文字数 1,897文字

 孔子から、中国思想史は始まったと思う。偉大な父だったろうとは思う。その思想は、乱世時下のみならず、人間、斯くして生きるべし、とでもいう一つの道標を確かに築いたと思う。
 だから為政者も、国をおさめるに便利で有効な「儒教主義」として採用に値したと思う。

 そして民もまた、これを受け入れ(むしろ進んで、好んで)この儒教のもとに生活を営んできたといっていいと思う。日本人だって、この影響をかなり受けているはずだ。

 翻って、いきなり現在へ飛ばそう。
 かのプーチン大統領は、ある時「なんだ、簡単に騙せるじゃないか、人民は。チョロイもんだ」というような「手ごたえ」をもったという。

「~主義」、資本だの共産だの民主だの、そういったものの内容がいかに立派な文言で飾り立てられていたとしても、うわべだけのものに見える。
 でもうわべを立てずにいられない、それに乗っからずにはいられない・いられなかった(・・・・・・・)今までの、また今の、そしてこれからの人間のことを思う。
 ── 続けよう。

 孔子は、さらに言葉を続けた。
「私の聞いていることを、もう少し言わせてもらおう。
 およそ人の交際というものは、近くにいる時は、必ず直接にその誠意で相手を心服させることができるものだが、遠くにいる時には、どうしても言葉を通じて真意を通じさせなければならない。

 その場合、言葉というものには、それを伝える人が必要になる。
 ところが、双方ともに喜んでいる時の言葉や、双方ともに怒っている時の言葉を伝えることは、とても難しいことなのだ。
 なぜなら、双方ともに喜んでいる時は、どうしても褒めすぎの言葉が多くなるし、双方ともに怒っている時は、悪く言いすぎる言葉が多くなるからである。

 すべて誇張した言葉には真実味がない。真実味がなければ、信用が薄くなる。
 信用が薄くなると、その言葉を伝える使者が災いを受けることになる。だから格言にも『ありのままを伝えて、誇張した言葉を伝えなければ、まず安全だ』とある。

 また、技を競って勝負をする者は、初めは陽気で楽しそうであるが、終わりになると陰険な悪意を持つようになるのが常である。
 というのは、興に乗りすぎると、どうしてもいろいろな奇手を出そうとするからだ。

 すべて世の中のことも、これと同様である。
 初めは上品に振る舞っていても、終わりになると必ず下品で卑しくなり、初めは簡素にしていた者が、終わりに近づくと必ず大袈裟になるものだ。
 だから、すべて終わりまで気を緩めないことが大切である。

 また、人間の言葉というものは風や波のように、揺らぎ易く定めのないものであり、人間の行為というものは、真実味を失い易いものだ。
 風波のように定めのない言葉は変動し易く、真実味を失った行為は危険を招き易いものである。

 だから、人と人との間に怒りが生ずるのは、ほかでもなく、うますぎる言葉や、一方に偏った言葉によるのである。
 (けもの)が今にも死のうとする時には、泣き声のよしあしを選ぶひまもなく、息づかいも荒々しく、あらん限りの憤怒の心を生ずるものである。

 人間も同じで、あまりに厳しく追い詰められると、よくない心を起こして反抗するようになり、自分でもなぜそうなるのか、わからないほどになってしまう。
 もし自分でも、わけがわからないほどになってしまえば、しまいには何を仕出かすか分かったものではない。
 だから格言にも『君主の命令を勝手に変えてはならない。むりに成功させようと細工してはならない』と言っている。

 言葉が度を過ぎるようになるのは、要らない付け加えをするからである。
 君主の命令の言葉を変えたり、成功させようとして細工することは、かえって事を危なくさせるだけだ。

 成功には長い時間がかかるが、失敗が現われるのは早く、改める暇もないほどだ。気をつけなければならない。

 すべて、物事のなりゆきのままに身を乗せて、心を労することなく自由に遊ばせ、やむにやまれぬ必然の運命のままに身を委ねて、自然のままの中正の道を養うようにすれば、それが最上の道である。

 何事かを行なって、よい結果を得ようなどと思ってはならない。
 ただひたすら、天命のままに従うのが、いちばんよい。これは、たやすいようで、実は難しいことだ」

 ── 最後のほうになって、やっと「荘子」らしくなったかに見える。
 それに、そんな道徳的なことを言わず、この人生相談者に寄り添ったような、適格なようなアドバイスを送っていると思える。

 いいことを言っている。
 いかに生きるべきか、自分がその土台のようなものを求めていたから、この文面を何回か繰り返し読んで、ははあ!となった。
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