第49話 動乱の決着
文字数 2,730文字
形成された稲妻が発射される前に暴発した。
コントロールから外れた雷光がクジョウの片腕を蹂躙する。
「ぐぅっ」
クジョウが苦しげに呻く。
雷光が治まった時、彼の片腕は半ば炭化していた。
辛うじて原型を留めているといった具合で、まだ繋がっているのが奇跡というレベルである。
ぶしゅぶしゅと断続的に血が噴き出していた。
黒くなった腕をだらりと垂らして、クジョウは脂汗を流す。
腕が治癒される気配はない。
やはりクジョウは回復手段を持っていないようだ。
清々しいほどに破壊力と速度に特化した戦闘スタイルであった。
まあ、大抵の敵はこの段階で殲滅できるだろうからな。
事実としてゴウダたちのグループが倒されたのだから、そのパワーとスピードは決して馬鹿にできない。
(何にしろ、片腕を潰せたのは大きい。このまま一気に攻勢、に……っ!?)
俺は追撃に向かおうとして、身体に異変を覚えた。
手足の筋肉がまとめて切れるような鋭い痛み。
思わず膝を突きそうになる。
同時に頭痛と吐き気が襲ってきた。
片腕を押さえて咆哮するクジョウが二重にぶれて見える。
ついに飴玉の反動がやって来たらしい。
再生能力が治癒を始めているが、それに拮抗する速度で肉体が壊れていく。
常人なら数秒で死にかねない。
さらに【行動加速 】と【外甲装着 】の効果が弱まってきたのを知覚する。
肉体が耐え切れないことで、無意識にリミッターを掛けつつあるらしい。
幸いにもクジョウも大ダメージでまだ満足に動けないらしく、こちらへは攻撃してこない。
シルエが魔法で妨害してくれているのも大きい。
ただ、それも時間稼ぎにしかならない。
魔法攻撃が主体の彼女では決定打に欠けるのだ。
いくら弱ったクジョウでも、未だに一級の戦闘能力を有する。
早急にどうにかする必要があった。
(ここで力を失うのはマズいぞ……)
俺自身の力だけではクジョウに勝てない。
致死ダメージを秘める雷撃で戦闘不能になって終わりだ。
身に纏う外骨格がなければ、今のクジョウには近付くことさえもできない。
とにかく、この反動をどうにか抑え込まねば。
俺は外骨格の形状を変えてコートのポケットを露出させた。
そこから赤い液体の入った小瓶を取り出す。
コルクの蓋を親指で外し、中身を一気に呷った。
液体を嚥下した瞬間、弱まりつつあった異能力が復活する。
代償として肉体の痛みが膨れ上がるも、なんとか許容範囲だった。
身体に生じていた破壊現象はひとまず治まる。
今飲んだ液体はニシナカ・ルリの血液だ。
彼女の異能力【増強血嗣 】は、彼女の血を摂取した者の異能力を強化する。
カネザワから飴玉を受け取った際、彼女にこれを貰っていたのだ。
ただし、これはあくまでも【行動加速 】と【外甲装着 】を補強するための処置に過ぎない。
反動自体は緩和させるどころか、むしろ悪化させている。
複数の異能力の発現が原因なのだからね。
仕方ない、肉体の自壊現象は気合いで耐えよう。
加速状態の再生能力があるので、もう少しだけ無理ができる。
クジョウをぶっ倒してから存分に休めばいいさ。
俺は全身の不調を意識の外へと追いやる。
「畜生が……どいつもこいつも……」
ぼやくクジョウは床から足を引き抜いて立ち上がった。
彼は犬歯を剥き出しにして怒りの形相を見せるも、ふらついたのちに吐血する。
いつの間にか身体の各所が焦げて白煙を上げていた。
異能力がオーバーヒートを起こして、電流を制御できなくなっているのだ。
