三
文字数 869文字
「天下を治める道を、おうかがいしたいと思います」
すると、無名人は答えた。
「さっさと行くがよい。お前は卑しい人間だ。何という不愉快な質問をするやつだろう。わしはこれから造物者のところへ行って、友だちになろうとしているところだ。
それにも飽きたら、今度はまた、あの果てしない大空のかなたを飛ぶ鳥の背にのり、宇宙の外に出て、物一つない
それなのに、お前はまた何か得意な芸でもあって、それで天下を治めようとし、わしの心を揺り動かそうとするのか」
しかし、天根はそれでも断念しないで、再び無名人に尋ねた。
無名人も、やむなく答えた。
「お前の心を、欲望にわずらわされない淡白の境地に遊ばせ、お前の気を静まり返った
すべて物の自然に従うようにし、私意をさしはさむことがないようにせよ。このようにすれば、天下は自然に治まるようになるだろう」
── 無名人とは、隠者のように生きた荘子のことかと想像する。
また、このお話も「天下を治めるには?」から始まって、「無為自然」の荘子の思想を説いている。
天下… よく織田信長などの戦国武将が「天下を獲る!」とか言っていたが、そんな意味での「天下」はとっくに死語だから、今に引きつけてみれば──
刹那的な、たとえばSNSでバズるとかランキングで1位になるとか、「他と比べ、それより上に行く」ことで「余は満足じゃ」となる場合が少なくない気がする。
YouTuberに憧れる人も多いらしいし、さしずめ「ネットで天下を獲りたい」か。
しかし荘子、パッと見は現実離れしたことを書いているように見えるが、ぼくには
現実をつくるものを現実に書いた「荘子」。これを見ている自分は、その現実を見ている…
「そんな考えなさんな」荘子に、そう言われる気がする。
… あなただって、いっぱい考えたくせに。