85日目

文字数 1,558文字

 佐伯さんは悠希さんのカフェの雰囲気を気に入ったようだ。

「レトロな雰囲気でオシャレね」

 その佐伯さんの言葉を聞いた勇気さんは、笑顔になり、目尻を下げていた。

 今日は二人で悠希さんのカフェに来ていた。
 土曜日とはいえ中途半端な午前中の10時前にきたせいか、他の客はコーヒーを啜っている老人らしき男性が一人だけだった。

「プリンも美味しいじゃない。野瀬さんはよくこんなお店知っていたわね」
「偶然婚活中に見つけたんですよ。まあ、婚活は全部失敗していますが」

 自虐のように笑ってしまったので、この場の雰囲気がちょっと微妙になり、話題を変えた。

 主にスピリチュアルを全部やめた事など、悠希さんに報告。

「私もスピリチュアルやめたわ」

 佐伯さんもプリンを食べながら頷いた。

「それはよかったですよ。スピリチュアルグッズは全部捨てたほうがいいですよ。ああいうのにも悪霊がくっついていますから」
「ええ。店長さんの言う悪霊とかはよくわからないけど、スピリチュアルグッズ捨ててスッキリしたわ」

 佐伯さんの横顔はスッキリとしていた。そういえば手首にパワーストーンも巻き付いていない。

「一つ疑問に思うんだけど、ヨガやマインドフルネス、瞑想はスピリチュアルに関係していたりする?」

 私は疑問に思っていた事を聞くと、悠希さんは少々大袈裟に頷いた。

「特にヨガは危険だよ。ポーズ一つ一つが悪魔を礼拝するポーズで」
「そんな、ヨガは悪くないと思ってたのに」

 佐伯さんはショックを受けていたが、私はオウム真理教の事を思い出した。あの人達もヨガをやっていたはずだ。色々と修行と称して苦行を信者に強制していたし、やっぱりスピリチュアルはカルトを超マイルドにしたものだろう。神様も抜き入りやすい広い門だったのかもしれない。

「マインドフルネスや瞑想は? エリートもやっているって聞いてよ」
「それはね、野瀬さん。あれもヨガと似たようなもので、悪霊を呼びこむ儀式みたいなもんなんだよ」

 佐伯さんも私も顔を見合わせる。その二つに限ってはスピリチュアルと違ってオシャレな印象だったのに。

「人間の心を空っぽにして瞑想なんてしていると悪霊が入り放題になる。聖書にも、綺麗に掃除した場所により酷い悪霊が入り込むっていう箇所がある。これは瞑想やマインドフルネスの事も言っていると思うんだ。あと未信者が『イエスの御名で出て行け』って悪霊祓いしても120%悪霊が報復してくる。これは未信者は絶対やったらダメだ」

 いつも朗らかなタイプの佐伯さんもさすがに表情が暗くなってきた。

「エリートやジョブズはなんでそんな事してるの?」

 私は単純に疑問だった。

「それは悪霊も一見人間に良いものを持ってくるからだよ。聖書にもあったでしょ。悪魔がイエス様が誘惑するシーン覚えてる? 自分を拝めばこの世界をあげようって」

 悠希さんの言葉にハッとし、カバンに入れていた聖書を開く。確かにマタイ4章にそんなような事が書いてあった。

「スピリチュアル『エリートがやってるかどうか』『オシャレかどうか』っていう人間的基準で判断するんじゃなくて、神様の基準で判断してほしいな。一見オシャレなマインドフルネスもヨガも瞑想も神様の目から見たら、全部胡散臭い偶像崇拝だよ?」

 悠希さんは私の持っている聖書をチラリと見ながら言う。

「そっか。基準を神様にすれば、何が善悪かわかりやいね」

 目から鱗が落ちる。今までは他人や自分の感覚を基準にしていた。それが神様を基準に生きたら、全部安定するんじゃないか。そんな気がした。実際、この悠希さんは若いのにドッシリとしているというか、妙な強さが滲み出ていた。

「店長さん。私もちょっと聖書見たくなってきたんだけど」

 佐伯さんも何か感じとったらしい。ついに悠希さんから聖書を一冊受けとっていた。
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登場人物紹介

野瀬青花

崖っぷちアラサー女子。

ひょんなことからスピリチュアルに騙されてしまう。

悠希

カフェ店長でクリスチャン

佐伯さん

青花と同僚。女子力高めでスピリチュアル好きな主婦。

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