第23話 不穏な予感

文字数 2,207文字

 交代で睡眠と見張りを行いながら迎えた朝。
 若干の寝不足を感じながらも、俺たちは町へ戻るために出発した。
 討伐の証拠として、ジークの死体は布で包んで魔法の鞄に収納してある。
 死体を持ち運ぶのは気分的にはあまり良くないが、これがないと賞金首の報酬が貰えないのだ。
 言ってしまえば大量の金貨に変わるのである。
 ギルドに渡すまで大事にしないとね。

 それと出発を急ぐのには、もう一つ理由があった。
 勇者関連で王城がきな臭い雰囲気になっているみたいなので、早めに戻って情報を仕入れたいのだ。
 なんとなく嫌な予感がする。
 無知のまま手遅れになる前に、事前に対処できるようしておきたかった。

 最悪、国外逃亡も視野に入れておくべきだろうな。
 別にこの国に居座りたいとも思わないし。
 それこそノザカたちを追うルートでもいい。
 俺は平穏な生活を謳歌したいだけなのだ。

 さて、町への道中で魔法銃を改造してみた。
 ステータスの"威力"と"連射速度"と"消費魔力"を【数理改竄(ナンバーハック)】で強化したのである。

 結果として単発式だった魔法銃が、マシンガン仕様になってしまった。
 しかも威力が上がったのにMPコストは軽減されている。
 総合的な火力は数十倍になったろう。
 周りへの被害を考慮しなければ、これだけでだいたいの敵は仕留められそうだ。

 今まではあまり良い武器を持っていなかったから知らなかったけど、これはなかなかに便利である。
 せっかくなので、シルエの持つ杖も少しだけ性能を強化しておいた。

 そして昼過ぎには無事に町へ到着する。
 一見すると何事もない雰囲気だ。
 魔族の襲撃があったとは思えないほど活発である。
 勇者たちがすぐに討伐して被害を最小限に留めたおかげだろう。

 俺たちはまずは冒険者ギルドへ向かった。
 受付にてジークの死体を出して渡すと、室内は騒然とした。
 予想だにしない事態らしい。
 死体を目にしたギルド職員が慌てふためきながら受付の奥に行ってしまい、しばらく待たされる羽目になった。

 その後、ひとまず報酬の金貨二十枚を受け取った。
 此度の依頼達成によって冒険者としての昇級が検討されるそうで、また数日後に来てほしいと言われた。
 まさかたった一つの依頼だけでそんな話が出てくるとは思わなかったので俺は驚く。
 "魔弾"のジークの殺害とは、それほどまでの偉業なのだろう。
 他の冒険者から畏怖の視線を受けつつ、俺たちは冒険者ギルドを出た。

 借金の返済日は明日の昼。
 予め指定された場所にて行うらしい。

 シルエの魔法の鞄には、金貨の詰まった樽があった。
 それだけで借金の金貨五十枚は楽々と達成できている。

 彼女は俺に深々と頭を下げてきた。

「本当にありがとうございます。スドウさんがいなかったら私は今頃……」

「別にいいよ。それより、念のために返済現場を見届けたいんだけどいいかな。ここでさよならっていうのも寂しいでしょ?」

 俺はおどけた口調を意識しながら、そう提案する。

 言葉には本音を含ませていたが、内心では別のことを考えていた。

 それは、シルエに濡れ衣を着せた連中のことだ。
 彼女は直接言わないが、このまま穏便に解決するとは思えない。

 たぶん何かある。
 人間の悪意とは恐ろしいものだ。
 平気で残酷なことをやってのける。
 ここで別れるべきではないと俺の直感が告げていた。

「もちろんです! 最後までご迷惑をかけますが、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね」

 そんな会話を経て、俺たちは明日に備えて休むことにした。
 俺は町の安宿、シルエは魔法学校の寮へ赴く。
 その日はゆっくりと寝て過ごした。



 ◆



 翌日の昼。
 冒険者ギルドの前で、俺とシルエは合流した。

「おはようございます。昨晩はしっかり眠れましたか?」

「ああ、眠れたよ。元気いっぱいさ」

 マイペースに談笑しながら、シルエの案内で借金の返済場所へ移動する。

 歩くこと約十五分。
 案内されたのは、町の外れの広々とした空き地だった。
 野球でもできそうなスペースである。
 あちこちに廃材が放置された状態で、全体的に寂れ切った雰囲気を漂わせていた。

「遅い。僕たちを待たせるなんて、君は何をしていたんだ」

 空き地には四人の魔法学校の生徒がいた。
 男女二人ずつで、シルエのものと同じタイプのローブを着ている。
 胸元には揃いの紋章がある。
 魔法学校の所属を表すのだろう。

 こちらを観察する目付きには、はっきりとした蔑みの感情が窺えた。
 全員が貴族の子供らしい。
 お手本みたいな高飛車加減である。

 ステータスは魔法系に偏っているものの高い。
 数値だけに着目した場合、シルエどころか俺に迫る勢いである。
 傲慢な態度も伊達ではないということか。

(まったく、さっそく不穏な空気だなぁ……どうなることやら)

 俺はため息を呑み込んでシルエの背後に控える。
 何か起こるまでは傍観者を貫くつもりだ。
 願わくばトラブルもなく返済が済めばいいんだけどね。
 残念ながら叶いそうな予感がしなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み