38、玲子、尾行される
文字数 2,053文字
由紀子が取調室を後にした。世津奈はポケットからスマートフォンを取り出し、玲子のツイッターアカウントにアクセスする。
玲子の最新のツイートに対して世津奈は「おおぉ、そぉ~なんですね」というDMを送る。これは情報交換のためにバー・マーロウで会おうという暗号だ。
世津奈は、すぐに京橋テクノサービス本社を出て、バー・マーロウに向かった。九鬼から店の合鍵を預かっている。九鬼と玲子は留守だったが、世津奈が予想したより早く帰ってきた。玲子はひどく不機嫌な様子だ。
世津奈は、玲子に何があったのかと尋ねはしない。由紀子を取り調べて得た情報を事務的に九鬼と玲子に伝える。
「栗林由紀子が研究していた放射線を食べる極限環境微生物とREBが密接に関係していると考えられるな」
九鬼が言う。
「私は、由紀子さんはREBが彼女が研究していた極限環境微生物に取って代わるのを防ぐためにREBを否定したのだと考えています」
「なぜ、REBが由紀子が研究していた極限環境微生物に取って代わってはいけないわけ?」
それまで黙っていた玲子がはじめて口を開く。
「由紀子は放射線無害化生物の第一発見者という名誉が欲しいのではないか」
九鬼が言う。
「その可能性はあります。ですが、由紀子さんは研究者の道を捨てています。それでいて、科学者としての名誉にこだわるかどうか、疑問です」
「じゃ、由紀子の狙いは何だと思うの?」
玲子が世津奈に尋ねる。
「まだわかりません。ですが、私は、由紀子さんはREBに個人としてではなく、何らかの組織の一員としてかかわっていると感じています」
「その組織に敵対する組織が劉麗華を殺害し、由紀子を拉致した。お前さんは、そう考えているのだな」
「はい。私の新発見は以上です。また新しい事実がわかったら、ご連絡します」
バーから出ようとする世津奈を九鬼が呼び止める。
「待ってくれ。実は、我々からお前さんに頼みたいことがある」
「それは、他に手段が見つからない時にその人に頼む約束だったじゃない!」
玲子が九鬼に食ってかかる。
「俺は、彼女に頼むのがベストだと考えている」
九鬼が玲子を抑えつけるように言う。
世津奈は、父と娘のゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だと思いつつも、「何でしょうか?」と九鬼に尋ねる。
「お前さんに、玲子の情報源と会って文書を受け取ってもらいたい」
世津奈は驚く。探偵が自分の情報源を他人に明かさないのと同じく、玲子のようなフリーランスのジャーナリストも自分の情報源は秘匿するはずだと思うから。
案の定、玲子が九鬼にくってかかる。
「私は、そのオンナを私のネタ元に合わせたくないと言った。私に、何度同じことを言わせるつもり?」
「今さら、何をこだわっている? もう、俺がお前のネタ元に会っているのだぞ」
「会わせるつもりはなかった」
玲子が顔をしかめる。
「何があったのですか?」
世津奈は九鬼に尋ねる。
「私がドジをふんだの。ネタ元に会いに行く時、尾行されていた。そして、尾行されている私を別の人間が尾行していた」
九鬼ではなく、玲子が答える。
「もう一人の尾行者が、九鬼さんだったのですね」
「そうだ。俺は玲子が危険な領域に足を踏み入れていることを知った。だから、玲子を守るためにこっそり後をつけていた。すると、他に、玲子を尾行している男がいた」
「その尾行者は、玲子さんの命を狙っていたのですか?」
「いや、奴には玲子を殺せるチャンスが何度もあったが、動こうとしなかっ。だから、その男の狙いは玲子を殺すことではなく、玲子と会う人間を確かめることだと気づいた。そこで、俺が出て行って、奴を気絶させた。玲子は俺を追い返そうとしたが、その前に、玲子の情報源がやってきた」
「それで、二人は会ってしまったの」
玲子が苦々しく言う。
「あの時は、俺が飛び出すのが間に合って、お前の情報源は正体をつかまれずに済んだ。だが、お前はこれからも尾行される。お前の情報源がお前と会っていると、正体をつきとめられる危険が大きい。俺も、あの時気絶させた男に顔を見られたかもしれない。お前の情報源の安全のためには、お前でも俺でもない人間がコンタクトすべきだ」
「それが、この女ってわけ?」
玲子が憎らしそうに世津奈を見る。
「宝生は優秀な警察官だった。そして、腕のいい探偵だ。彼女に任せるのがベストだ」
玲子が不服そうにうなずく。
「私も、私が玲子さんの情報源と会うのが安全だ思います。さらにもう一工夫付け加えると、情報源をより安全に守れると思います」
「もう一工夫? どういうこと?」
玲子が疑わしそうな目で世津奈を見る。
「誰も情報源がジャーナリストと密会していると思わない場面で、私が情報源と接触するのです。情報源にはご家族がいますか?」
「情報源は結婚していてい、妻がいる。子どもはいない」
「では、彼が奥さんと一緒の時に、私が接触しましょう」
「えっ、どうやって?」
「どうするんだ」
