第19話 成長志向

文字数 2,824文字

 俺は生え変わったばかりの手足を使って立ち上がる。
 再生力は今回も健在だ。
 既に問題なく動かせるレベルまで回復している。

 まさか完全に切断された状態からでもスムーズに生えてくるとはね。
 見れば、斬り落とされた俺の手足が辺りに転がっていた。
 正直、気持ち悪さは感じる。
 便利だから不満なんてないけどさ。
 このスキルがなければ、とっくの昔に死んでいるし。

 俺はジークの死体の確認をしに行く。
 白目を剥いて絶命するジークは、顎が粉砕していた。
 美貌が台無しとなっている。

 生け捕りの方が賞金が多いそうだが、さすがに無理だった。
 【数理改竄(ナンバーハック)】という反則技を使うことでギリギリ勝利できたくらいだからね。

 この異能力は使い方によっては非常に強力だが、対象に触れないと使えないのがネックだ。
 しかも、微妙に発動までにタイムラグがある。
 無闇に使って警戒されると困るので土壇場まで温存したわけだが、上手く決まって本当に良かった。

 さて、俺のステータスの称号欄には【盗賊殺し】と【賞金稼ぎ】が追加されていた。
 前者は盗賊と戦う際に身体能力アップの補正、後者は賞金首が相手の際に似たような効果が発揮されるらしい。

 これまでに得た称号よりも、心なしか地味なラインナップである。
 まあ、他がドラゴンや魔族の討伐時にゲットしたものだ。
 見劣りしてしまうのも仕方あるまい。
 これはこれで限定状況ながらも役に立ちそうだ。

 さらにスキル欄には【乾坤一擲】という表記が増えていた。
 このスキルを使うと、次の一撃のダメージが大きく上がるのだという。
 代償としてHPが減少するそうだ。

 一か八か、次の攻撃に賭けるための能力だろう。
 ピーキーだが悪くない。
 俺の場合はHPも自動で回復するしね。

 効果の性質から考えるに、瀕死の状態からジークを蹴り飛ばして倒したことから取得できたものと思われる。
 あれこそまさに博打に打ち勝ったフィニッシュだろう。

 これによって、行動次第ではスキルも取得可能ということが分かった。
 何気に重要な情報だ。
 便利な力が増えるのは大歓迎である。
 強敵と戦うたびに致命傷を食らいながら競り勝つのは嫌だからね。
 気力で耐えているけど、本当に辛いのだ。

(そのためには戦闘技術を上げないとな……)

 俺は密かに嘆息する。

 今回の戦いで、戦闘経験の不足を痛感した。
 ドラゴンや靄魔族などの異形とは違い、ジークは立派な人間だった。
 際立った特殊能力もなければ、身体能力に関しては俺の方が高かったほどである。
 即死級の負傷すら瞬時に再生する俺の方が圧倒的に有利だったはずなのだ。
 それにも関わらず為す術もなく瀕死に追い込まれたのは、ひとえに戦闘技術と経験の差に尽きる。

 今後のことを考えると、この辺りの問題点は解消していかなければ。
 いずれ足元を掬われる予感がする。
 強力な能力に慢心していたら駄目だ。
 地力を鍛えていこう。

 反省を済ませた俺は、ジークの死体から魔法銃を拝借する。
 ずしりと重たい感覚。
 特に故障している感じもない。
 肝心の使い方も、ステータスの詳細情報から把握できた。
 説明書いらずとはありがたい話である。

 操作自体は非常にシンプルで、狙いを付けて引き金を引くだけらしい。
 発射のたびに使用者の魔力を吸い取る方式で、特に弾丸の装填作業などはないのだという。
 つまり、魔力がある限りは撃ち放題なわけだ。
 元の世界の銃火器よりも利便性が高い気がする。

 俺は試しに瓦礫の山へ発砲してみた。
 放たれた光弾は狙い通りの場所に炸裂する。
 クレーター上の破壊痕の中心には、結晶状の弾丸が突き立っていた。

「うん、いいね」

 発射の反動もなく非常に使いやすい。
 素晴らしい戦利品だ。
 これだけでわざわざ廃砦まで来て、ジークと死闘を演じた甲斐がある。
 今更だけど”魔弾”の二つ名は、この魔法銃が由来なのだろう。
 大事に使っていこうと思う。

 他にもジークの身に付けていた丈夫な胸甲や魔法耐性を付与する腕輪をいただいておいた。
 どれも高価そうだ。
 現金だけでシルエの借金返済ができたら、こっそり貰おうかな。
 これくらいの報酬はあっていいんじゃないだろうか。

 そこまで考えたところで、俺は大事なことを思い出す。

(シルエの方はどうなったんだろう……?)

 戦闘後の余韻ですっかり頭から抜けていたが、盗賊の大部分はシルエに殺到しているはずだ。
 現に俺の周りには誰もいない。

 まあ、あれだけ派手に魔法がぶっ放されていたのだ。
 自分たちの拠点を脅かされた盗賊たちは、真っ先に迎撃へと向かうだろう。

 しまったな、あまりにも薄情なことをしてしまった。
 シルエなら大丈夫だとは思うけど、万が一ということもある。

 俺は魔法銃を片手に廃砦の入口方面へと早足で進む。
 瓦礫だらけの敷地内を進んでいくと、やがて異様な光景に遭遇した。

「ん……? なんだこれ……?」

 そこには数十人の盗賊たちが地面に転がっていた。
 一部は死んでいるようだが、半分以上がただ眠っているだけの様子である。
 ステータスによると精神魔法と幻惑魔法によるものだと判明した。

 シルエはそんな盗賊たちの中央付近に佇んでいた。
 その手には水晶の埋まった杖が握られている。
 盗賊から奪ったものだろうか。
 彼女は俺を見つけると、ぱたぱたと駆け寄ってきた。

「スドウさん! 盗賊たちは無力化しました! "魔弾"のジークは見つけましたか?」

「まあ、なんとか倒したけど……これ全部一人でやったの?」

 俺が訊くと、シルエは少し誇らしそうに首肯する。

「はい。最初は火魔法で攻撃していたのですが、途中からは精神魔法と幻惑魔法で生み出した睡眠効果のある煙を、風魔法で充満させて一網打尽にしてみました!」

「あ、そう……」

 そこで俺はシルエのステータスに注目する。
 彼女の称号欄には【盗賊の天敵】【大器晩成】【百人力の魔導師】が追加されていた。
 スキルも魔法系のものがいくつか増えている。

(これはちょっと、おかしくないか……)

 どうみてもシルエの方が凄い称号を貰っている。
 この差は何だろう。
 やはりボスだけを横取りした俺は駄目なのか。
 確かに貢献度や倒した敵の数を考えた場合、シルエに軍配が上がる気がする。

 これはもう仕方ないね。
 文句も言えまい。
 俺と違って無傷のようだし、よほど上手に立ち回ったのだろう。
 もしかすると、彼女に任せた方が簡単にジークを倒せたのではないだろうか。

 頬を紅潮させて胸を張るシルエの姿に、俺はそっとため息を呑み込んだ。
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