あちらも相当に無理をしているらしい。
「うがあああああぁぁッ!」
でたらめな動きでクジョウが駆け出して、ボロボロの片腕を鞭のように振るってきた。
かなりの速度だが、トップスピードと比較するとかなり遅い。
俺はそれなりの余裕を以て回避し、すれ違いざまに爪を一閃させる。
軌道上にあったクジョウの腕が肩口から斬り飛ばされた。
鮮血が弾けて床を濡らす。
「ぐうううあああああぁ!」
片腕を失ったクジョウは、すぐさま電流で切断面を焼いて止血してみせた。
そこに躊躇は微塵もない。
彼はバランスを崩しながらも跳び蹴りを放ってくる。
俺は屈むと同時にクジョウの腹を切り裂いた。
「がっ、ああっ!?」
着地に失敗して床を転がるクジョウ。
彼は起き上がるや否や、再び傷口を電流で焼いた。
はみ出した内臓が焼けて千切れ落ちる。
調節を誤ったのか、傷口が燃え出していた。
クジョウは苦悶の表情で火を払って消す。
「まだ……まだ、だ……ッ!」
尚も諦めないクジョウは、残る腕に電流を集中させる。
稲妻を撃とうとしていた。
その前に俺は彼の懐に潜り込み、腕を掴んで捻り上げる。
すぐさまその辺の瓦礫の耐久値と彼のMPを入れ替えた。
電流は暴発すらも起こさず、僅かな音を残して空気中に四散する。
そこからダメ押しで残りの能力値もすべて一桁に落とし込んでやった。
いくらスキルや称号に恵まれようとも、この状態にまで弱体化すれば何もできやしない。
シルエが肉弾戦を挑んでも圧倒できるだろう。
「……離せ」
俺の手を振り払ったクジョウは、とうとう膝を突いた。
彼は荒い呼吸を繰り返す。
その双眸だけが未だに戦意を滾らせていた。
「なぜだ……なぜ、勝てない……俺は、勇者……Aランク……を越えて、Sランク……いや……SSランクに、なった……なのになぜ……」
息も絶え絶えにクジョウはうわ言を口にする。
この状況を信じられないようだった。
だから俺は、トドメの一言を告げることにした。
「――SSランクのお前を倒した俺が、SSSランクだったってだけだ」
俺は全身全霊の拳をクジョウに打ち込む。
大気を轟かせる砲撃のような炸裂音。
雷爆の勇者は為す術もなく吹き飛び、その身体で広間の壁をぶち破って上空へ放り出された。
そのまま落下して視界から消える。
俺は壁際まで走り寄って様子を確認しに行った。
「…………」
クジョウは地上にある噴水の中央に沈んでいた。
砕け散ったガラスや建材に潰されている。
彼は赤くなった水に浸って動かない。
ステータスのHPは0。
間違いなく息絶えていた。
「俺の、勝利だ……」
小さく呟いた俺は、その場にへたり込んだ。
コントロールから外れた雷光がクジョウの片腕を蹂躙する。
「ぐぅっ」
クジョウが苦しげに呻く。
雷光が治まった時、彼の片腕は半ば炭化していた。
辛うじて原型を留めているといった具合で、まだ繋がっているのが奇跡というレベルである。
ぶしゅぶしゅと断続的に血が噴き出していた。
黒くなった腕をだらりと垂らして、クジョウは脂汗を流す。
腕が治癒される気配はない。
やはりクジョウは回復手段を持っていないようだ。
清々しいほどに破壊力と速度に特化した戦闘スタイルであった。
まあ、大抵の敵はこの段階で殲滅できるだろうからな。
事実としてゴウダたちのグループが倒されたのだから、そのパワーとスピードは決して馬鹿にできない。
(何にしろ、片腕を潰せたのは大きい。このまま一気に攻勢、に……っ!?)
