればかりは対処のしようもない。
仮に違うと主張しても、信じない層は絶対にいるだろうからね。
今更、何をしたところで噂を食い止められるわけでもないし。
肯定も否定もせずにやっていこうと思う。
ちなみにシルエも急成長していた。
"魔導新星"の二つ名が広まり、その仰々しい響きにも劣らない活躍を見せている。
冒険者の中には、彼女に教えを乞う者もいるほどだった。
専門外の俺はざっくりとしたイメージしかなかったが、シルエの知識量は同じ魔法使いから見ても相当なものらしい。
「さながら動く図書館」という声を聞くほどだった。
さて、魔法学校で行った決闘の件だが、あれから何度か貴族の配下らしき人間が襲撃をしてきた。
後から分かったが、リーダー格の少年が独断で部下を動かしたらしい。
あれだけ酷い負け方をしても諦めない執念に関しては尊敬に値すると思うよ。
もちろん、被害を受ける側からすれば迷惑だけどさ。
就寝中なんかに暗殺を狙ってくるのだが、俺には竜血の再生能力がある。
心臓を刺されようが、首を切り裂かれようが、魔法で爆破されようが死ぬことはない。
その都度、能力値を奪って追い返してやった。
シルエは魔法を駆使して俺より遥かに上手く対処していた。
魔法でいち早く察知して、拘束系の魔法を仕掛けて終わりである。
場合によっては防御魔法でバリアーを展開していた。
ちなみに彼女が俺を守らなかったのは、自衛を最優先してもらうためだ。
死なない俺に意識を割いて負傷したら駄目だからね。
おかげで少々の怪我なら痛がることもなくなった。
そんなわけでこちらには大きな損害もない連日の暗殺だったが、さすがに鬱陶しくなってきたので最終的には少年の実家に直談判してみた。
結果、彼の父親から謝罪の言葉と大金を受け取って丸く収めることができた。
意外とあっさり話が進んだのが印象に残っている。
少年の父親も、世継ぎではない息子の安否より"赤髪の魔弾"と"魔導新星"の逆鱗に触れないことを優先したようだ。
大層な二つ名もこういう時は役に立つらしい。
完全に暴走した少年は、辺境の教会にて一生を過ごすことになるそうだ。
常に瀕死とも言えるあのステータスではそう長生きできなさそうだが、俺の気にすることではあるまい。
優秀な暗殺者を仕向けてくれたおかげで、俺とシルエの能力値はかなり上がったので感謝はしておこうかな。
一芸に秀でた特化タイプの暗殺者や強大な魔物から奪っているうちに、すべての項目がオール500を突破した。
靄魔族の700超えは未だ手に入らないが、それでも十分に高い。
俺たちの冒険者ランクもFからCに昇格した。
"魔弾"のジークの討伐を始め、賞金首の悪党を狙った貢献でここまで至った。
この短期間でCランクに達するのは異例らしい。
積極的に昇格を狙ったわけでもないが、それでも結果が出ると嬉しいね。
そして現在、俺とシルエはギルド併設の酒場で今後の予定について話し合っていた。
シルエは焼き魚をナイフで切り分けながら意見を出す。
「身辺も落ち着きましたし、そろそろ他の町へ行ってもいい頃ですね」
「確かにね。この町ですることもない」
王都を離れることは前々から決めていた。
俺は召喚直後に城を追い出されたし、シルエは退学した魔法学校があるからだ。
お互いにとって居づらい場所である。
それにも関わらずまだ出立していなかったのは、冒険者の基礎を学んでおこうと思ったからだ。
やはり何も知らずに旅をするのは危ない。
シルエもサバイバル能力には自信がなかったので、この二週間で先輩冒険者に色々と教えてもらった。
その中には戦闘技術も含まれている。
おかげで急上昇したステータスを活かした戦いもできるようになりつつあった。
「出発となると準備が必要だな……」
俺はステーキを口に運びながら考える。
装備類は問題ない。
廃砦で盗賊から入手した分がある。
いつも使う分は、【数理改竄 】で性能を底上げしていた。
俺の着ているコートなんて、革製なのに金属鎧よりも防御力が高い。
こういう細かな強化ができるのも便利である。
「あとは旅のための日用品や食糧を補充しないといけませんね。水も多めに用意しておきましょう」
「そうだね。魔法の鞄があるので、買いすぎても大丈夫だし」
ゆったりと会話しながら今後の予定を詰めていると、いきなりギルドの出入り口の扉が開かれた。
室内に飛び込んできたのは、一人の冒険者。
顔見知りのDランクの男だ。
噂好きで有名だが、また何か面白いニュースでも拾ったのだろうか。
そう思って様子を眺めていると、彼は血相を変えて叫ぶ。
「皆、大変だ! 国王が異界の勇者に軍事の全権を委ねたらしい。帝国と魔族を一気に叩くらしいぞ!」
俺は冒険者として平穏な日々を送っていた。
シルエと共に様々な依頼をこなしている。
そんな毎日にも変化はあった。
まず、二つ名を付けられた。
しかも"赤髪の魔弾"という実に厨二病っぽいものである。
ドラゴンの生き血で染まったこの髪と、いつも背負っている魔法銃が由来なのだろう。
或いは"魔弾"のジークを倒した者として、その通り名を受け継いだことになっているのか。
