44、思いがけない告白
文字数 2,089文字
由紀子が世津奈に食ってかかる。
「私には敵はいても仲間はいないと言ったはず。同じことを言わせないで」
世津奈は動じない。
「でも、あなたはブルーアースのメンバーですよね。他のブルーアースのメンバーは、あなたの仲間ではないですか」
「ブルーアースを出て行った過激派と闘うなんていう汚れ仕事を仲間にさせたくない。そう思ってるんすか?」
コータローが軽く揶揄する調子で言う。
「由紀子さんにそんな遠慮をさせるとは、ずいぶん水臭いお仲間ですね」
世津奈はそう言って由紀子に笑みを投げる。
由紀子が自制を失った。
「わかったような口を利かないで! 私たちには、私たちの流儀がある。ブルーアースでは、メンバーだからといって甘えは許されない」
「もしかして、由紀子さんはブルーアースのお仲間を困らせるようなミスをしたとか?」
世津奈は微笑みながら問いかける。今の私は顔は笑っていても目は笑っていないだろうな、と世津奈は思う。
由紀子から返ってきたのは、思いがけない言葉だった。
「ええ、したわよ。カエデを生んだことよ」
由紀子の声が切迫しているので、世津奈は作り笑いを消す。
「どういうことっすか?」
驚いた口調でコータローが尋ねる。
「世津奈さん、あなたなら想像がつくでしょ?」
由紀子が話を世津奈に振ってくる。
「あなたと栗林さんはブルーアースの活動のために夫婦を装っていた。ところが、あなたたちは本当に愛し合ってしまい、カエデちゃんが生まれた。そうですか?」
「そうよ。私が妊娠したことをブルーアースの幹部に知らせたら、堕胎を迫られると思った。だから、私は秘密でカエデを生んだ」
「でも、今では、カエデちゃんの存在を彼らも知っている」
世津奈の言葉に由紀子が黙ってうなずく。
「宝生さん、これマジっすか? テレビの2時間サスペンスみたいじゃないすか?」
そう言って、コータローが世津奈の顔を見る。
世津奈は視線を由紀子からコータローに移して答える。
「コー君、由紀子さんがウソをついているように見える?」
「宝生さんには、本当のことを言っているように見えるんすか?」
「もちろん」
と言ったものの、同じ女性としての同情心から判断が曇っているのではないかと不安でもある。不安をまぎらすために、余計な冗談を付け加える。
「それから、2時間サスペンスは、今では絶滅危惧種だから」
世津奈は由紀子に向き直る。
「だから、ブルーアースの仲間にはカエデちゃんとあなたを保護するよう頼めない。そういうことですか?」
「頼むことはできる。でも、却下されるのが目に見えている」
由紀子が沈痛な面持ちで答える。
「だけど、ブルーアースは、由紀子さんから過激分子に情報が流れることは心配するっしょ」
コータローが由紀子に言う。
「だから、言ったでしょ。私は、過激分子が欲しがっている情報を持っていない」
この言葉は、世津奈の心証に反している。世津奈は由紀子に突っ込む。
「では、誰なら、その情報を持っているのですか?」
「栗林は、持っていた」
「由紀子さんと栗林さんはブルーアースの仲間で、しかも夫婦っすよね。栗林さんがその情報を由紀子さんに伝えなかったなんて、信じられないっす」
コータローが言う。
「もしかして、栗林さんは由紀子さんが過激分子に囚われる可能性を考慮してその情報を伝えなかったのでしょうか?」
と世津奈が問うと、由紀子が黙ってうなずく。
「ひぇ~、夫婦の間なのに、厳しいっすね」
コータローが驚く。
「私がその情報を知らなくても、ブルーアースは劉麗華経由で栗林からその情報を手に入れている」
由紀子が言う。
世津奈は、栗林が小河内ダムで劉麗華に渡したのは、その情報だったのだろうかと考える。しかし、そうだとすると、情報はブルーアースに伝わっていない可能性が高い。
「それは、どうでしょう? 劉麗華さんは、小河内ダムで何者かに射殺されました」
由紀子の表情が一変する。
「つまらないウソを言わないで!」
「ウソではありません。私の目の前で、頭を撃ちぬかれて亡くなりました」
「それなら、なぜ、目撃者のあなたがこうして生きているの?」
「私は麻酔薬を塗った矢を射こまれて気絶させられました。なぜ殺されずに済んだのか、私にもよくわかりません」
コータローが控えめな口調で割って入る。
「劉麗華さんを殺した連中は、宝生さんを日本の警察関係者かもしれないと心配したのかもしれないっす。いくら過激な連中でも、警察官殺しはためらうでしょう」
「それは、ありうるわね」
世津奈はもっともだと思いながら答える。
「あの大事な情報がブルーアースには伝わらず、ブルーアースを出て行った過激派にだけ伝わっている」
そうつぶやいた由紀子の顔からみるみる血の気が引いていく。
「今、『あの大事な情報』とおっしゃいましたね。由紀子さんは、それが少なくとも『何についての情報なのか』はご存じなのですね」
由紀子が固い表情で答える。
「過激派が知りたがっているのは、高濃度放射性廃棄物を積んだ『海洋資源開発コンソーシアム』の調査船が日本海溝に向けて出港する日時と場所よ」
