32、合意書
文字数 1,865文字
世津奈は、九鬼に便箋をもらい、玲子と合意した取引内容を書き付け始めた。
「そんな事、私にメールを送ればいいじゃない」
玲子が言う。
「メールは消されてしまいます。それに、誰かに盗み見されるかもしれない」
「だから、紙なの? 時代に完全に逆行してるわよ」
世津奈は玲子を無視して手書きを続ける。
【合意書】
玲子・チナワット(以下、甲)、九鬼修三(以下、乙)、宝生世津奈(以下、丙)の3者は、下記の4項目につき合意する。
《合意事項1》丙は、丙がREB(放射線無害化バクテリア)の機密漏洩に関して調査した内容を、甲に対し、甲が「海洋資源開発コンソーシアム」の取材を進める上の参考として提供することに合意する。
《合意事項2》丙は、丙が乙から入手した「海洋資源開発コンソーシアム」に関する情報を、甲に対し、甲が「海洋資源開発コンソーシアム」の取材を進める上の参考として提供することに合意する。
《合意事項3》甲は、甲が単独で「海洋資源開発コンソーシアム」について調査した内容、及び甲が乙と共同で「海洋資源開発コンソーシアム」について調査した内容を、すべて丙に提供する。
《合意事項4》丙は、甲から提供された情報を、甲本人および甲の所属企業の安全確保に必要な範囲においてのみ利用する。
《合意事項5》丙は、甲から提供された情報を、丙以外の誰にも提供しない。
《合意事項6》丙は、丙がREBは実在すると確認した場合、次の3つを条件に、甲が取材結果を記事として公表することに合意する。
*条件1:甲は、記事中で乙、丙、および丙の所属企業に一切言及しない。
*条件2:甲は、日本政府が「海洋資源開発コンソーシアム」を用いて実行しようとしている原発と高レベル放射性廃棄物のバーター取引についてのみ記事にする。
*条件3:甲は、記事原稿を丙に提示し丙の承認を得たうえで公表する。
《合意事項7》丙は、丙がREBは実在しないと確認した場合、次の3つを条件に、甲が取材結果を記事として公表することに合意する。
*条件1:甲は、記事中で乙、丙、および丙の所属企業に一切言及しない。
*条件2:甲は、日本政府が『海洋資源開発コンソーシアム」を用いて実行しようとしている原発と高レベル放射性廃棄物のバーター取引、および、その取引と関係がある限りにおいてREBにてついて記事にする。
*条件3:甲は、記事原稿を丙に提示し丙の承認を得たうえで公開する。
こんな合意書を高山に見せたら、即刻クビにされるだろうと思ったが、玲子と折り合いをつけるには、この程度妥協する必要があるだろう。
世津奈が書き終えた合意書を玲子に読ませると、玲子が眉をひそめた。
「あなたは、REBが実在しない場合にまで記事原稿を見せろとは、言わなかった」
「言いませんでした。でも、合意書を書いていて、やはり必要だと思いました」
「約束と違う。撤回して」
世津奈は、またホルスターに手を回す。
「また、そうやって銃を持ち出そうとする。合意書とかいって、結局、私を恫喝してるんじゃない!」
「どうとでも、おっしゃってください。私は、私の職業倫理が許すギリギリの範囲で、あなたとwin-win になる道を追求しているのです」
「玲子、その辺で折り合いをつけろ」
九鬼が玲子をたしなめる。
「あんたは、自分の娘と、この他人のオンナと、どっちの味方なの?」
玲子が九鬼に怒鳴り返す。
「現状の膠着状態を打開できる合理的な取引の味方をしている」
九鬼が静かに答えた。
世津奈は、世津奈的な基準では九鬼がうまく逃げたと思ったが、世津奈と違って感情が激しい玲子に通用したかどうかは疑問だった。
「いいわよ、わかったわよ。どうせ、私は、見捨てられた娘なのよ。二人で勝手にするといいわ」
やはり、玲子の反応は感情的だった。
「もう二部作成します。三部に三人が署名して持ち合いましょう」
世津奈は玲子の反応を無視して、淡々と話を進める。
「私が、そんなものにサインすると思うの?」
「思います。玲子さんは知的で合理的な方ですから」
「おだてたって、何も出ないわよ」
口をとがらせながら、玲子が合意書にサインした。世津奈と九鬼もサインした。
さらにもう二部同じものを作り、三人でサインし、一部ずつ分け合った。
「これで契約成立です。玲子さんと九鬼さんから情報をお聞きするのを楽しみにしています」
「あんたも、REBについて新しい情報を手に入れたら、教えなさいよ」
玲子が釘を差してきた。
「もちろんです。九鬼さん、ごちそうさまでした」
