文字数 566文字

 ヒグラシと小鳩は、この大鵬のありさまを見て、嘲笑ったように言う.

「われわれは勢いよく飛び立ち、ニレやマユミの木を目掛けて突進しても、時には届かず、地面に叩きつけられることがある。それなのに、九万里の空に上り、南をさして行くとは、途方もないことではないか」

 だが、近郊の野に出掛けるものは、三度の食事をするだけで帰ってきても、腹のすくことはないだろうが、百里の地へ出掛けるものは、前夜から米をついて準備しなければならず、千里の地へ出掛けるものは、三ヵ月も前から食料を集めておかなければなるまい。

 とするならば、ヒグラシや小鳩などに、大鵬の心を知ることがどうしてできるであろうか。

 ── 大鵬の心。ヒグラシや小鳩に、知ることはできない。鵬がいることは知っている。が、その心は知れない。

 何しろ、形態が違う。身体のなりたちが違う。労苦も違う。まるで、すべてが違う。同じ、生物とは到底思えない。

 それは認めよう。あれは、別世界の生物だ。同じ、この地球に生まれたはずなのに、ちがう生き物だ。

 認めよう。それは認めよう。でもヒグラシ君、小鳩ちゃん。きみらは、同じような大きさで、同じような生活をしているが、でもほんとうに、それで心が知れているのかな。

 とするなら、あの大鵬の心も、ミミズの心も、おたまじゃくしの心も… 僕には同じに見えるなあ!
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