詳細はどうあれ、すでに周知された状態なので放置している。
実害はないからね。
ちょっと困っているのは、俺のことを異界の勇者だとする噂だ。
まあ、現れたタイミングが勇者召喚と合致していたもんな。
俺が何かしらの特殊能力を持つことは知れ渡っているみたいだし、そういった話が出てくるのも不思議ではない。
特に徹底して隠していたわけでもないしね。
勇者ということで接触してくる輩が出てくる可能性はあるものの、こればかりは対処のしようもない。
仮に違うと主張しても、信じない層は絶対にいるだろうからね。
今更、何をしたところで噂を食い止められるわけでもないし。
肯定も否定もせずにやっていこうと思う。
ちなみにシルエも急成長していた。
"魔導新星"の二つ名が広まり、その仰々しい響きにも劣らない活躍を見せている。
冒険者の中には、彼女に教えを乞う者もいるほどだった。
専門外の俺はざっくりとしたイメージしかなかったが、シルエの知識量は同じ魔法使いから見ても相当なものらしい。
「さながら動く図書館」という声を聞くほどだった。
さて、魔法学校で行った決闘の件だが、あれから何度か貴族の配下らしき人間が襲撃をしてきた。
後から分かったが、リーダー格の少年が独断で部下を動かしたらしい。
あれだけ酷い負け方をしても諦めない執念に関しては尊敬に値すると思うよ。
もちろん、被害を受ける側からすれば迷惑だけどさ。
就寝中なんかに暗殺を狙ってくるのだが、俺には竜血の再生能力がある。
心臓を刺されようが、首を切り裂かれようが、魔法で爆破されようが死ぬことはない。
その都度、能力値を奪って追い返してやった。
シルエは魔法を駆使して俺より遥かに上手く対処していた。
魔法でいち早く察知して、拘束系の魔法を仕掛けて終わりである。
場合によっては防御魔法でバリアーを展開していた。
ちなみに彼女が俺を守らなかったのは、自衛を最優先してもらうためだ。
死なない俺に意識を割いて負傷したら駄目だからね。
おかげで少々の怪我なら痛がることもなくなった。
そんなわけでこちらには大きな損害もない連日の暗殺だったが、さすがに鬱陶しくなってきたので最終的には少年の実家に直談判してみた。
結果、彼の父親から謝罪の言葉と大金を受け取って丸く収めることができた。
意外とあっさり話が進んだのが印象に残っている。
少年の父親も、世継ぎではない息子の安否より"赤髪の魔弾"と"魔導新星"の逆鱗に触れないことを優先したようだ。
大層な二つ名もこういう時は役に立つらしい。
完全に暴走した少年は、辺境の教会にて一生を過ごすことになるそうだ。
常に瀕死とも言えるあのステータスではそう長生きできなさそうだが、俺の気にすることではあるまい。
優秀な暗殺者を仕向けてくれたおかげで、俺とシルエの能力値はかなり上がったので感謝はしておこうかな。
一芸に秀でた特化タイプの暗殺者や強大な魔物から奪っているうちに、すべての項目がオール500を突破した。
靄魔族の700超えは未だ手に入らないが、それでも十分に高い。
俺たちの冒険者ランクもFからCに昇格した。
"魔弾"のジークの討伐を始め、賞金首の悪党を狙った貢献でここまで至った。
この短期間でCランクに達するのは異例らしい。
積極的に昇格を狙ったわけでもないが、それでも結果が出ると嬉しいね。
そして現在、俺とシルエはギルド併設の酒場で今後の予定について話し合っていた。
シルエは焼き魚をナイフで切り分けながら意見を出す。
「身辺も落ち着きましたし、そろそろ他の町へ行ってもいい頃ですね」
「確かにね。この町ですることもない」
王都を離れることは前々から決めていた。
俺は召喚直後に城を追い出されたし、シルエは退学した魔法学校があるからだ。
お互いにとって居づらい場所である。
それにも関わらずまだ出立していなかったのは、冒険者の基礎を学んでおこうと思ったからだ。
やはり何も知らずに旅をするのは危ない。
シルエもサバイバル能力には自信がなかったので、この二週間で先輩冒険者に色々と教えてもらった。
その中には戦闘技術も含まれている。
おかげで急上昇したステータスを活かした戦いもできるようになりつつあった。
「出発となると準備が必要だな……」
俺はステーキを口に運びながら考える。
装備類は問題ない。
廃砦で盗賊から入手した分がある。
いつも使う分は、【
俺の着ているコートなんて、革製なのに金属鎧よりも防御力が高い。
こういう細かな強化ができるのも便利である。
「あとは旅のための日用品や食糧を補充しないといけませんね。水も多めに用意しておきましょう」
「そうだね。魔法の鞄があるので、買いすぎても大丈夫だし」
ゆったりと会話しながら今後の予定を詰めていると、いきなりギルドの出入り口の扉が開かれた。
室内に飛び込んできたのは、一人の冒険者。
顔見知りのDランクの男だ。
噂好きで有名だが、また何か面白いニュースでも拾ったのだろうか。
そう思って様子を眺めていると、彼は血相を変えて叫ぶ。
「皆、大変だ! 国王が異界の勇者に軍事の全権を委ねたらしい。帝国と魔族を一気に叩くらしいぞ!」