八
文字数 895文字
「
これから参ります斉の国では、使者をひどく丁重に待遇してくれるでしょうが、要求を急に聞いてくれることはないと思います。
ただの人間を相手にしても、説き伏せることは難しいのに、相手が諸侯では、なおさらのことです。
それで、私もたいへん心配している次第です。
ところで、いつか先生は私に次のような話をされました。
『およそ物事は、それが大事であれ小事であれ、道に外れた方法でうまくいくというのは
もし、そのことがうまくいかなければ、必ず人の怒りを買う心配があるし、反対に、うまくいった時でも、心労のために病気にかかる心配がある。
だから、成功するとしないとに関わらず、あとに何の心配も残さないというのは、ただ有徳者だけにできることだ』と。
私は、粗食を主義としておりまして、立派な料理は作りませんから、炊事も至って簡単にすみ、熱気にあてられて涼をとる召使いもおりません。
ところが今朝になって使者の命を受けましたところ、夕方には氷が欲しくなって飲むという始末です。
これは心労のために身体の内に熱があるせいかもしれません。
まだ実際の仕事に取り掛からないうちに、早くも心労のために病気が出ているのです。
もしこのことがうまくいかなければ、きっと主君の怒りを買うという心配がありましょう。
これでは、一度に二つの災いを受けることになります。
臣下の身分にある私としましては、とてもやりきれたものではありません。どうぞ、よいお考えがありましたら、お教え願いたいと存じます」
── 人生相談。
「荘子」の後の篇に、「責任ある立場に立ってはいけない」とあったが、この相談者にそんなことを言ったところで、身も蓋もない。
また、「不安と心配は想像することから生まれる」などと言っても、やはり何の役にも立たない。
「あなたは好きで、自分から不安になっているのだ」など、口が裂けても言えまい。
さて、この荘子の描く孔子は、どのような返答をされるのか。あまり期待しないで、続けていこう。