玲子と九鬼が同時に尋ねてくる。
「私に考えがあります」
世津奈は九鬼と玲子に微笑んでみせた。
玲子の最新のツイートに対して世津奈は「おおぉ、そぉ~なんですね」というDMを送る。これは情報交換のためにバー・マーロウで会おうという暗号だ。
世津奈は、すぐに京橋テクノサービス本社を出て、バー・マーロウに向かった。九鬼から店の合鍵を預かっている。九鬼と玲子は留守だったが、世津奈が予想したより早く帰ってきた。玲子はひどく不機嫌な様子だ。
世津奈は、玲子に何があったのかと尋ねはしない。由紀子を取り調べて得た情報を事務的に九鬼と玲子に伝える。
「栗林由紀子が研究していた放射線を食べる極限環境微生物とREBが密接に関係していると考えられるな」
九鬼が言う。
「私は、由紀子さんはREBが彼女が研究していた極限環境微生物に取って代わるのを防ぐためにREBを否定したのだと考えています」
「なぜ、REBが由紀子が研究していた極限環境微生物に取って代わってはいけないわけ?」
それまで黙っていた玲子がはじめて口を開く。
「由紀子は放射線無害化生物の第一発見者という名誉が欲しいのではないか」
九鬼が言う。
「その可能性はあります。ですが、由紀子さんは研究者の道を捨てています。それでいて、科学者としての名誉にこだわるかどうか、疑問です」
「じゃ、由紀子の狙いは何だと思うの?」
玲子が世津奈に尋ねる。
「まだわかりません。ですが、私は、由紀子さんはREBに個人としてではなく、何らかの組織の一員としてかかわっていると感じています」
「その組織に敵対する組織が劉麗華を殺害し、由紀子を拉致した。お前さんは、そう考えているのだな」
「はい。私の新発見は以上です。また新しい事実がわかったら、ご連絡します」
バーから出ようとする世津奈を九鬼が呼び止める。
「待ってくれ。実は、我々からお前さんに頼みたいことがある」
「それは、他に手段が見つからない時にその人に頼む約束だったじゃない!」
玲子が九鬼に食ってかかる。
「俺は、彼女に頼むのがベストだと考えている」
九鬼が玲子を抑えつけるように言う。
世津奈は、父と娘のゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だと思いつつも、「何でしょうか?」と九鬼に尋ねる。
「お前さんに、玲子の情報源と会って文書を受け取ってもらいたい」
世津奈は驚く。探偵が自分の情報源を他人に明かさないのと同じく、玲子のようなフリーランスのジャーナリストも自分の情報源は秘匿するはずだと思うから。
案の定、玲子が九鬼にくってかかる。
「私は、そのオンナを私のネタ元に合わせたくないと言った。私に、何度同じことを言わせるつもり?」
「今さら、何をこだわっている? もう、俺がお前のネタ元に会っているのだぞ」
「会わせるつもりはなかった」
玲子が顔をしかめる。
「何があったのですか?」
世津奈は九鬼に尋ねる。
「私がドジをふんだの。ネタ元に会いに行く時、尾行されていた。そして、尾行されている私を別の人間が尾行していた」
九鬼ではなく、玲子が答える。
「もう一人の尾行者が、九鬼さんだったのですね」
「そうだ。俺は玲子が危険な領域に足を踏み入れていることを知った。だから、玲子を守るためにこっそり後をつけていた。すると、他に、玲子を尾行している男がいた」
「その尾行者は、玲子さんの命を狙っていたのですか?」
「いや、奴には玲子を殺せるチャンスが何度もあったが、動こうとしなかっ。だから、その男の狙いは玲子を殺すことではなく、玲子と会う人間を確かめることだと気づいた。そこで、俺が出て行って、奴を気絶させた。玲子は俺を追い返そうとしたが、その前に、玲子の情報源がやってきた」
「それで、二人は会ってしまったの」
玲子が苦々しく言う。
「あの時は、俺が飛び出すのが間に合って、お前の情報源は正体をつかまれずに済んだ。だが、お前はこれからも尾行される。お前の情報源がお前と会っていると、正体をつきとめられる危険が大きい。俺も、あの時気絶させた男に顔を見られたかもしれない。お前の情報源の安全のためには、お前でも俺でもない人間がコンタクトすべきだ」
「それが、この女ってわけ?」
玲子が憎らしそうに世津奈を見る。
「宝生は優秀な警察官だった。そして、腕のいい探偵だ。彼女に任せるのがベストだ」
玲子が不服そうにうなずく。
「私も、私が玲子さんの情報源と会うのが安全だ思います。さらにもう一工夫付け加えると、情報源をより安全に守れると思います」
「もう一工夫? どういうこと?」
玲子が疑わしそうな目で世津奈を見る。
「誰も情報源がジャーナリストと密会していると思わない場面で、私が情報源と接触するのです。情報源にはご家族がいますか?」
「情報源は結婚していてい、妻がいる。子どもはいない」
「では、彼が奥さんと一緒の時に、私が接触しましょう」
「えっ、どうやって?」
「どうするんだ」
玲子と九鬼が同時に尋ねてくる。
「私に考えがあります」
世津奈は九鬼と玲子に微笑んでみせた。