十八

文字数 646文字

 孔子が()の国に行った時、狂接興(きょうせつよ)がその宿舎の門前で遊び、鼻歌をうたった。

 (ほう)よ、鳳よ。お前の徳も衰えたものだよ。
 来たるべき世を待つよしもなく、過ぎた世は追うすべもない。

 天下に道が行なわれる時は、聖人はその手助けもしよう。
 天下に道が行なわれない時は、聖人もただ生きながらえるほかない。

 今の世にあっては、刑罰を免れるのが精一杯だ。幸福は鳥の羽より軽いのに、誰もこれを手にのせようとしない。
 不幸は大地より重いのに、誰もこれを避けようとしない。

 やめよ、やめよ。徳をもって人に臨むことを。
 あやういかな、あやういかな、礼儀をもって人を縛ろうとすることは。

 迷陽(いばら)よ、迷陽よ。わが歩みを妨げることはない。
 わが歩みは直行せず、曲がりくねるがゆえに、わが足を傷つけることはない。

 山の木は、なまじ有用のために、われとわが身を焼くものだ。

 (かつら)の木は、その根が食用となるために切られる。
 (うるし)の木は、塗料となるために切られる。

 人はみな有用の用を知ってはいるが、無用の用を知る者はいない。

 ── 鳳は、あの大鵬だろうか。懐かしい。
 徳は衰えたか。

 先日、ラジオで谷川俊太郎が「今は、未来がないような時代ですね」と言っていた。
 そう、もう未来はないのかもしれない。

 あったとしても、あまり見たくない未来なのかもね。
 見たくない未来は、「ない」も同然だ。

 有用に、捉われすぎたかな。

 無用の用── なんと素晴らしい用だろう!
 それこそ、俺の知りたいものだよ。
 体得したい、身をもって、ものにしたいものだよ。
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