73日目

文字数 971文字

 今日は佐伯さんも元気そうだったし、仕事も残業にならないように頑張って終わらせた。

 誰にも褒められる事ではないが、好きな事して稼ごうなどとは考えなくなってしまった。やっぱり、元カレが言っていたような事は詐欺だと思った。

 久々に悠希さんのカフェに行ってみる事にした。

 仕事の帰りに寄ったのだが、今日は客が多かった。どうやら悠希さんと同じ教会の人が来ているらしい。オンライン礼拝で見た目が不自由な男性もいた。他にもう老人と言って良いぐらいの女性が何人かいたが、想像以上に元気なご老人だった。

 なぜか私も彼らと一緒にプリンやコーヒーフロートを楽しんでしまった。

「野瀬さんもここの常連さんだったんだ。僕らの教会にも遊びに来てよ」

 目が不自由な男性に言われた。彼の名前は佐々木さんという。

 遊びに行くものか?と疑問に思ったが、彼らはとっても元気で明るかったので、軽い気持ちで行ってもいいような気がした。

「野瀬さんは聖書興味ある?」

 そして佐々木さんに聖書まで貰ってしまった。ギデオン教会というところで配っている聖書らしい。

「いいんですか?」

 無料で配っていると言っていたが、普通に立派な本だった。英文まで載っている。

「いいんだよ。こういう時の為に持ち歩いてんでんだ。まあ、僕は紙の本は読めないけどね」

 佐々木さんの自虐ネタに笑っていいのか微妙なところだったが、悠希さんに話しかけられた。

「野瀬さんはホテルに聖書が置いてある理由しってる?」
「知らない。アメリカ人観光客のため?」

 外国人にはクリスチャンが多いのでそんな気がした。

「そういう面もあるけど、聖書は自殺防止にいいからね」
「自殺防止?」
「そう。ホテルでは意外と多いらしい。それでホテル側と聖書配っている教会の利害が一致したというわけ」

 そういうわけか。まだまだ自分にも知らない事があるらしい。

「だったら聖書の言葉は自殺防止にきくってこと?」
「そうだよ。神様の言葉は命のパンだからね」

 そう言って悠希さんは、イザヤ書43章4節というところを読んでくれた。

「神様って私の事も愛してくれていたの?」

 信じられないが、そこの箇所は神様から人間の愛の告白のようだった。

 自殺防止に聖書の言葉が効くというのは、よくわかった。

 元カレの詐欺にあったあと、鬱々としていたが、少し心が軽くなりるような感覚を覚えた。
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登場人物紹介

野瀬青花

崖っぷちアラサー女子。

ひょんなことからスピリチュアルに騙されてしまう。

悠希

カフェ店長でクリスチャン

佐伯さん

青花と同僚。女子力高めでスピリチュアル好きな主婦。

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