37日目

文字数 942文字

 昼過ぎ、空人と通話した。

 声はあんまり変わってはいなかった。

 また暴言を吐かれるのではないかとヒヤヒヤしたが、意外な事に謝ってきた。

「実は青花には謝りたいと思っていてさ」
「本当に? なんで?」
「昔は言いすぎたなって。どう? これからちょっと会えない?」

 過去と違い、空人の声は優しかった。
 結局、昔よく一緒に行った居酒屋に行くことになった。

 久しぶりに行った居酒屋は感染対策を徹底したいて、しきりやビニールカーテンがいっぱいあって鬱陶しかったが、そこそこ人で賑わっていた。

 空人は、外見も結構良くなっていた。

 昔はデブだったのに、今はすっきりと痩せていたし、シャツにジーパンというラフな格好の割にはスタイルも良くみえた。聞くと筋トレにハマっているらしい。

 しばらく酒を飲みながら、近状報告などをした。なぜか空人は、熱っぽい視線で私を見てきた。

 これは蜜柑先生のヒーリング効果か?

「実は青花とやり直したいんだよ」

 そんな事まで言われてしまった。やっぱりヒーリング効果はあったのかもしれない。

「どういう事?」
「うん、だからさ。お互い良かったらどうよ? あれから青花の事忘れられなかったんだ」
「へぇ」

 なぜか頭の中の冷静な部分が、「嘘じゃない?」と警告を発していた。酔いが回ってきて冷静さは消えていないようだった。

「考えさせて」
「ま、そうだよな。あと、これ俺がやっているビジネスなんだけど」

 空人は、「ネットで誰でも稼げる無在庫転売術」というセミナーを開く事をチラシを見せながら説明した。

「誰でも稼げるの?」
「そうだよ。今はコロナじゃん?」

 空人は居酒屋中のビニールカーテンやしきりを見つめる。

「だから好きな事で稼ぐのって良くない?」
「うーん、でもそんな好きな事ってないんだけどね」
「ただ、これから稼げないのも大変だろ」

 そう言われてしまうと心がちくんとしてきた。

「試しにセミナー参加しない?」
「いつ?」

 セミナーはタダだった。場所も職場の近くのビルだった。

「まあ、行ってもいいけど」
「やった! じゃあ、さっそく今から送るURLに情報を入れてくれない?」

 空人に言われたとおりに情報を打ち込んだ。

「オッケー! じゃあ、明後日セミナー会場で」

 こうして空人のセミナーに参加する事に決まった。
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登場人物紹介

野瀬青花

崖っぷちアラサー女子。

ひょんなことからスピリチュアルに騙されてしまう。

悠希

カフェ店長でクリスチャン

佐伯さん

青花と同僚。女子力高めでスピリチュアル好きな主婦。

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