13.緊急呼び出し

文字数 1,071文字

「コー君は、はじめ、この調査は、実在するREBの機密漏洩を調べると見せかけて、REBが実在しない事実が漏れていないかを調べているのではないかと言ってたよね」
「はい」
コータローがうなずく。
「それは、つまり、選挙用にでっち上げたREBが、選挙前にフェイクだとバレると困るから、真実を漏らそうとしてる人間がいないか調べるってことね」
「そうです」
「それは、私たちに対して失礼じゃない。コー君が言う通りだとしたら、『海洋資源開発コンソーシアム』は、私たちに本当の目的を隠して調査を発注したことになる」

「失礼なんて事じゃ済まないっすよ。ボクの推理が当たっていたとしますよ。ボクらが真実を告発しようとしている人間を突き止たら、それは、政府が国民をだますのに一役買う事になっちゃうんです」
「それは、気分が悪い。いくらお金をいただいても、私と同じ国民をだます手助けなんか、したくない」

「それが、まっとうな人間の考え方です。『海洋資源開発コンソーシアム』は、うちの社長がまっとうな人間だと思ったから、ウソをついたんすよ」
「栗林研究員の身柄を東光物産の保安部が確保したのも、この調査が内部告発者探しだと考えると納得できるわね」
「宝生さん、この話を社長にしましょう。そして、この調査をキャンセルしてもらうんです」
 世津奈は、調査費を追加請求できると言って喜んでいた高山の顔を思い出した。コータロー説に確固たる証拠が見つからない限り、今はお金に関心が向いている高山を説得するのは無理そうな気がする。

 その時、室内の固定電話がレトロなジリジリ、ジリジリという音を立てた。世津奈とコータローは顔を見合わせる。世津奈が受話器を取った。
 受話器から高山社長のソプラノが飛び出してきた。
「宝生ちゃん、あーたたち、緊急出動。うちの会社が信用失墜しかねない、どえりゃーことになっちゃった。これからあたしがクルマで迎えに行くから、マンションの玄関で待ってらっしゃい」
「社長、いったい何があったんですか?」
「詳しいことは、クルマの中で話す。それより、あたしは、頭に血が昇って、焦ってる。そんなあたしを待たせたりしたら、クビよ、クビ。玄関ロビーじゃなくて、外に出て待ってらっしゃい、いいわね」
 とまくしたて、高山は、一方的に電話を切った。

「宝生さん、どうしたんすか?」
「緊急呼び出し。社長みずから、クルマで迎えに来てくださるって。だから、玄関の外で、真夏の陽射しに焦がされながら待ってなさいって」
「ふぇ~」
コータローが肩を落とした。
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登場人物紹介

宝生世津奈

2年前まで、警視庁生活安全部・生活経済課で産業スパイ事件を担当していた。警察が自らの権威を守るために過ちを認めようとしない姿勢に嫌気がさして警察を辞め、民間で産業スパイ案件を調査する「京橋テクノサービス」に転職してきた。

小柄で骨太だが、身体に占める手足の比率が高いので、すらっとしたモデル体型に、見えなくもない。

穏やかだが、肚が据わっていて、いざとなると、思い切った行動がとれる。

受験に数学のない私大出身の純・文系なので、実は、科学には、あまり強くない。

コータロー(菊村 幸太郎)

「京橋テクノサービス」で、世津奈とバディを組んでいる。

一流国立大学の数学科を卒業、同じ大学の大学院で応用数学の修士号を取り、さらに数量経済学の博士課程に進んだが、そこで強烈なアカデミック・ハラスメントにあい、引きこもりとなって2年間を過ごす。親戚の手で無理やり家から引きずり出されて、「京橋テクノサービス」に入社させられた。

頭脳明晰だが、精神年齢が幼い。普段は「ヘタレ」なのだが、時々、思い切った行動に出て、世津奈をハラハラさせる。IT、メカの操作、自動車の運転に優れている。

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