世津奈は九鬼のバーを後にした。どっと疲れが出てきた。
「そんな事、私にメールを送ればいいじゃない」
玲子が言う。
「メールは消されてしまいます。それに、誰かに盗み見されるかもしれない」
「だから、紙なの? 時代に完全に逆行してるわよ」
世津奈は玲子を無視して手書きを続ける。
【合意書】
玲子・チナワット(以下、甲)、九鬼修三(以下、乙)、宝生世津奈(以下、丙)の3者は、下記の4項目につき合意する。
《合意事項1》丙は、丙がREB(放射線無害化バクテリア)の機密漏洩に関して調査した内容を、甲に対し、甲が「海洋資源開発コンソーシアム」の取材を進める上の参考として提供することに合意する。
《合意事項2》丙は、丙が乙から入手した「海洋資源開発コンソーシアム」に関する情報を、甲に対し、甲が「海洋資源開発コンソーシアム」の取材を進める上の参考として提供することに合意する。
《合意事項3》甲は、甲が単独で「海洋資源開発コンソーシアム」について調査した内容、及び甲が乙と共同で「海洋資源開発コンソーシアム」について調査した内容を、すべて丙に提供する。
《合意事項4》丙は、甲から提供された情報を、甲本人および甲の所属企業の安全確保に必要な範囲においてのみ利用する。
《合意事項5》丙は、甲から提供された情報を、丙以外の誰にも提供しない。
《合意事項6》丙は、丙がREBは実在すると確認した場合、次の3つを条件に、甲が取材結果を記事として公表することに合意する。
*条件1:甲は、記事中で乙、丙、および丙の所属企業に一切言及しない。
*条件2:甲は、日本政府が「海洋資源開発コンソーシアム」を用いて実行しようとしている原発と高レベル放射性廃棄物のバーター取引についてのみ記事にする。
*条件3:甲は、記事原稿を丙に提示し丙の承認を得たうえで公表する。
《合意事項7》丙は、丙がREBは実在しないと確認した場合、次の3つを条件に、甲が取材結果を記事として公表することに合意する。
*条件1:甲は、記事中で乙、丙、および丙の所属企業に一切言及しない。
*条件2:甲は、日本政府が『海洋資源開発コンソーシアム」を用いて実行しようとしている原発と高レベル放射性廃棄物のバーター取引、および、その取引と関係がある限りにおいてREBにてついて記事にする。
*条件3:甲は、記事原稿を丙に提示し丙の承認を得たうえで公開する。
こんな合意書を高山に見せたら、即刻クビにされるだろうと思ったが、玲子と折り合いをつけるには、この程度妥協する必要があるだろう。
世津奈が書き終えた合意書を玲子に読ませると、玲子が眉をひそめた。
「あなたは、REBが実在しない場合にまで記事原稿を見せろとは、言わなかった」
「言いませんでした。でも、合意書を書いていて、やはり必要だと思いました」
「約束と違う。撤回して」
世津奈は、またホルスターに手を回す。
「また、そうやって銃を持ち出そうとする。合意書とかいって、結局、私を恫喝してるんじゃない!」
「どうとでも、おっしゃってください。私は、私の職業倫理が許すギリギリの範囲で、あなたとwin-win になる道を追求しているのです」
「玲子、その辺で折り合いをつけろ」
九鬼が玲子をたしなめる。
「あんたは、自分の娘と、この他人のオンナと、どっちの味方なの?」
玲子が九鬼に怒鳴り返す。
「現状の膠着状態を打開できる合理的な取引の味方をしている」
九鬼が静かに答えた。
世津奈は、世津奈的な基準では九鬼がうまく逃げたと思ったが、世津奈と違って感情が激しい玲子に通用したかどうかは疑問だった。
「いいわよ、わかったわよ。どうせ、私は、見捨てられた娘なのよ。二人で勝手にするといいわ」
やはり、玲子の反応は感情的だった。
「もう二部作成します。三部に三人が署名して持ち合いましょう」
世津奈は玲子の反応を無視して、淡々と話を進める。
「私が、そんなものにサインすると思うの?」
「思います。玲子さんは知的で合理的な方ですから」
「おだてたって、何も出ないわよ」
口をとがらせながら、玲子が合意書にサインした。世津奈と九鬼もサインした。
さらにもう二部同じものを作り、三人でサインし、一部ずつ分け合った。
「これで契約成立です。玲子さんと九鬼さんから情報をお聞きするのを楽しみにしています」
「あんたも、REBについて新しい情報を手に入れたら、教えなさいよ」
玲子が釘を差してきた。
「もちろんです。九鬼さん、ごちそうさまでした」
世津奈は九鬼のバーを後にした。どっと疲れが出てきた。