俺は追撃に向かおうとして、身体に異変を覚えた。
手足の筋肉がまとめて切れるような鋭い痛み。
思わず膝を突きそうになる。
同時に頭痛と吐き気が襲ってきた。
片腕を押さえて咆哮するクジョウが二重にぶれて見える。
ついに飴玉の反動がやって来たらしい。
再生能力が治癒を始めているが、それに拮抗する速度で肉体が壊れていく。
常人なら数秒で死にかねない。
さらに【
肉体が耐え切れないことで、無意識にリミッターを掛けつつあるらしい。
幸いにもクジョウも大ダメージでまだ満足に動けないらしく、こちらへは攻撃してこない。
シルエが魔法で妨害してくれているのも大きい。
ただ、それも時間稼ぎにしかならない。
魔法攻撃が主体の彼女では決定打に欠けるのだ。
いくら弱ったクジョウでも、未だに一級の戦闘能力を有する。
早急にどうにかする必要があった。
(ここで力を失うのはマズいぞ……)
俺自身の力だけではクジョウに勝てない。
致死ダメージを秘める雷撃で戦闘不能になって終わりだ。
身に纏う外骨格がなければ、今のクジョウには近付くことさえもできない。
とにかく、この反動をどうにか抑え込まねば。
俺は外骨格の形状を変えてコートのポケットを露出させた。
そこから赤い液体の入った小瓶を取り出す。
コルクの蓋を親指で外し、中身を一気に呷った。
液体を嚥下した瞬間、弱まりつつあった異能力が復活する。
代償として肉体の痛みが膨れ上がるも、なんとか許容範囲だった。
身体に生じていた破壊現象はひとまず治まる。
今飲んだ液体はニシナカ・ルリの血液だ。
彼女の異能力【
カネザワから飴玉を受け取った際、彼女にこれを貰っていたのだ。
ただし、これはあくまでも【
反動自体は緩和させるどころか、むしろ悪化させている。
複数の異能力の発現が原因なのだからね。
仕方ない、肉体の自壊現象は気合いで耐えよう。
加速状態の再生能力があるので、もう少しだけ無理ができる。
クジョウをぶっ倒してから存分に休めばいいさ。
俺は全身の不調を意識の外へと追いやる。
「畜生が……どいつもこいつも……」
ぼやくクジョウは床から足を引き抜いて立ち上がった。
彼は犬歯を剥き出しにして怒りの形相を見せるも、ふらついたのちに吐血する。
いつの間にか身体の各所が焦げて白煙を上げていた。
異能力がオーバーヒートを起こして、電流を制御できなくなっているのだ。
あちらも相当に無理をしているらしい。
「うがあああああぁぁッ!」
でたらめな動きでクジョウが駆け出して、ボロボロの片腕を鞭のように振るってきた。
かなりの速度だが、トップスピードと比較するとかなり遅い。
俺はそれなりの余裕を以て回避し、すれ違いざまに爪を一閃させる。
軌道上にあったクジョウの腕が肩口から斬り飛ばされた。
鮮血が弾けて床を濡らす。
「ぐうううあああああぁ!」
片腕を失ったクジョウは、すぐさま電流で切断面を焼いて止血してみせた。
そこに躊躇は微塵もない。
彼はバランスを崩しながらも跳び蹴りを放ってくる。
俺は屈むと同時にクジョウの腹を切り裂いた。
「がっ、ああっ!?」
着地に失敗して床を転がるクジョウ。
彼は起き上がるや否や、再び傷口を電流で焼いた。
はみ出した内臓が焼けて千切れ落ちる。
調節を誤ったのか、傷口が燃え出していた。
クジョウは苦悶の表情で火を払って消す。
「まだ……まだ、だ……ッ!」
尚も諦めないクジョウは、残る腕に電流を集中させる。
稲妻を撃とうとしていた。
その前に俺は彼の懐に潜り込み、腕を掴んで捻り上げる。
すぐさまその辺の瓦礫の耐久値と彼のMPを入れ替えた。
電流は暴発すらも起こさず、僅かな音を残して空気中に四散する。
そこからダメ押しで残りの能力値もすべて一桁に落とし込んでやった。
いくらスキルや称号に恵まれようとも、この状態にまで弱体化すれば何もできやしない。
シルエが肉弾戦を挑んでも圧倒できるだろう。
「……離せ」
俺の手を振り払ったクジョウは、とうとう膝を突いた。
彼は荒い呼吸を繰り返す。
その双眸だけが未だに戦意を滾らせていた。
「なぜだ……なぜ、勝てない……俺は、勇者……Aランク……を越えて、Sランク……いや……SSランクに、なった……なのになぜ……」
息も絶え絶えにクジョウはうわ言を口にする。
この状況を信じられないようだった。
だから俺は、トドメの一言を告げることにした。
「――SSランクのお前を倒した俺が、SSSランクだったってだけだ」
俺は全身全霊の拳をクジョウに打ち込む。
大気を轟かせる砲撃のような炸裂音。
雷爆の勇者は為す術もなく吹き飛び、その身体で広間の壁をぶち破って上空へ放り出された。
そのまま落下して視界から消える。
俺は壁際まで走り寄って様子を確認しに行った。
「…………」
クジョウは地上にある噴水の中央に沈んでいた。
砕け散ったガラスや建材に潰されている。
彼は赤くなった水に浸って動かない。
ステータスのHPは0。
間違いなく息絶えていた。
「俺の、勝利だ……」
小さく呟いた俺は、その場にへたり込んだ。