第14話 秘めたる才覚

文字数 2,150文字

 俺はシルエと一緒に廃砦へと向けて移動していた。

 事前情報によれば、ここからしばらくは街道を進み、石切り場が見えたら近くの森へ入るらしい。
 廃砦はその先にあるそうだ。
 だいたい半日くらいの行程である。

 先んじて水と食糧は買ってあるので足りると思う。
 森で遭難でもしない限りは持つだろう。
 フラグになりそうな発言だけど、きっと大丈夫なはずだ。

(盗賊団か。どうやって倒すかなぁ……)

 ほどほどに整備された道を歩きながら、俺はふと思案する。

 現在の俺は丸腰だ。
 靄魔族との戦いで使っていたサーベルは、破損したので途中で捨ててしまった。
 ドラゴンの牙ならリュックサック内に何本もあるが、あれは非常用なので極力使用を控えたい。
 あまり見せびらかさない方が良さそうなんだよね。
 まあ、変にこだわらなければ武器くらいすぐに手に入るだろう。
 なんなら盗賊から奪ってもいい。

 他のクラスメートたちのように公式の勇者なら、こんなことを気にせずに済むのだろう。
 妬むわけじゃないが、扱いの格差を感じてしまうよ。

 俺も称号的には勇者になったみたいだけど、公表するつもりは欠片もない。
 国の戦力として換算されるより、こうして何にも縛られずに生活できる方がいいからね。

 一方、シルエはずっとご機嫌だった。
 町を出発してから片時も満面の笑みを絶やさない。
 能力値が上がったのがよほど嬉しいようだ。

 先ほどから熱心に手のひらの上で小さな竜巻を起こしたり、指先に火を灯したりしている。
 そして何か新しいことができるたびに、俺に披露してくれた。
 随分と絶好調である。
 早くも魔法を自由自在に操れているみたいだ。

 やっぱり能力値の低さだけがネックだったのだろう。
 スキル構成を見ても、努力は怠っていないみたいだからね。
 弱点が解消されたことで才覚が一気に開花したらしい。
 夢中になって魔法を行使するシルエの姿に癒される。
 彼女の悩みを解決したのが俺だということに誇らしさを覚えてしまうね。

 無論、増長はしない。
 ここで調子に乗ってしまうのは違う。
 俺はあくまでもちょっと背中を押したくらいの貢献だ。
 大部分はシルエの頑張りが築き上げた結果である。
 彼女自身の努力なしでは、こうも簡単に魔法を使えないはずだ。
 きっと増えた魔力を持て余してしまうだろう。

(俺も見習わなければならないなぁ)

 【数理改竄(ナンバーハック)】の性質上、俺が強くなるためには必然的に能力値を高めていくことになる。
 上昇したステータスに振り回されないように気を付けないとね。

 ひっそりと自戒していると、前方から喧しい金切り声が聞こえてきた。
 見れば腰布を巻いた三匹の小鬼――ゴブリンがいる。
 どいつも木を削り出しただけの棍棒を携えていた。
 下卑た笑いを上げる彼らは、じりじりと距離を詰めようとしている。

 対峙する俺はと言えば、心境的にはかなり冷静だ。
 少し前まで魔族と戦ってたからね。
 ゴブリンが徒党を組んで現れたところで何の恐怖もない。
 能力値を比較しても、俺の方が高かった。
 素手でも十分に勝てる程度である。
 暇潰しにちょうどいいくらいだ。

 そう思って踏み出そうとした時、先にシルエが一歩前に出た。
 彼女は少し緊張した口調で俺に問う。

「迷惑でなければ、私が戦ってもいいでしょうか……魔法を試したいのです」

 シルエの言葉に俺は納得する。
 新しい力を実践してみたいのは当然の願望だろう。

「うん、いいよ」

「ありがとうございます」

 シルエは構えを取った。
 両手を前に突き出してゴブリンに向けた姿勢だ。
 彼女はぶつぶつと魔法の呪文を詠唱し始める。
 俺にはさっぱり意味が分からないが、魔法行使の予備動作に違いない。

 ゴブリンたちは、シルエの異変に気付いて慌てて跳びかかってきた。
 しかし、彼らの棍棒が届く前にシルエの魔法が完成する。
 彼女の手から放たれた三つの火球が、吸い込まれるようにして三体のゴブリンに命中して爆発した。

 吹き荒れる熱気と爆風。
 俺は腕で顔を覆いながら、ゴブリンたちがどうなったかを確認する。

「うわぁ……」

 火球を受けたゴブリンたちは、その身の大半が炭化して死んでいた。
 辛うじて原型を保っている部分も重度の火傷を負っている。
 完全なるオーバーキルだ。

 その凄惨な光景に俺は息を呑む。
 想像以上の破壊力だ。
 しかも火球はかなりのスピードが出ていた。
 シルエの能力値でも、こんなことにはならないはずだ。
 おそらくいくつかの魔法系スキルが作用した結果なのだと思われる。

「見ましたか、スドウさん! 私、攻撃魔法が使えましたよっ!」

 シルエはこちらを振り向いてはしゃぐ。
 とても無邪気な表情だ。
 ちょっとだけサイコっぽく見えてしまうのは、俺の気のせいだと思いたい。
 魔法で魔物を倒せたことが純粋に嬉しいのだろう、うん。

(シルエがいたら、靄魔族なんて楽勝だったんだろうなぁ……)

 しみじみとそんなこと考える俺は、乾いた笑いを漏らすしかなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み