世津奈とコータローは、はっとして顔を見合わせた。
「私には敵はいても仲間はいないと言ったはず。同じことを言わせないで」
世津奈は動じない。
「でも、あなたはブルーアースのメンバーですよね。他のブルーアースのメンバーは、あなたの仲間ではないですか」
「ブルーアースを出て行った過激派と闘うなんていう汚れ仕事を仲間にさせたくない。そう思ってるんすか?」
コータローが軽く揶揄する調子で言う。
「由紀子さんにそんな遠慮をさせるとは、ずいぶん水臭いお仲間ですね」
世津奈はそう言って由紀子に笑みを投げる。
由紀子が自制を失った。
「わかったような口を利かないで! 私たちには、私たちの流儀がある。ブルーアースでは、メンバーだからといって甘えは許されない」
「もしかして、由紀子さんはブルーアースのお仲間を困らせるようなミスをしたとか?」
世津奈は微笑みながら問いかける。今の私は顔は笑っていても目は笑っていないだろうな、と世津奈は思う。
由紀子から返ってきたのは、思いがけない言葉だった。
「ええ、したわよ。カエデを生んだことよ」
由紀子の声が切迫しているので、世津奈は作り笑いを消す。
「どういうことっすか?」
驚いた口調でコータローが尋ねる。
「世津奈さん、あなたなら想像がつくでしょ?」
由紀子が話を世津奈に振ってくる。
「あなたと栗林さんはブルーアースの活動のために夫婦を装っていた。ところが、あなたたちは本当に愛し合ってしまい、カエデちゃんが生まれた。そうですか?」
「そうよ。私が妊娠したことをブルーアースの幹部に知らせたら、堕胎を迫られると思った。だから、私は秘密でカエデを生んだ」
「でも、今では、カエデちゃんの存在を彼らも知っている」
世津奈の言葉に由紀子が黙ってうなずく。
「宝生さん、これマジっすか? テレビの2時間サスペンスみたいじゃないすか?」
そう言って、コータローが世津奈の顔を見る。
世津奈は視線を由紀子からコータローに移して答える。
「コー君、由紀子さんがウソをついているように見える?」
「宝生さんには、本当のことを言っているように見えるんすか?」
「もちろん」
と言ったものの、同じ女性としての同情心から判断が曇っているのではないかと不安でもある。不安をまぎらすために、余計な冗談を付け加える。
「それから、2時間サスペンスは、今では絶滅危惧種だから」
世津奈は由紀子に向き直る。
「だから、ブルーアースの仲間にはカエデちゃんとあなたを保護するよう頼めない。そういうことですか?」
「頼むことはできる。でも、却下されるのが目に見えている」
由紀子が沈痛な面持ちで答える。
「だけど、ブルーアースは、由紀子さんから過激分子に情報が流れることは心配するっしょ」
コータローが由紀子に言う。
「だから、言ったでしょ。私は、過激分子が欲しがっている情報を持っていない」
この言葉は、世津奈の心証に反している。世津奈は由紀子に突っ込む。
「では、誰なら、その情報を持っているのですか?」
「栗林は、持っていた」
「由紀子さんと栗林さんはブルーアースの仲間で、しかも夫婦っすよね。栗林さんがその情報を由紀子さんに伝えなかったなんて、信じられないっす」
コータローが言う。
「もしかして、栗林さんは由紀子さんが過激分子に囚われる可能性を考慮してその情報を伝えなかったのでしょうか?」
と世津奈が問うと、由紀子が黙ってうなずく。
「ひぇ~、夫婦の間なのに、厳しいっすね」
コータローが驚く。
「私がその情報を知らなくても、ブルーアースは劉麗華経由で栗林からその情報を手に入れている」
由紀子が言う。
世津奈は、栗林が小河内ダムで劉麗華に渡したのは、その情報だったのだろうかと考える。しかし、そうだとすると、情報はブルーアースに伝わっていない可能性が高い。
「それは、どうでしょう? 劉麗華さんは、小河内ダムで何者かに射殺されました」
由紀子の表情が一変する。
「つまらないウソを言わないで!」
「ウソではありません。私の目の前で、頭を撃ちぬかれて亡くなりました」
「それなら、なぜ、目撃者のあなたがこうして生きているの?」
「私は麻酔薬を塗った矢を射こまれて気絶させられました。なぜ殺されずに済んだのか、私にもよくわかりません」
コータローが控えめな口調で割って入る。
「劉麗華さんを殺した連中は、宝生さんを日本の警察関係者かもしれないと心配したのかもしれないっす。いくら過激な連中でも、警察官殺しはためらうでしょう」
「それは、ありうるわね」
世津奈はもっともだと思いながら答える。
「あの大事な情報がブルーアースには伝わらず、ブルーアースを出て行った過激派にだけ伝わっている」
そうつぶやいた由紀子の顔からみるみる血の気が引いていく。
「今、『あの大事な情報』とおっしゃいましたね。由紀子さんは、それが少なくとも『何についての情報なのか』はご存じなのですね」
由紀子が固い表情で答える。
「過激派が知りたがっているのは、高濃度放射性廃棄物を積んだ『海洋資源開発コンソーシアム』の調査船が日本海溝に向けて出港する日時と場所よ」
世津奈とコータローは、はっとして顔を見合わせた。