自閉症児への特別支援教育

文字数 2,226文字

 自閉症の特性を踏まえ、自閉症者のライフステージに応じて必要な支援を、教育を中心に考察する。

幼児期

 自閉症の原因論・原因仮説として、従来は後天的な心因説・心因論が強く、日本の特殊学級でも情緒障碍と混同されていたが、現在では先天的な脳障碍説(言語・認知障碍説)が有力になっている。そのため、親・育児方法・家族関係などの生育環境が自閉症の原因ではないものの、社会への適応に苦慮する摩擦の結果、併存症として二次的な障碍・精神疾患が生じる場合はあるので、適切な支援が必要である。

 自閉症(広汎性発達障碍)の特徴として、症状が低年齢で発症する事や、社会的言語理解能力・情報処理様式の相違などが指摘されている。そのため、育児において「言葉の遅れ」などの違和感を覚えた場合は、医療機関の診断を受け、自閉症を早期に把握し、保育園・幼稚園などに相談する事が望ましい。それによって、適切に配慮した療育が可能になる。養育者が子供の自閉症を否認する場合は、専門機関への相談も考えられる。

 養育者の中には、我が子が「障害者」と認定される事に対して、強い躊躇・反発を抱く方もいる。実際に筆者の周囲でも、そうしたケースが見られた。しかしながら、適切な支援を実現し、ウツ病や虐待などの事態を防止するためにも、保護者には「自閉症を受け入れる」姿勢が必要である。仏教に慈悲(楽を与え苦を除く)という言葉があるが、自閉症を認識する事によって、子供の得意・不得意を理解し、個性を開花させ、結局は親子双方の負担軽減・福利向上につながる。「障害」というネガティブなイメージに躊躇するのは、親として自然な心理かも知れないけれども、決して健常児に比べ劣っているのではなく、むしろ子供の人権を尊重・擁護し、掛け替え無き我が子の大切な生涯を、丁寧に応援するための前向きな機会として、自閉症を受け入れる事が望まれる。

児童期・学童期

 自閉症児の中には、基礎的な読み書き水準に大きな問題が見られなかったり、むしろ健常児より機械的情報処理に優れている場合もあるので、通常学級でもある程度の適応が可能な子供もいる。しかし、適応が困難な場合は、イジメや不登校(登校拒否)の問題が発生してしまう恐れもある。また、かつて自閉症が広義の情緒障碍に含まれていた経緯が示唆するように、他の精神障碍を併存している場合もある。そのため就学に際しては、子供の特性に充分な配慮ができるよう、特別支援教育の活用を検討すると良い。

 我が国では戦後、教諭や保護者の運動もあり、自閉症児を対象とする特殊学級の設置が実現した。また、原則して普通学級に在籍しながら、定期的に個別・少人数指導で特支教育を受ける通級指導教室の制度もあり、通常学級と特支教育の併用方式として希望者が多く、増加傾向にある。自閉症児への専門的支援が最も充実しているのは養護学校であり、特に卒業後の自立に向けた、社会的支援を見据えた高等部への進学が多い。自閉症児が通常学級に入学した場合、学校行事などの授業内容に不適応を感じたり、教諭の側も自閉症教育の経験に慣れていない事があるので、支援員の配置などが模索されている。

 このほか、自閉症児と健常児を分離しない統合教育を目指す私立学校もある。近年は『障碍者権利条約』(2006)などの影響で「障碍者を包容する教育」「合理的配慮」に基づく共生社会が謳われているが、そうした理念が自閉症児への支援に結実している学校を見定める必要がある。例えば星槎国際学園は、早くから不登校・発達障碍などの特別支援教育に取り組んでいる私学グループである。

 児童・生徒の中には、仲間外れの者を攻撃する集団心理が生じる場合もあり、あろう事か学校側がイジメを放置・隠蔽する不祥事件も発生している。子供を不当な人権侵害から守るためにも、学校選択は慎重に行い、入学後に万一、何らかの被害に遭った際は可及的速やかに相談し、解決を期待できない場合は転校も検討すべき。

成人期

 自閉症は早期に発症するが、診断されるのは大学生以降という場合もある。実際に筆者が調査した事例では、中学・高校の頃から強迫観念に悩み、卒業までは「自分の集中力が足りないだけ」と思い込んでいたが、大学に入ってから病的な違和を痛感するようになり、家族に打ち明けた結果、心療内科で強迫神経症・社会不安障碍の診断を受け、退学後には発達障碍をも診断された人がいる。同氏は障碍を受け入れた事で、これまでの苦悩(症状)の原因が分かり、かえって気が楽になったと証言している。

 卒業後は、就職による自立を実現できるのが理想だが、知的障碍などの事情によっては、社会福祉施設に入所する人も多い。また、近年は就労しても離職してしまう若年者が増加しているが、自閉症者も事前に職種・労働時間・賃金など職場環境の情報を充分に吟味し、適応し易い仕事を選択したい。虐待や犯罪の防止はもちろん、やがて必ず訪れる壮年期・老年期に向けて、家族から専門機関に至るまで、相談できる社会的ネットワークを確保しておく事が、日々の安心した人生につながる。

 寺山千代子・寺山洋一『自閉スペクトラム症の展開』(金剛出版2016)

 宮澤保夫『人生を逆転する学校 情熱こそが人を動かす』(角川書店2016)

 山脇直司 編『共生科学 概説共生社会の構築のために 教育・福祉・国際・スポーツ』(星槎大学出版会2019)

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登場人物紹介

 地球研究会は、國學院高等学校地学部を母体とし、その部長を務めた卒業生らによって、2007(平成十九)年に「地球研究機構・國學院大学地球研究会」として創立された。

國學院大学においては、博物館見学や展示会、年2回(前期・後期)の会報誌制作など積極的な活動に尽力すると共に、従来の学生自治会を改革するべく、志を同じくする東方研究会政治研究会と連合して「自由学生会議」を結成していた。


 主たる参加者が國學院大学を卒業・離籍した後も、法政大学星槎大学など様々な舞台を踏破しながら、探究を継続している。

ここ「NOVEL DAYS」では、同人サークル「スライダーの会」が、地球研究会の投稿アカウントを兼任している。

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