地球世界を表現する芸術と課題

文字数 2,307文字

 昨年11月23日(土曜)に星槎学園北斗校で実施された「芸術への対話」の講義・演習を踏まえて、共生を具現化する芸術活動の事例に関して考察したいと思います。当日、私達はまず、安久津講師の研究に基づいて、現代の米国における音楽教育の事例を学び、私のテーマの一つである路上パフォーマンスなども紹介されました。

教育の過程プロセス

 この講座には大学生だけでなく、幼児教育に携わっている方々も多数参加されていたので、保育園・幼稚園・小学校・養護学校や音楽療法など、現場における音楽の活用が議論されました。その中で、音楽を含む日本の学校教育が「形」に固執しているという論点が指摘され、かつての西洋の教会を例に、自由に参加できる楽しさの再評価が提案されました。また、音楽を物理学的な音や環境・宇宙に結び付けるような総合学習のideaも示されました。後述の舞踊劇を含め、こうした論点は生田久美子氏が提唱する、知識と身体技術を結び付けた「心身合一論」的な学習活動にも通ずると思われます。

光は東方より

 続いて、実際の教育でも活用できるかも知れない実践体験として、バレエの音楽に合わせた舞踊劇の共同制作に取り組みました。この企画は、舞台であるアラビアロシア中華の世界観に、物語(ナレーション)考案とバイオリン演奏を加えた、五つの課題で成り立っています。バイオリンやダンスの指導は、一般的な大学課程ではなかなか得られない経験であり、私にとっても印象的でした。その後、それぞれの班に分かれて作品を創り上げ、私はダンス練習に立ち会い、音楽の再生タイミングをノートPCで調整したりもしましたが、元来ラノベゲーム創作に興味関心があったので、特に物語の議論には、積極的に参加させて頂きました。

 午後、別室に移動した後も、空いた時間に物語の構想を続け、黒板にシナリオ案を書き出しました。例えば、ある年のクリスマス、ある国の城に住む姫君が、東方の国にあると言い伝えられる宝物を探し求めて、星座に彩られた「天空のシルクロード」を渡って、アラビア・ロシア・中華などの地域を旅して、最後にこの世界で最も美しく大切な存在を見付ける…というストーリーなどが考えられます。

共生を具現化する芸術活動の事例

 さて、午後のゼミナールでは、講師と私を含む大学生の計6名で、それぞれのテーマを議論しましたが、その中で私は、サブカルチャーを中心に「表現の自由」を考えました。佐伯胖氏が「文化的実践への参加」、生田氏が「ケアリング」という用語を挙げているように、芸術は社会的な活動でもあり、自由を無制限に濫用するのではなく、他者に対する「配慮・関心・気遣い・共感」の意識が大切である事は、言うまでもありません。しかしながら、賛否や好悪が分かれる表現に対して、安易に規制圧力を加えるのは、自由主義の立場に基づく一般論として、慎重であるべきです。近年では、イスラム教で厳禁されている預言者肖像画がテロを招いたり、愛知「表現の不自由」展をめぐる論争などが、表現の自由に関する難しい問題を示しています。

 事例の一つは、公共空間におけるサブカルチャーへの風当たりです。私は以前、東京の公立学校において、地域ボランティアとして文化祭を手伝った事があるのですが、その際に、アニメ等のイラストを展示ポスターに活用した事が問題視され、学校側から強い抗議を受ける「事件」がありました。私としては、見学者の年齢に配慮した内容を選別していた認識だったのですが、学校側は「キャラクターがミニスカートを着用している」程度の理由だけで、当日の朝になって急遽、展示の強制撤去を求め、私が反論すると、半ば暴力的な手段で、事実上の弾圧に踏み切ったのです。本件に関しては、学校側と事前の報連相が足りなかった点では、代表者である私の責任も皆無とは言えないのですが、しかしこのような、サブカルチャーを全面排除するようなルールで、本当に創造的な「文化祭」を開催できるのか疑問です。そして今、同じような論争が、より広いスケールで引き起こされています。蜜柑(ミカン)の宣伝にアニメキャラを起用した事に対し、ミニスカートが不健全である、などの非難が殺到する事態になっているのです。しかもそれは、先述の学校文化祭で問題視されたのと同じアニメ作品でした。もちろん、批判的な意見や価値観を持つのは自由なのですが、法的な年齢制限の基準にも該当しない表現を「公共の場所で不快だから」程度の理由で封殺・萎縮させて良いのか、非常に懸念を覚えます。

▽ラブライブ・高海千歌、ついに大使に アニメで「みかん食べるー」静岡・沼津の特産(毎日新聞)

 もう一つは、路上パフォーマンスの規制問題です。私自身がインディーズ音楽家と関わっている事もあり、渋谷秋葉原などでストリート公演に参加する機会があるのですが、道路交通法に基づく規制が厳しく、合法的な活動が困難な現状になっています。しかも、規制の基準が曖昧で、通報の有無だけでなく、警察官の性格や気分によって、取り締まりが行われている印象を否定できず、公正なルール運用とは言えません。音量や面積など、一定の法の範囲内で、路上パフォーマンス活動を自由化すべきだと考えます。気に入らない表現活動を排除するのではなく、むしろ多様な「異文化」との交流を尊重し、皆が芸術を楽しみながら共生できる、自由世界を創造するべきです。卒業制作研究においても、学芸から地球世界の共生を考える予定です。ありがとう御座いました。

◆ 生田久美子『コレクション認知科学「わざ」から知る』(東京大学出版会2007)

2020/02/20

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登場人物紹介

 地球研究会は、國學院高等学校地学部を母体とし、その部長を務めた卒業生らによって、2007(平成十九)年に「地球研究機構・國學院大学地球研究会」として創立された。

國學院大学においては、博物館見学や展示会、年2回(前期・後期)の会報誌制作など積極的な活動に尽力すると共に、従来の学生自治会を改革するべく、志を同じくする東方研究会政治研究会と連合して「自由学生会議」を結成していた。


 主たる参加者が國學院大学を卒業・離籍した後も、法政大学星槎大学など様々な舞台を踏破しながら、探究を継続している。

ここ「NOVEL DAYS」では、同人サークル「スライダーの会」が、地球研究会の投稿アカウントを兼任している。

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