文字数 895文字

 葉公(しょうこう)子高(しこう)が、(せい)の国に使者になって行こうとする時、孔子に意見を求めて言った。

楚王(そおう)は私に、たいへん重い使命を与えられました。
 これから参ります斉の国では、使者をひどく丁重に待遇してくれるでしょうが、要求を急に聞いてくれることはないと思います。

 ただの人間を相手にしても、説き伏せることは難しいのに、相手が諸侯では、なおさらのことです。
 それで、私もたいへん心配している次第です。
 ところで、いつか先生は私に次のような話をされました。

『およそ物事は、それが大事であれ小事であれ、道に外れた方法でうまくいくというのは(まれ)だ。
 もし、そのことがうまくいかなければ、必ず人の怒りを買う心配があるし、反対に、うまくいった時でも、心労のために病気にかかる心配がある。
 だから、成功するとしないとに関わらず、あとに何の心配も残さないというのは、ただ有徳者だけにできることだ』と。

 私は、粗食を主義としておりまして、立派な料理は作りませんから、炊事も至って簡単にすみ、熱気にあてられて涼をとる召使いもおりません。
 ところが今朝になって使者の命を受けましたところ、夕方には氷が欲しくなって飲むという始末です。

 これは心労のために身体の内に熱があるせいかもしれません。
 まだ実際の仕事に取り掛からないうちに、早くも心労のために病気が出ているのです。
 もしこのことがうまくいかなければ、きっと主君の怒りを買うという心配がありましょう。
 これでは、一度に二つの災いを受けることになります。

 臣下の身分にある私としましては、とてもやりきれたものではありません。どうぞ、よいお考えがありましたら、お教え願いたいと存じます」

 ── 人生相談。

「荘子」の後の篇に、「責任ある立場に立ってはいけない」とあったが、この相談者にそんなことを言ったところで、身も蓋もない。

 また、「不安と心配は想像することから生まれる」などと言っても、やはり何の役にも立たない。
「あなたは好きで、自分から不安になっているのだ」など、口が裂けても言えまい。

 さて、この荘子の描く孔子は、どのような返答をされるのか。あまり期待しないで、続けていこう。
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